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金色の月姫  作者: 藤の花
蒼き竜の雷
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弐-拾漆

バタバタと走って行く澪菜に呆気にとられ、呆然とする朧と菫。


「あれ、絶対勘違いしてますわ。とても可愛らしい姫様ですこと。」


懐かしむ様に澪菜の走り去った方向を眺める。菫からはくすくすっと笑みが零れた。



「勘違い…?」

「菫にもあんな時期ありましたわ。女はこういう時、追い掛けて貰いたいんですよ!」



パチンっとウインクすると川下を指差した。

朧は菫の言葉の意味を理解すると、少しは意識してくれているのかと嬉しそうに微笑んだ。


「わたしは近くに家族がおりますので、お気になさらず。早く追いかけてくださいまし。」

「菫姫。この礼は、時頼にでもつけておくよ。」

「光栄です。」


朧は菫を残し、澪菜の後を追った。



――――


はぁはぁ。全力疾走した。

動きづらい着物に、足元は小石がジャリジャリしていて走り難い。

体が鉛の様に感じた。




「澪菜様あまり走りますと、お怪我なさいます。」


千鶴も息を切らせながら、引き離されんばかりと必死に走った。それでも走り続け、朧達の姿が見えなくなると、揺ったり止まった。



「はふっ」


ここまで来れば大丈夫だろう。額から流れ落ちる汗を拭きながら空を眺める。頭上には照りつける太陽が、これでもかと輝いていた。


「暑」



ここまで来て何してるんだろう。


「千鶴ちゃん!!結紐もってる?」

「ハァハァはいハァ」

澪菜にやっと追いつき、千鶴は一安心した。息を整えながら、懐から取り出す。



澪菜は受け取ると、おもむろに着物を脱ぎだした。


「何してるんですか?」

「折角来たんだし、川でバシャバシャしようかなぁとね!」


鬢をはずし、自前の髪が出てくる。クルクルの猫ッ毛を器用に左右で束ねた。



「人目もありますので」

「コッチの方は人あんまりいないし、大丈夫だよ。」

「いえ、問題はそこでは折角来たのなら、東宮様と舟にでも…」



澪菜はむッと頬を膨らますと、千鶴を無理やり座らせた。


「千鶴ちゃんの髪縛ってあげる。ツインテールお揃いにしちゃおっか!!」

「つういんている?ですか」

「ふふ。今日はいつもと逆だね。」



サラサラな千鶴の髪をまとめていく。

左右で束ねると、いつもより少し幼くも見える。女房勤めをしている時は、いつも大人びた口調である為そんな印象を受けていたが、こう見るとやっぱり千鶴も同じ年頃の女の子なんだなと思った。



「かわいい!!」


「ありがとう御座います。けど項がスースーして」


慣れない髪型に、千鶴は顔を真っ赤にしている。

打掛を脱いで、裾を捲り上げる。


「奥まで行っちゃだめですよ!深くなってますから。」

「はーい。」



そっと川に足を浸けると、全身にヒンヤリ感が来た。

ひゃー!冷たい



「千鶴ちゃんもおいでよー!」

千鶴の手をとり、川の中に連れ出した。



「澪菜様。あまり引っ張らないで下さい。」

恐る恐るながら、千鶴も入っていく。


「この国の川は本当、透き通っていて綺麗だね。」

「澪菜様の御国は違うのですか?」

「そうだね生水は飲めないかな?」

「聞けば聞くほど月は不思議な所なんですね。」



確かに初めて平安の国に来た時は私もそう思った。風習ははっきり言って全然違うとは思う。


「月を見て美しいと感じる人の心は、変わらない。」



ただそう思わないのは、日本にいた時は、空を見上げるなんて事めったになかったからだ。大半の人はそうだろう。


空を見上げれば、太陽がいて月いる。それを眺めれば美しいと思う。

人の心は同じだ。国や世界は違えども、同じ空の下にいるんじゃないかと思う。




「桜も咲けば紅葉もある。雪も積もれば、雨だって降るしね!!」



ん………雨?

ポツリと頭に感じた。手のひらを天に目掛けて開と、ポツリポツリと雫がわかる。空を見上げると、凄まじい勢いで、雲が集まって来ていた。

どす黒い雲。全てを飲み込んでしまうんじゃないかと感じるくらい、黒々として恐ろしかった。



「千鶴ちゃん大変!!雨来るよ!!」

「雨ですか?」


千鶴は空を見上げた。澪菜はバシャバシャと急いで川岸にあがると、千鶴は不思議そうな顔で空を見上げていた。



「こんなに天気がいいのに降りますか?」



「え!!?」

澪菜は、再び空を見上げて見た。黒雲は立ち込め、空を覆い尽くしていた。不思議な顔をしながらも、千鶴も川岸にあがる。



「濡れる前に牛車に戻りましょうか。」


打掛を拾い集め、戻る支度を始めた。



千鶴ちゃんには見えてない――――!!?

黒雲達は渦を巻き、一カ所に集まっていく。その渦の中心には、鱗の様な物がキラリと光った。




「来る―――!!」そう思った瞬間目の前には、巨大な竜の姿が現れた。


澪菜の異変になにが起きているのかわからない千鶴は戸惑う。

見えてるのは私だけ?竜を見るのはこれで何度目だろう。



ただ前と違ったのは息の仕方もわからなくなるくらいに、威圧的で攻圧的な竜。

姿は変わらないのに、どうしてここまで違うんだろう。

感じた事のない恐怖だった。

澪菜は自分の足がガクガク震え出しているのがわかった。

雷鳴は轟き、蒼い縦光が続く。竜は重く低い音でうなり声をあげ、澪菜に目掛けて飛んできた。



「きゃあっ!!」

竜共々、空を舞い川に落ちる。なぎ倒される様に、澪菜は吹き飛ばされた。




バシャンッッッ――――




川は見た目より全然深い。

浮上しようともがくが、竜が絡みつく様に圧力をかけてきて、身動きとれない。強力な力に抗う事はできず、もがけばもがくほどに水中へと沈んでいった。




ゴポッ………

ゴポゴポッッッ………

―――苦しい

意識が薄れていく。



薄れていく意識と共に、竜の姿も水に溶けて行った。

「姫!!」



朧―――?の声―――――?かな呼ばれた気がした。

はっと気付き、意識が再び薄っすらと戻って来た。




――竜ちゃん?

目の前に見えたのは、朧ではなく、皐と一緒にいた竜であった。力なく、川を流されている。

竜は意識は無く、ピクリとも動かず水中に漂うだけだった。思いっきり手を伸ばし、竜を捕まえる。

まだ柔らかく温かい。生の感触がある。



竜ちゃん生きてる。頑張って!!

最後の力を振り絞り、水中で竜を抱きかかえた。覚えているのは、そこまでだった。

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