弐‐伍
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帰って来てからも雨は強くなる一方だった。
「楽しかったなぁ」
「嬉しそうな顔をしてどうしたんだい?」
クスクスと笑いながら御簾をあげ、朧が中に入って来た。
「ひゃあ!!お帰りなさい!」
「ただいま。」
朧は澪菜の隣に座る。すると、茄子が朧に甘える様に近寄って行った。茄子の喉を撫でると気持ちよさそうにゴロゴロ鳴らし、朧の膝の上にすっぽり収まった。
「今日は桂の川まで行って来たのだろう。どうだった?」
「うん。素敵な場所だね。水が透き通っていたよ!」
「楽しめたなら良かったよ。」
穏やかに微笑む、朧の笑顔は大好きだ。いつもつられて微笑んでいる。
「いい歌は歌えたかい?」
「うーん。」
一応出来たけれど、やっぱりはずかしい。書いた文をこっそりと、着物の中に隠そうとしたけど、茄子がジャレつき始めた。
「こら!茄子やめなさい。」
「にゃあッッッゴロゴロゴロ」
さっきまで大人しく寝てたんだから空気読みなさいと思うのに、お構いなしに茄子が文にジャレ引っ張り出す。
「姫、それは?」
「あ、いや、、、もぅ」
はふっと深呼吸を大きくして、朧の方へ向き直る。
「歌を文にして見たの。朧に渡そうと思って。でも!下手だから。笑わないでね。」
顔が真っ赤にして、俯き具合になりながら観念して差し出す。朧は文を受け取って黙って読んでいた。もう読み終わってるはずなのに、何も言ってこない。
ばっさり切られても立ち直れないけど、何も言われないのもモヤモヤする。
「ありがと、嬉しいよ。いい歌だね。」
「絶対うそ!どこがいいの!!?」
信じられず朧に詰め寄った。自分でもしょうもない和歌だと思うのに。音ものってる言われたが、正直少しズレてるし。
「冷たさが
プールみたいで
懐かしい
入ってみようか
ちょっぴし悩む」
「いやー!!読みあげないで!!」
文を奪い返そうと飛び付くが、ヒラリとかわされた。やっぱり捨てて下さいと懇願したが、何を言っているのだと言う顔をすると懐に歌文を隠された。
「小夜殿には歌はどう歌うって習った?」
「………こ…心で?」
それを聞くと、朧は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「姫の心があるから、いい歌だよ。見た事ない月の国に行ったみたいだ。プールとは何だい?」
そういう物なのかな?でも確かに、朧の和歌を聞いてると、平安の国にいるんだなって思う。
朧がとても嬉しそうにプールの事を聞くから、頭を悩ませながらも一生懸命説明した。
「プールはね、水浴びとかする場所だよ。夏は涼しくていいんだよ!」
澪菜は大きさを伝える為に、両手をいっぱい広げて説明した。
「湖みたいな所か?」
「ちょっと違うかな……もっと人工的な感じ。魚とかもいないし。水着とか着ちゃって、皆で泳いだりはしゃいだりして!!!!流れるプールとか滑り台プールとかあるよ!!」
水着も滑り台も殆ど意味が通じていないのだろうけれど、朧は頷きながら楽しそうに聞いてくれてた。だからなのか、余計話しに熱がこもる。
「なんて説明すればいいんだろう?くやしいな。涼君とよく夏休みはプールに行ったんだよ。是非一度あの開放感を味わって貰いたい。」
夏休みによく通った市民プールを思い浮かべる。こっちではもぅ行けないんだろうな。懐かしい思い出が少しセンチメンタルな気分にさせる。
「今度プールとやらは無理だけれど、水浴びにでも行くか?」
「え!ほんと!」
「水浴び!楽しみ。涼君も喜ぶよ。そうだ!千鶴ちゃんや静子さんも誘ってみんなで賑やかに行こうよ。」
「皆でか?」
少し俯きかげんで答える朧。―――もしかして私まずい事言った?朧の顔を覗き込みながら恐る恐る聞き返す。
「だめだった?」
「いや、そうだね。皆で行こうか。」
にっこりしていたので、気にしすぎだったのだろう。澪菜はほっと肩を撫で下ろした。
「では、今夜はもうおやすみ。明日は春晃の屋敷にいくんだろう?」
「うん。」
朧は澪菜の髪に指を絡ませながらくるくると髪をなで、ふんわり微笑みながらおやすみと部屋を後にした。廊下まで、見送ると澪菜は床についた。




