弐-拾壱
涼の所に向かう為支度を整え、牛車で向かっていた。チラリと小窓から外を覗くと、後ろから時頼はついてきていた。
気にするなと言われてもねぇ?
チラリチラリと何回も覗くけれど時頼は特に気にする様子もなく、時折眉間にシワを寄せ当たりを見回すくらいでほぼ無表情だった。
春晃の屋敷に着くと、屋敷の門の前で待ちくたびれた顔で涼が待っていた。「遅いぞー!!」とぼやきながら手を降っている。すぐさま澪菜は牛車から降りようとしたら、涼が何故か止めた。
「このまま出かけるぞ!!話は中でしよう。」
「えーー!?」
涼は牛車に手をかけ、ヒョイッと乗り込もとしている。
すると先程まで大人しく後ろを付いて着ていただけだったのに時頼が動いた。
「女御様の御車であらせられるぞ。何奴だ。」
今にも涼に斬りかかりそうな勢いだ。時頼の素早い反応に、涼も驚きが隠せなった。
「わわわっ彼は私の幼なじみだから!大丈夫です。」
「左様ですか。」
慌てて澪菜が制止すると時頼はすっと後ろに下がった。
「誰だ、アイツ?物騒な奴引き連れてるな。」
涼は牛車に乗り込むと、小窓からチラリと覗きながら聞いてきた。時頼は元の位置、牛車の少し後ろに戻りまた険しい顔をしている。下がってはくれたが目線は涼をはずさず、鞘には手を添えた間々だ。
「時頼さん。今日から、私の護衛をしてくれるみたい。」
と言っても、それくらいしか知らないんだよね。うーん
千鶴は補足する様に澪菜の言葉に続いた。
「そうですね。時頼様のお噂はかねがね聞いてますが、さすが、近衛督様。先程の俊敏な動き!!澪菜様の事を安心して任せられますね!」
うっとりしながら言う。
「まぁ、いぃ番犬がわりにはなるんじゃないか?」
「番犬って涼君もしかして機嫌悪い?」
いつもなら人をそんな事言わないだろうに。出会いが最悪だったからだろうか?澪菜が困った顔をしていると、涼はニカッと笑った。
「悪くないよ!ほら、出発するぞ。牛車出して。」
涼に言われ車を出す。ギーギーと牛車を引く音が響いた。言われるが間々に車を出したのはいいが、何処に向かっているか全く想像もつかない。
「あぁ昨日、竜に心当たりが有るっていっただろう?」
「うん。」
「俺この国に飛ばされた時、都じゃなくてお前と違う場所に着いたんだよ。」
「………うん。」
「こっちに来て何も分からなかった俺を世話してくれた奴がいて、そいつが竜の話をよくしていてな。あの時は冗談な話だと思ってたけど、アイツなら何か知っているかもと思って!!」
「そうなんだ。」
涼君と再会するまで時間がかかった。私が一人でいた間、色々あったけれど、同じく涼君も一人だったんだよね。そう考えると澪菜は少し悲しくなっててしまった。涼は澪菜の心を読むように、頭をぐしゃっと撫でると笑いかけた。
「また、会えたんだからいいじゃないか!!暗い顔するな!!」
「そうだよね。」
頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、涼は黙り込んだ。
ーーーー手が届かなかった。
澪菜が川に落ち、助けようと手をのばしたが、後一歩届かなかった。目の前に見えているのに突き刺さる水の冷たさだけが突き抜けて、助けられなかった。離れ離れになった時、無力な自分が許せなくてどんなに責めただろう。あんな思いは二度としたくない―――。
「涼君?」
涼ははっと気付くと、続けた。
「そぅ、その恩人が、『皐』って娘なんだ。奥嵯峨の外れにばーちゃんと二人暮らしで住んでて。ちょっと変わった奴だけど、歳もお前と同じくくらいだし、仲良く出来るといいな。」
「皐ちゃんか。」
涼君の恩人さんに会うんじゃ、しっかりしなくちゃ!!しっかり………
「どうした?面白い顔して。」
「いや緊張してきた。なんか気持ち悪い…うっ。」
「はは!お前は考えすぎだよ。本当変わった奴だから、大丈夫だよ。」
涼の言葉に救われるもやっぱり初対面は緊張する。考えるだけで緊張マックスになる。脂汗まで出て来た。
「奥嵯峨といえば、この間桂川に行った時、竜を見たよ。」
「見たのか!?」
涼がそんなに驚く事ないだろうと思うくらい、驚いた。
「うん。遠くからだったから、よくわからなかったけど、女の子もいて。もしかして、その子が、皐ちゃんだったのかな?」
「よくわかったな。あれが竜だって。皐が竜だって言ってたけれど、俺には犬にしか見えなかったんだけどな!」
「い…犬!?めっちゃ大きかったよ!?」
「え――?」
「え――?」
空を覆う様な巨大な体。初めて見たけれど、想像上の姿の通りの姿形。竜以外には見えないんだけどなぁ…。涼と噛み合ってないのは何故だろうか?牛車で揺れる事、『皐』の所についていた。
千鶴に鬢もつけて貰い外出着の準備完璧だ。ただ、心の準備があとちょっと必要だったかもしれない。脂汗は引いたものの、心臓はバクバクしてはちきれそうだった。
そこは奥嵯峨の外れで、空気が澄んでいてい、美しい景色の場所だった。人里ではなく、山や森に囲まれひっそりと暮らしている様に感じた。少々不便そうだが、人里もそんなに遠くないので、生活にはなれればこまらないだろう。そんな印象を受ける場所だった。
「大丈夫ですか?澪菜様?」
千鶴が心配げに顔を覗き込む。笑顔を見せるも、時間がたつにつれ、段々ぐったりしている気がする。
ヨタヨタしながら立ち上がり、牛車から降りた。




