弐‐陸
次の日目が覚めると、空は晴れ渡っていた。体を伸びながら、朝日を浴びた。空気がとてもおいしい。
朧は今日も朝早くから忙しそうに御所に参内していった。仕事が一段落してもすぐに新しい仕事が舞い込んで来るから、朧がゆっくり休んでいる所を見た事ない。
しかも最近特に忙しそうだし、責任のある立場っていうのはわかるけれど、過労で倒れたりしないか心配になってくる。
「殿方は政をして働くのが役割。我々女は、留守を守り殿方達に癒しを与えるのが役割ですから。」
静子が本日着る予定の打ち掛けを準備しながら澪菜に声をかけた。
癒しって。私、迷惑しかかけてないような。
「ささ姫様、今日は出掛けられるんです!遅くならない様に、千鶴に支度整えさせていってらっしゃいませ」
「はい……。」
静子に促され、支度をすると屋敷を後にした。
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ギーギーガタン――ギーギー牛車が揺ったりと進む。
「澪菜様、春晃様の所久しぶりですね。」
千鶴と一緒に、春晃の邸に向かっていた。
春晃達が東宮御所に顔を出すのはよくあるが、澪菜が行くのは珍しいからだ。
「なんかね、涼君が話しがあるみたいで。」
「話ですか?」
そういえば、自信ありげに興味そそられる話って言ってたけれど何だろう?全く想像もつかない。
「ついでに涼君と春晃さんと白菊ちゃんも誘って見よう。朧がね、今度水浴びに行こうって。千鶴ちゃんも行くよね!!」
「澪菜様それって…………。」
千鶴のびっくりした表情に、澪菜は首を傾げた。無垢な所が長所なんだろうが、時にそれが残酷にも感じる。千鶴は溜息まじりに続けた。
「東宮様は二人で行こうとお誘いしたんじゃありませんか?」
「―――――えぇぇぇ!そんっっそんな事ないよ!」
「本当にそう言い切れますか?」
「だって、皆で行くの朧も喜んでたよ!いつもと同じ笑顔だったし。」
「澪菜様に合わせていただけだと思いますよ?」
あの時、確かになんか引っ掛かったけれど気の性だと思った。只、私人間関係が得意な方じゃないから、気付かない間に傷付けているのかもしれない。千鶴に言われて、不安になって来た。
「もしや澪菜様は、涼様の事を御慕いされてるのですか?」
「!!何言ってるの!涼君は幼なじみで家族で。あーっ最近こんな話ばっかりもぅやだー」
膨れっ面になりながら、パンク寸前の思考回路を振り払う。
「責めている訳じゃないですよ。ただ、こんなにも素敵なお方なんですから、もぅ一歩進んで貰いたいのです!」
「そういう千鶴ちゃんは?好きな人とかいないの?」
「私は、女官としてまだ半人前ですから、恋愛にうつつを抜かしている場合ではございません。」
ピシャリと答えてはいるが、千鶴の頬が紅らんでいるのを澪菜は見逃さなかった。
「そう!じゃあまだ私も未熟だから、恋愛にうつつを抜かしている訳にはいかないよ。」
「澪菜様は別格です!」
「別格って。千鶴ちゃん、好きな人いるんでしょ。教えてよー!そしたら、真面目に向き合うよ!」
「いいい、いません」
形勢逆転。
澪菜にとって千鶴は初めての女友達の様なもの。
女友達と恋ばなってこんな感じかなそう思うと自然と笑みがこぼれた。それが、なんとも胸の奥がくすぐったくて不思議だった。
――――――――
春晃の家に着くと、白菊が門の前で待っていた。
「お待ちしておりました。」
牛車を門の外に停めて、澪菜と千鶴だけ中に。白菊いわく、春晃があまり、人を屋敷に入れるのを嫌がるかららしい。人混みが嫌でこんな町外れに屋敷を建てたほどの人だからわかる様な気もするが、涼を家に住まわせるのに抵抗はなかったのだろうか?
澪菜が悶々と悩んでも仕方ない事を考えながら廊下を進んでいたら、いつの間にか部屋に着いていた。
「はい。こちらですよ!」
白菊が部屋の扉を開けると、中には涼がいた。
書庫のだろうか?棚が列び見渡すかぎり部屋は本で埋め尽くされている。しかも、読んでもわからなさそうな難しい本ばっかり。
「おぅ!澪菜来たか。白菊有難う。」
「いーえ。ではわたしはこれで。」
ペコリと一礼すると、パタパタと可愛らしく走りながら去っていく。
涼はヒラヒラと手を振ると、目線を自分の手に持つ、古びた本に戻した。
「なにを読んでるの?」
棚に収まり切らないほど本があった。部屋中所せましと本を積み上げているので、少し動いただけでぐらぐら揺れる。
そろっと入ったが、床がキイーキイーっと響いた。
「危ない!!」
「えっ?」
澪菜は、涼の元に寄ろううと足を踏み入れたが、静止の声に驚き立ち止まった。その瞬間―――!!積み重なった本が、バランスをなくし、崩れ落ちてくる。
「ひゃああぁッッッ」
――ガタガタガタン
「澪菜様!!」
「ん―――い…」
たくさんの本が降ってきたはずなのに、澪菜は平気だった。
「痛………くない?」
見上げると、覆いかぶさる様に涼がいて、崩れ落ちた本は全部涼がかぶってくれていた。
「つ、派手にぶち撒けたな。大丈夫か?」
「うん。ありがと。涼君は大丈夫?」
「あぁ。まったく!鈍臭いんだから気をつけろよ。」
鈍臭いって!ちょっと。まあほんとうの事だけど
散らばった本を退かすと、澪菜の腕を掴み起こした。
「てか。お前、そんな重そうな格好じゃまた本倒すぞ!着替えてこいよ。」
確かに、この間々だと100パーセントまた本を崩すだろう。とは言っても澪菜が自由に選べる着物は全部こんなのばかりしかない。
「うーんそうだよね。ワンピースとかあれば楽だよね!でも服こういうのしかないんだよ。」
「白菊に借りてきてやるよ!」
「―――え!!?」涼の言葉に一番反応したのは、千鶴だった。
「何言ってるんですか!!澪菜様を助けた事は褒めて遣わしますが恐れ多いにも程があります。下々と同じ格好なんてあぁ恐ろしや」
「恐ろしやも何も、また下敷きにしたいのか?」
千鶴はツーンとして聞く耳を持たない。涼が面倒臭させうな顔で、助けを求めているのか、こっちをみている。
ただ、千鶴がこうなったら澪菜にもどうにもならない。
涼の視線に気付かないふりをしようとも思ったが、ひしひしと突き刺さるに視線に堪え切れず澪菜は駄目元であたってみた。
「千鶴ちゃん、この格好じゃ動きずらいしいいでしょ?」
最上級のおねだりパンチを浴びせたけれど、やはり千鶴が首を縦に振る事は無かった。
「もぅいい。向こうの部屋で待ってろ!持ってく。」
痺れをきらした涼に、勢いよく部屋から追い出された。
ピシャンッッッと扉を閉められたので、諦め、白菊に客間で待たせて貰った。




