肆拾壱
小夜は心を落ち着けて来ると、一人森の中へ消えて行った。何刻もたち、外は夕暮れに染まり始めたが小夜が戻って来る気配はない。旅立つにも、小夜とあの間々で別れるには後味が悪く、今だ小屋の前で皆で待っていた。
「やっぱり追い掛ければよかった。」
澪菜は自分の言葉のせいで、小夜が帰って来ないと思い、責任を感じていた。
「姫のせいではないよ。あの様子だと、確実なにか不死の妙薬について知っているな。姫が聞いてなかったら、私が聞いていたよ。」
朧は頭を撫でながら、遠くを見詰める。
「私、小夜さん捜しに行ってくる。日が沈んだら危ないし!」
「そうだな。ここは、夜は野犬や賊ばかりだからね。慣れているとはいえ、女性一人にしては危ないだろう。」
朧は、立ち上がり腰に刀をさした。
「私も行く!!」
「小夜殿が戻って来るかも知れないからここで待ってなさい。」
「いやです!!」
澪菜は朧の着物の裾を掴むと、じっと見詰めた。
「ふぅ。わかった。姫はこうなると、聞かないからね。ただ私から離れるんじゃないよ」
「ありがと!!」
「俺も行くよ!!」
涼も捜しに行く気になっていたが、朧に止められた。
小夜が戻って来るかもしれないから、誰か残るなければいけない。ただ千鶴一人残すのも心配だろう。涼はチラッと千鶴の方を見て了承した。
朧と澪菜、涼と千鶴二組に別れる事にした。
「わかったよ!千鶴、俺達は中で待ってるか。ここじゃまたいつ賊に目を付けられるかわかんないし。」
「はい。すみません、涼様。足でまといで。」
「何言ってんだよ!留守番も立派な役目だろう」
それに何も出来なかったのは俺だ。昨日も、朧が来なかったら澪菜を守れなかった。悔しいが、今の俺じゃ澪菜を守りきれない。
強くなりたい………いや、強くならなきゃ。
そう、強く感じた。
―――――――
澪菜は朧と、森の中を探し歩いた。
日も落ち始め、辺りは薄暗くなっていた。
朝だと神秘的な場所も、暗くなると、不気味に感じる。
「小夜さんどこいったんだろう。」
澪菜は朧から離れないように、早足でついていった。
何処まで行っても同じ様な風景が続き、気を抜くとどっちから来たかわからなくなりそうだ。
「………姫。」
「はい」
立ち止まり、小声で話し掛ける。朧の目線の先には、野犬が集まり何かを囲んでいた。
「しっ……」
野犬に見つからない様に、二人は息を潜める。野犬がどう動いてくるか、木々に隠れ様子を見た。
「………!!まずい」
「えっ?」
突然声をあげた朧に、澪菜は驚いた。
「囲まれてる…!人が」
澪菜は野犬の方を目を凝らして見ると、暗闇の中に人影が見えた。野犬に囲まれてるのがわかる。
「姫、そこを動くんじゃないよ」
朧は、腰刀に手をかけると野犬に向かって走り出した。
「はぁッッッ」
ザンッッッッ
キャインッッッキャインッッッ
野犬をみねで打つ。いきなりの襲撃に驚き、野犬達はそれぞれ逃げて行った。
人影に近付くと、そこには、小夜が横たわっていた。
「小夜さん!!」
澪菜もあわてて駆け寄る。
「小夜殿、大丈夫か?」
朧が小夜を抱き起こすと、噛まれたのだろう。小夜の左腕からは血が流れ落ちていた。
「今、止血する。」
朧は、着物を破りしっかりと腕に巻き付けた。
「くっ………」
「少し我慢して。」
「大丈夫です。これくらいの傷なら、すぐ治りますから……」
「何を言っている!青白い顔をして。」
「大丈夫です!!!!」
小夜は手当てしようとしている朧の腕を払いのけた。
「………。すみません、、、本当大丈夫ですから。」
気が付くと、小夜の血は止まっている。傷痕も段々小さくなっていた。
―――――――え?傷が治ってる!!?
「見てしまいましたね………。」
小夜は小さくため息をつきながら呟いた。
「治癒の能力か?」
「だったら、いいんですがそんな可愛いものではありませんわ。」
小夜は笑って見せるが、悲しげな表情は隠しきれていなかった。小夜は立ち上がり、服についた砂を払い落とす。
「見られてしまったら、仕方ないですね。」
小屋に向かい歩きながら、小夜はポツリポツリと話し始めた。
「澪菜さん貴方不死の妙薬を探してるって言ってましたよね。」
「はい。」
「もぅ、お気づきかも知れませんが、私の体は不老不死。決して死ぬ事も老いる事すらない体なのです。」
へぇ―――ってッッッ!!?え――――!!!!!!
「全然気付かなかった!!」
澪菜は小夜の左腕を見ると、先程の傷痕が綺麗に消えていた。
「やはりそうだったか」
反対に朧は薄々感づいていた。
やっと、不死の妙薬まで辿りつけた。感動が込み上げている澪菜に、小夜は言い放った。
「確かに私は『不死』の体ではありますが、妙薬なんて物はこの御世にはございません。」と。




