参拾伍
その日、東宮御所に着いたのは、やはり、夜中だった。朧に、白菊から預かった物を手渡して、その日は早めに休んだ。
明日、朝から出発する事にしたからだ。「姫は屋敷で待ってなさい」とかって言われると思ったけど、いない間に帝に動かれてしまうと、手の出しようがないから、一緒に連れてって貰えた。
表向きは、二人で別荘に初夏を味わいにお忍びで行くと言う理由で。なので、まず、朧の別荘まで行き、そこから馬に乗り換えて北に北上することになった。
涼とも別荘で落ち合う。
そして次の日の朝、日の昇る少し前に東宮御所を出た。
「道中御気を付けてくださいませ。別荘には、紫陽花が咲いてます故、楽しんで来て下さいね。」
静子がにっこり微笑みながら送り出してくれたが、実際そんな余裕はないんだろうなと思う。
屋敷の者には、不死の話しをしていないから、澪菜の御側付きな静子や千鶴すら出掛ける本当の理由を知らないのだ。
情報がどこから漏れるかなんて、わからない!信用してない訳じゃないけれど、自ら危険をおかす訳にはいかなかった。
「ありがとうございます。では行ってきます!」
澪菜と朧は牛車に乗り込み、出発した。
東宮御所の門を調度出る辺りであった。
「お待ちくださーい!」
バタバタと走りながら呼び止める声が聞こえて来る。
澪菜はそっと小窓から覗くとそこには息を切らせながら、千鶴がいた。
「千鶴ちゃん!!?」
「澪菜様!!御忘れ物です!」
千鶴は箱を手渡した。
「あ……!髢。忘れてた。」澪菜の髪はキラキラと月色に輝いている。
「澪菜様!!もぅ忘れ物ないですか?髢、御自分でつけられますか?」
遠足に行く前の子供の様に、確認され始めた。
「大丈夫だよ………多分。」
「その多分が心配何ですよ!あぁ」
朧がその二人の掛け合いを見ながらクスクス笑っていた。
「東宮様!すみませんッッッ!出掛けに御引き止めしてしまいまして!」
千鶴が気付き一歩下がる。
「気にしないでよい。いつも御苦労。」
「ありがたきお言葉勿体のうございます!」
「千鶴ちゃんも来れれば安心なんだけどね。」
「そんな澪菜様!無粋な事はしませんよ」
澪菜の一言に朧はピンッと来た。
「千鶴、秘密は守れるかい?」
「はい。黙っていろと言われれば、墓まで持って行きます。」
「姫の為なら、何でも出来るか?」
「勿論です!忠義を誓ったあの時からそのつもりです。」
いきなりな朧の質問に、何故そんな事を聞くのかわからないけれど、揺るぎなく答えられる。
澪菜に言ったら、怒られるだろうけど、この命とて、澪菜の為になら捨ててもかまわないと思っていた。
「よし、決まりだな。千鶴も乗りなさい。」
「はいっ?」
「お前も一緒に行くんだよ。紫陽花見に行こうか」
朧の微笑みんでいるが何か違う気がする。
「東宮様…失礼ながら、この御旅行なにか御有りになるんですか?」
千鶴が真剣な顔で聞くが、朧は「さてね…」と反らすだけだった。
「早く牛車に乗りなさい。」
「えっ!東宮様と女御様と同じ車だなんて、恐れ多いです!ついて来いと言われるなら、後ろを歩きますので。」
千鶴は大慌てで、もう10歩くらい後退りした。
「来てくれるなら、お前にも話す事がある。早く乗りなさい。」
にっこりしてた表情が一変し、真剣な顔になる。有無を言わさず、千鶴も牛車に乗り込んだ。
ガタンッッッガタガタン
別荘へ着く頃には、夕暮れになっていた。千鶴も牛車の中で話しを聞かされ、旅の目的を理解していた。
澪菜が帝に狙われている事。そして、それを助ける為に不死の妙薬を探す旅にでている事を。
「そんな事になっていたとは何も知らず御恥ずかしい限りです。」
澪菜の周りに起きている情況を1番近くにいたのに、知らなかったのがかなりショックだったみたいだ。
「知らなくて当然だ。そのように我々が動いていたから。」
「お慰め申し訳ございません。千鶴、澪菜様の為に出来る限り頑張りますから!!お気をしっかり持ってくださいませ」
「ふふ。私の姫は蝶の様に鳥のように飛び立ってしまうから、千鶴に任せたよ」




