肆拾伍
――――痛い
振りほどこうにも、力が強くて解けない。強く掴まれた腕に爪が食い込む。澪菜は苦痛に顔を歪めた。
「主上、何をおっしゃいますか?それは我が妃ですよ。」
「よいではないか。代わりに、国中の美姫お主の為に集めてやろう。御家の姫だって、両大臣の姫だって、選び放題だ。なんなら選ばずとも全て手に入れればよい。」
「私は我が妃しかいりません。」
澪菜以外を拒む朧に対し、帝はつまらんやつだと興が冷めた。
「もうよい。お前は下がれ。鬼の娘だけいればよい。」
朧ですら逆らえない相手。下がれと言われたら下がらなければならない。しかし、澪菜を一人残して行くわけには行かない。
「下がれと言っておろう。逆らうのか?」
朧は沈黙したが、動く事はなかった。どうすべきか脳をフル回転してるのだろう。
微動だにしない朧に帝はだんだんイライラして来ているのが感じとれた。
まずい、、、朧の立場が悪くなる、、、。
「離して下さい。」
抵抗する澪菜の耳元で帝は囁いた。
「余に従えば、お主の欲しい物なんでも与えてやるぞ。着物や宝石。国の最高権力者だからな!誰も余には逆らわん。」
―――違う
「鬼よ、東宮の所にいるより余の方が権力が掴めるぞ。地位も名誉も財産も手に入れる。余に従え。余に順次よ!余の物になるのだ!」
―――違う
―――――――違う違う違う
「私はそんなの望んでいないです!」
きっと睨みつけ言った。
「力は欲望の為に使うのではなく、弱いものを守る為にあると思います。」
「守る為だと」
「はい。」
まっすぐ見詰める澪菜。素直な眼差しで。
「くく鬼の癖に、偽善にみちた奴だ。情けだけでどう生きて行ける?」
「父君、確かに力が全てを動かすと思います。」
「しかし、我が姫は純粋な姫。私共にはない理屈ではない心を持っているのです。お返し願いたい。」
朧の言葉を聞いて、帝の掴んでいる力が緩んだ。
帝の元をすり抜け澪菜は朧のに駆け寄った。
カチャ―――
「動くな!!」
帝の声と共に、澪菜にピリッと痛みが走る。
「父君!!?何を」
朧の驚いた表情とこの感覚で自分が、何をされているかはわかった。しかし恐怖で澪菜は後ろを振り向けない。首筋にひんやりした感覚があたっていた。ピリッとしていて、血が滲み出ている。
刀を突き付けられていた。
「首を落とされたくなかったら、大人しくするんだな。鬼といえど首を落とされたら、只ではすまないだろう。」
背筋に寒気が走る。
―――――本気だ。
「余にない心?くだらない。だが、どんな物か見てみたくなった。東宮、そなたは邪魔なんてしないな?」
刀を首筋からずらし前に持っていくと、後ろから抱きかかえられる様に澪菜を捕まえた。
澪菜は抵抗出来ず、ズルズルと引きずられて行った。
ドサッッッッ「キャッ」
澪菜は塗籠に放り込まれて、尻もちをつく。
「そこで、大人しくしているんだな。」
にやりと帝は笑うと、ドアを閉め去っていった。
――――暗く寂しい窓もない部屋。
出入り出来るのはドア一つだけ。抜け出すのは難しそうだ。
「簡単に上手くいくとは思ってなかったけど。」
これからどうしよう。
一人閉じ込められ暗闇のせいだろうか。不安ばかりが胸をよぎった。




