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金色の月姫  作者: 藤の花
月より舞降りた鬼の姫
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肆拾捌

帝は驚き、その場に固まってしまう。


「私の顔……もう覚えてないですよね……。」

「小夜……と言っても覚えてないでしょうね。先々帝の計らいで屋敷で五条河原の住まわせて頂いた。」


五条河原だと?



記憶は遡る。

宮様と呼ばれていたのは遠い昔。まだ、天皇の位を継承していない頃。幼き記憶に宿る、白百合のような嫋やかな君の笑顔。

「、、、、、、白百合の君。」

 

小夜がにっこり微笑む。

「覚えていて下さったんですね。嬉しいです。」

その笑顔は、帝の記憶の中の『白百合の君』の優しい微笑みと一緒だった。



まさかと言う表情で小夜を見つめた。

「祖父が亡くなって以来だ。」



幼き頃、五条の別邸によく祖父「先々帝」に連れて行かれた。そこに、可憐な白百合のような女性がいた。

幼な心に祖父の妾なのだろうといいのは感じていた。

祖父の寵愛を一心に受け、沢山の辛い思いをうけただろうに。儚い雰囲気の彼女の事がいつしか目が離せなくなった。



正室の子供なんて、彼女にとって疎ましい存在だったのではないかと思う。なのに、彼女は幼き頃の帝に実の母の様に、姉の様に接してくれた。

幼き頃の帝もまた、まるで母の様に、姉の様にしたっていた。彼女は可憐で、幼き帝にとって憧れの女性だった。




あの頃と変わらぬ若さ。不老不死は本当なのだろう。


「小夜さんの愛しいあの人ってまさか……」

「あぁ。私も驚きだ。」

澪菜と朧は衝撃的な事実に驚きを隠せなかった。

 

 

「白百合の君、祖父が亡くなった後どうしていたんだ?」

祖父が流行り病で亡くなり、身分の違いで最後に会えなかったあの人。祖父の最後を伝えに行って時の事、幼心に忘れられなかった。

いつも穏やかに微笑んでいた、白百合の君が声を荒げて泣いている姿。どうして祖父はこんな愛しく思ってくれる人がいたのに置いて行けるのだろうか。

 

その後すぐ姿を消したから、祖父の後を追ったと思った。

 

 

「山奥でひっそり暮らしていました。姫や東宮様に出会い、また人として生きてみようと思えたのです。だから、宮様!貴方にも生きて欲しいのです。」

「永遠の命を手に入れるのは、生きる事だろう!」

 

「違います。それは生きているのではなく、死なないだけです。」

 

 

何が違うかさっぱりわからない。帝はそんな様子だった。

「……余は死ぬのが怖いのだ。」

 

 

小夜は帝をふわっと抱き寄せた。

「当たり前です。怖いのは人の感情です。生きてる証拠です。」

 

「欲望に塗れ、余は変わりすぎた。………どうしたらいいのだろう」

腕の中で啜り泣きそうな声になる。小夜に縋り付く。

 

「いいえ、何も変わってはおりません。貴方はあの頃の間々。純粋すぎてどうしていいかわからなくなっているだけです。」

 

あの人の大切な忘れ形見。

私はこの為に生き続けているのだろうか。

母が子を慈しむ様に強く抱きしめていた。




――――――

 

小夜から離れると、帝は澪菜の元に来た。澪菜は反射的に、びくっとし、朧の後ろに隠れてしまった。

 

「……あぁ……」

どことなく、罰の悪そうな表情をしている。

 

 

「すまなかったな。姫には酷い事を沢山した。死にばかり囚われて、生きる事を忘れていたみたいだ。」

帝は話し続けた。

 

「これからどうしたらいいか、まだわからぬが生きてみようと思う。小夜を連れて来てくれてありがとう。」

帝の吹っ切れた顔に澪菜もつられて、笑顔になる。

 

「東宮」

「はい」

 

「いい姫を見付けたな。いつ帝位をゆずっても大事ないな。」

 

「何をおっしゃいます。まだまだ父君の時代は続きますよ。ありがとうございます。」

そして、小夜の傷の手当てをすると言って、帝は小夜を連れ部屋を後にした。


「さて、姫。我々も帰ろうか。」

「帰る……?」

 

 

そうか

――終わったんだ。

帰れるんだ。

帰っていいんだ。

 

「みんな待っている。私達の屋敷にだよ。」 

朧は澪菜の手をとり歩き出した。

 

 

外に出ると日は傾き夕方になっていた。

夕日が輝いている。


 

生きるって事は澪菜にもよくわからないけど、とても大切な事を学んだと思う。



夕日の中を牛車で走る。晴れやかに軽やかに御所を後にした。

第一部完結です。

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