弐‐拾
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チュンチュンチュン
夜が完全に明けたのだろう。
「澪菜様!おはようございます。」
御簾をカラリとあげ、千鶴が元気よく入って来た。御簾の隙間から入り込む、朝日が眩しい。
「おはよう。千鶴ちゃん」
「――!!?澪菜様起きていらっしゃったんですか!!?」
いつも朝は千鶴が起こさないと起きない為か、すごく驚いていた。結局、あれから部屋に戻っても寝付けず、今に至る。
「ふぁぁッッッ」
「また暑くて寝れなかったのですか?」
大欠伸をする澪菜を心配そうに千鶴は覗き込んだ。
「うぅん!昨日早く寝たから、早く目が覚めちゃっただけだよ!」
「そうですか?ならいいゎですけれど。茄子ちゃんも起きましょうね。」
澪菜の枕元で丸くなって寝ていたのを、揺り起こす。「にゃーああああ」全身を伸ばし、そのまま仰向けに寝てしまった。
「もぅ茄子だけずるいぞ!起きろー!」
澪菜は茄子をくすぐった。けれど、ジャレていると思っているのか、余計にゴロンゴロンし始めた。
「ふにゃーゴロゴロゴロ」
「くすくす。澪菜様、本日は朝食がすみましたらいかがなさいましょう?」
千鶴が、着物の準備をしながら、澪菜に問い掛けた。昨日の竜の事を涼に話に行こうと思っていたけど。
チラリと千鶴の方を見ると、目が合い何とも気まずくなってしまった。
「あ、、う、、、」
昨日に千鶴言われた言葉が、頭から離れない。
――帰らないで下さい――
「澪菜様。」
千鶴の呼ぶ声に、澪菜はビクッとなる。
「千鶴ちゃんあのね」
「涼様の所ですね。外出用の着物にしておきますね。」
昨日の事はまるでなかったかの様に、千鶴はいつも通りだった。澪菜はじーっと千鶴を見詰めていると、千鶴はほんわり笑った。
「昨日の気持ちは変わりません。だからと言って澪菜との時間を無駄にしたくないです。」
千鶴は真っ直ぐ見詰める。
「もし帰られてしまうなら、今ある時間を大切にしたいし、一緒にいることでお気持ちかわり、残ってくれるかもしれませんので、千鶴は最後までお供します。邪魔だけはしませんのでよろしいですか?」
「ち、、、ちち」
「澪菜様?」
「千鶴ちゃん大好き!!!!」
澪菜はがばっと千鶴に抱き着く。
「邪魔だなんて思わないよ!私も千鶴ちゃんとの時間大切にしたい。有難う!!」
千鶴は抱き着かれ、少し困りながらも嬉しさに赤くなった。
カタンッと物音と共に、聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ると小夜がいた。
「クスクスごめんなさいね。いつも邪魔しちゃって。相変わらず仲良しね!!」
「小夜さん!!!!」
澪菜は驚き、目をまん丸くしながら小夜を眺める。
それもそうだ。今日は勉強は予定に入ってなかったはずだ。「小夜様、本日は教育のご予定は入ってなかったと存じますが?」と千鶴が不思議そうに尋ねた。
「朝早くにごめんなさい。今日は帝の遣いで参ったの。」
小夜は御簾をくぐり、中へ入って来た。
―――帝の遣い!!?
「御紹介します。時頼様どうぞ!いらっしゃいな」
小夜に呼ばれ、御簾の外側に人影が見えた。
「女御様。御前失礼致します。」
低温の声が響く。この声―――。
澪菜は御簾をめくり上げ、顔を出した。
「澪菜様!!はしたないです。」
千鶴の静止を聞かず、眺めると驚きの顔がそこにあった。
「あ―――ッッ!!昨日の人!!」
夕べの人がそこにいた。
確か…春晃さんは彼の事を近衛殿と呼んでたよね?
「近衛さん?ですよね?」
「はい。近衛督橘時頼と申します。昨晩のご無礼深くお詫び申し上げます。」
オデコが地面につくのではないかと思うくらい、深々と挨拶をする。気にしないで下さいとニッコリ微笑む澪菜の横で、千鶴が眉間にシワを寄せていた。
「千鶴ちゃん…どおしたの?」
「いえ、夕べ澪菜様の御寝所には誰もお通ししてないのですが」
まずい夜中に抜け出したのがばれてしまう。
えっとと慌てて話をそらす。
「近衛さん?時頼さんの方がいいのかな?時頼さんは今日はどおしたんですか?東宮様に会いに来たんですか?」
「いえ。今日は姫様にお会いに参りました。」
キョトンとしている澪菜に、時頼は続けた。
「昨晩の事を主上に御報告いたしました。」
「え!まさかなにか処罰されちゃったんですか!?」
話さなくてもいいのに!!正直な人だ!!澪菜は立ち上がり走り出そうとしたが、駆け出した澪菜の腕を掴んで止めたのは小夜だった。
「小夜さん!!だって小夜さんからも帝に言って下さい」
「姫様、落ち着いて下さい。処罰は受けてませんわ。」
「えじゃあ何で?」
朧に会いに来た訳でもないのに。
小夜はクスッと微笑み時頼の方を見る。
「時頼様 、続きをどうぞ。」
「はい。昨晩の事を御報告上げました所、姫様に救われた命、姫様の為に使えとの事です。」
「ひょえッッ!?」
「姫様直属の護衛となります。宜しくお願い致します。」
―――えっえええええ
「お仕事は!?忙しいのに私なんかに構ってる余裕なんて」
「近衛は内裏の門の内側の警護、行幸の警護の他に、皇族の警護などをも受け持っておりますゆえ、お気になさらないで下さい。女御様の御警護を受け持たせて頂けるなんて光栄な限りです。」
「東宮様も、姫は目を離すと直ぐに飛び出してしまうから、時頼について貰うと安心だとの事です。」
時頼の返事に、小夜が微笑みながら付け足す。小夜は楽しそうに時頼を残して去っていった。
「はふっどおしたらいいのかな。」
「気にしなくてよろしいのでは?澪菜様には護衛が足りないくらいだと思いますよ。時頼様は優秀な武官とお噂伺いします。頼もしい限りですね!!」
千鶴は澪菜とは反対に、嬉しそうにしていた。
気づくと、澪菜が断る間もなく時頼は東宮女御付き護衛になっていた。




