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金色の月姫  作者: 藤の花
蒼き竜の雷
66/79

弐-拾捌

――――


静寂の中苦しみながら、呻き声をあげていた。

その瞳は闇の色。心まで染まってしまったかの様に輝きはない。しかし頬には、大粒の涙が流れ落ちていた。


まるで………運命に抗うかの様に。

解けない呪縛。蝕まれる体。胸が痛い。

引きちぎれそうなくらいに。息が出来ない。喉を絞められているのではないのか。


苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

こんな思いするくらいなら、いっその事死んでしまった方が楽なんじゃないかとさえ思えてくる。

「誰か助けて。」言葉にならない叫びをする今日もした。



これは誰の記憶?




―――――――――――――




「姫、、姫、、、、」

「ううぅん、、、。お、、朧?」


目を開けるとずぶ濡れになった朧がいた。千鶴もずぶ濡れだった。


「ここは?」


澪菜は朧に抱きかかえられる様に川岸に横たわっていた。

水を少し飲んだのか、まだ少し息苦しい。コホッコホッと咳が出る。

私何してたんだ?起きたばかりなので、上手く頭が回らなかった。


「よかったです。突風に当てられ、川に流されたんです。東宮様に来て頂けたので。」

千鶴はボロボロと泣き出した。




突風、、、竜、、、

見えてなかったんだった。ボンヤリした頭が徐々にハッキリしていった。


「そうだ!!竜!!竜ちゃんも流されていたんだ!」

周りをキョロキョロ見ても、竜ちゃんの姿は見あたらなかった。


「お身体に触ります。お願いします!動かないで下さい。」

「私は大丈夫だから、そんな事より「そんな事じゃない。」


澪菜の言葉を遮るように、朧は声を荒げた。

びっくりして朧の顔色をうかがうと、朧は深くため息をつき、「あぁ。」と一言だけ答えた。



最近私が朧に当たりちらして、我が儘ばっかり言ってたから怒っている?


「ごめんなさい」

「何に怒ってるかわかるかい?」



「あ、わ、が、勝手な行動したり我が儘言ったり、した、から?」


朧はもう一度深くため息をついた。

何に怒っているのか分からず、軽くパニックになってしまった。「我が儘言ったりしないから、嫌いにならないで」

と言いながら今にも泣き出しそうになる。



朧はピリッとした顔からいつものフンワリした顔に戻った。

「嫌いになんてならない。あんなの我が儘のうちに入らないよ。どっちかと言うならもっと我が儘を言ってもいいと思うし。ただ、」


「ただ」その後に続く言葉を聞くのが怖かった。


「姫は自分の命を蔑ろにしすぎだ。どうして少し目を離すといつも危ない目に会うんだ。」

「………。」

「人を慈しめるのは姫の良い所だよ。だからこそもっと自分を大事にしなさい。あなたが傷つくと悲しむ者もいるんだよ。」

澪菜をギュッと抱き寄せる。生きている事を確かめるようにすっぽりと朧の胸の中に収められた。朧の心音が少し早くなっていて朧の手が少し震えている様に感じた。



「ありがとう。」

ごめんではなく、ありがとうと自然とでた。胸の奥がくすぐったい。澪菜は朧の手に触れると照れるように微笑んだ。


「羨ましいですわ。仲むつまじくて!!」

「え!?」


仲を割って入る声がした。振り返るとニマニマしながら、菫が二人を観察していた。



「ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったんですが、あまりに羨ましコホン」

「菫姫戻られたのでは?」


朧が不思議そうに訪ねる。


「いえ、息子が拾い物を。もしかして貴方様のではないかと。」



菫は大事そうに抱いている物を差し出す。澪菜は起き上がり、受け取った。


「竜ちゃん!!」

「息をしてますので、気を失っているだけだと思います。」



そっと触れて見ると、小さく呼吸をしているのがわかった。よかったと澪菜はぎゅっと抱きしめた。



「有り難う御座います。菫姫様。」

「菫でいいわ。」

「でも。」

澪菜とは違って本家本元の姫様なのに。


「そんな事言ったら、私が澪菜ちゃんって呼ぶ方が恐れ多いですのよ。女御様。同じ年頃の姫様と友の様に仲ようしたかったのですが、厚かましいですか?」


寂しげに語る菫の言葉に澪菜は嬉しかった。


――友達――


「菫ちゃんさっきはごめんなさい。ひどい態度とって。」

「気にしなくていいですわ。私もさっき余りに可愛らしくて、意地悪しちゃいましたから。」


テヘッと舌を出し可愛く笑う。

――ん?意地悪――――なんかされたっけ?



菫の後ろから、ひょこっと小さな男の子が顔を出した。


「母様、子犬の御主人様見つかりましたか?」

「えぇ。」


男の子はパァッと笑顔になった。母様?そういえばさっき、さらりと息子とか言ってた様な。



「ほら、時久ときひさご挨拶なさい。父様がお世話になっている、東宮様と女御様ですよ。」


菫に背中を押され、男の子は前に出て来た。

「初めまして。橘家嫡男時久です。父がお世話になっています。よろしくおねがいいたします。」

「初めまして。澪菜です。」


聞くと時久は御歳六歳。六歳ってこんなにしっかり話せるものなのか思った。

ん?橘家?時久?時……?


「まさか!!」

「はい。時頼の奥です。」


澪菜は口をあんぐり開けて菫を見ると、クスクス笑っていた。凛とし、母であり奥である表情を示す。

やっぱり!!時頼さんの奥さん!!


「だから、東宮様とは何にもないから安心して下さい。やきもちやかせてご免なさいね。」

そっと耳打ちをした。



「えっやきもち!?違っっ!!」



顔を真っ赤にしながら、首をブンブン振る。

ただ、客観的に問ってみるともしかしてと思ってしまった。

このよくわからない感情は俗に言う

いいや違う!!違う?



「やっぱり可愛らしいですわ。昔の私を見てるみたいで。」


「姫、そろそろ屋敷に戻るとするよ。」

「えっ?」

「こんなんだし、夏と言えど風邪を引くよ。姫も今日は休みなさい。」



着物の裾を絞りると、ボタボタと水滴が落ちる。

いつもなら、準備しているだろうが、勢いで出て来たので、着替えを持ってきていなかった。




「ごめんなさい……」

「無事ならそれでよい。船下りはまた来ればいいんだし。」


くしゃっと頭を撫でて笑った。

菫達に別れを告げると、迎えに来た牛車で後にした。

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