肆拾弐
不死は存在してるのに妙薬はない。どういう事なんだろう。理解が追いつかず考えをぐるぐるしていると、小夜は続けて話しだした。
「それは私もわからないわ。」
「??????」
「気が付いた時には、この体になっていたの。」
「気付いたら?」
「えぇ。何でこんなになったのかしら。自分が1番知りたいわ。」
小夜は遠くを見詰め、昔を振り返り始めた。
――――
約300年前
平安の都に、国が出来たばかりの頃だった。小さな名も無き村で、普通の農夫婦の間に娘が生まれた。名はなんだっただろうか。遠い昔の事だったので、もう忘れた。
周りからも愛され、娘はスクスクと育った。
生活は貧しかったけれど、村全体が家族同然なくらいに仲がよく、幸せはいつまでも続くだろうそう思っていた。
しかし、そんな些細な幸せも、いともたやすく失ってしまった。
―――業火―――
村が、夜盗の手により焼かれた。深夜なのに、夕暮れよりも空は赤く染まり、逃げ惑う叫び声、泣き喚く悲鳴。
目の前で、夜盗共に次々と殺されていく村人を見ながら、いつ自分も斬られるのかと怯えながら逃げ回る。
死にたくない
死にたくない
死にたくない
娘は、がむしゃらに逃げつづけた。
日が昇る頃には、村を焼き尽くし炎は収まっていた。夜盗達はどこかへいなくなっていたけれど、残されたのは滅んだ村と、村人達の亡きがら。生き残ったのは、娘ただ一人だけだった。
「生きてる。」
しかし、なんだろうこの虚無感は………。
私には何も残っていない。ただ、生きているだけ。
娘が異変に気付いたのは、それから、20年の月日が流れた頃だった。月日がながれど、娘の容姿は若く、美しいままだった。
歳をとらない娘を見て、周りの者達は「怨霊」とか「化け物」だとか口々にいい始めた。
一つの場所に長くはいれない。長く住めば住むほど、感づかれ、忌み嫌われる。いろんな所を転々と、名前を変えて、過去を偽り、移り住むしかなかった。
そんな生活は、何十年何百年と続いた。
「なんで、私だけ老いる事も死ぬ事すらも出来ないの」
あの時、強く死にたくないと願ったのが罪だったの?
一人だけ生き残ってしまった私への神が下した罰なのか?
何がだめだったのか、わからない。
何度も死のうとしたが決して叶わない望みだった。
そんなどん底にいる時、一人の男性に出会った。
彼は娘が不老不死である事を知っても、今までと違い変わらなかった。
「何か理由があるんだよ。罪とか罰とかではなくそう!きっと私達が出会う為に。」
――――この御方に出会う為に私は存在している―――
「まあ真実はわからないが、そう思うだけで私は嬉しいよ。出会ってくれてありがとう」
穏やかにふんわり微笑みながら語る男性に、娘の凍った心も溶けはじめた。
彷徨う娘の唯一の希望。
愛し愛され、共に緩やかな時間を共有した。
ただ娘の心には、穏やかな分だけ不安も残っていた。
「お前一人残して行きはしない。」
彼は娘の不安を拭う様に毎日囁きかけたが、不安は現実になってしまった。
「流行り病」により、彼は亡くなった。
おいて行かないって言ったのに。
彼と出会って30年。彼は年相応になっているのに、私は出会った頃と何も変わっていない。
後を追おうともしたが、まだ許されなかった。
私は彼に会う為、生まれてきたのではないの?
愛した者と別れさせられただけでなく、この先も、私は何人もの人と別れを告げるのだろう。
体の傷は癒えるけど、心の傷は深まるばかり。
もぅこんな思いはしたくない。一人になるのならば、誰もいらない。
そして、娘は人里に足を踏み入れる事はなかった。




