参拾参
具体的にはどうするのだろうか。紙に戻ってしまったら、ばれてしまうんではないか不思議で仕方ない。
「処刑の時には、私の幻術で、本物同様に見せますよ。」
「本物同様って、春晃さんの術は凄いんですね」
「ええ。私にかかれば、何万物人を幻術に一度にかけてあげましょうぞ。」
「それって」
「血飛沫は飛び、肉片を切り取って見せます」
「春晃、姫にはそこまで聞かせずによい。」
淡々と語る春晃を朧は止める。澪菜を腕の中に引き寄せながら両耳を優しく塞いだ。澪菜は朧を見つめながら大丈夫と訴えた。
耳は解いてくれたが、腕の中は離してくれなかったので春晃とはそのまま会話を続けた。
「式神さん痛くないの?」
「式神に感情もなければ、痛みなどはない。」
「そぅ、でも…何か可哀相な」
そんなに生々しいのでは、例え式神といえど、痛みや苦しみが感じるんじゃないのかと思えてならなかった。
「姫は優し過ぎるからやはり、屋敷に戻っていなさい。」
「朧!!でもそれじゃ!!」
「後は私が見届けるから。」
朧は澪菜の背中をポンッと押すと、澪菜を待っている従者達の元に連れて行こうとした。
「いやだ!」
澪菜は朧の方に向き直ると、ギュッと抱き着いた。
朧が抱きしめる事はあれど、澪菜から抱き着いて来たのは初めてだったから、驚きを隠せなかった。
「だめだよ!私の性でこうなったんだから。私も最後まで見届けるよ」
優しく宥めるが、澪菜は引かなかった。
「見る。一緒についててくれる?」
「わかった。姫の仰せの間々に。」
そして、澪菜もここに残る事に決まった。
―――――――――――――
処刑は、日が調度中央に昇る時間に行われる。
澪菜は朧と共に、処刑場中央に来ていた。
春晃は別で、場の裏に回っていた。
術をかけるのに、静かな場所で、出来るだけ近くで他の者に見つからない場所を探した結果だ。
失敗は許されない。
謀ると知れ渡ってしまったら、例え東宮と言えど、只ではすまないだろう。刻々と迫る時間に息を飲んでいた。陽射しが一段ときつくなり、太陽が頂上に昇る。辺りが騒がしくなって来た。
「来るぞ。」
朧が真剣な表情で牢から処刑場へ続くの入口を見詰める。
騒ぎ声と共に、大勢の役人に囲まれ、涼の形をした式神は縄に括られて連れられて来た。
澪菜は式神に近寄る事も許されず、ただその場で見守るだけだった。
「ここまで来たら、後は春晃を信じるだけだよ。」
「うん」
震える手で澪菜は朧の着物の裾をギュッと握りしめた。
そして、処刑へと着々と進んで行った。
「下の者、御東宮様方御所に忍び込み騒ぎを起こし、あまつ東宮女御様に危害を加え、賊とみなす。よって万死に値する。」
役人は罪状を読み上げた。式神は何の反応も無く、その場に座らされていた。
「何か言い残す事はあるか?」
「……………………」
「無いのであればこの間々、お前は最後を迎えるぞ。」
「……………………」
役人は後ろに下がると、別の刀を持った役人が前に出て来た。
騒がしかったのが、一瞬にして鎮まり返る。
皆の視線は式神の元に集まった。
「安らかに成仏してくれよ」役人は呟きながら、刀を振り上げる。
自分で選んでここにいる。澪菜は目を背けたかったが、しっかりと見開いていた。
ザンッッッッ
役人の振り下ろした刀は、首を跳ね上げる。
飛び散る血液と、床一面に広がる赤い滲みが罪の色をまざまざとさせていた。あまりにも無残な光景に、観客の誰ひとりと悲鳴すらでない。
澪菜は必死に、朧の腕に捕まり堪え、立っているのがやっとだった。
背中からもう一刺しして、とどめをさす。
息絶えたのを確認されると、式神の遺体は役人達に回収されていった。
そして、普段の静けさを取り戻していった。
誰もいなくなっても、澪菜はただ立ち尽くしていた。
「姫、春晃の元に戻るよ。」
朧の声に我に戻ると、張り詰めていた緊張が一気に切れ、その場に座り込んでしまった。
「姫…!!!!」
――怖い――私の行動一つでこうなってしまう―――そんな気がなくても――――――悪い方へ進んでしまうんだ―――責任の重さがのしかかる。
「なんで、こんな事になるんだろう。」
恐怖。悲しみ。くやしさ。己の不甲斐なさ。
色々な感情が溢れ出る。手の震えが止まらなかった。
「人間楽な事、悪い方には簡単に流される。しかし、それに怯えていては何も出来ない。運命は定められてはいるが、進むのは自分だから。」
朧も辛い選択を幾度となく、して来たのだろう。
私も自分への戒めの為、二度と同じ過ちを繰り返さないが為ここにいる。戻る事は出来ない。前に前に進むしかないんだ。
澪菜は立ち上がると、朧と供に春晃の元に戻っていった。
春晃はまだ、裏側にいた。地に陣を張り、その中で目をつむり、静かに瞑想している。
「春晃、御苦労。」
朧の声に反応し、スクッと立ち上がった。
「そのご様子ですと、上手く行ったみたいですね」
あいかわらず、無表情で話す。
「春晃さんあの……有り難うございます。」
「礼は早い。まだ、終わってはいない。埋葬されるまでは気を抜けぬ。術が解けてしまっては身も蓋も無い。」
「そっか、そうだよね。」
「暗い顔をするな。後は私に任せておきなさい。」
慰めてくれたのだろうか?春晃は淡々としているから、感情がわかりずらい。事務的に言ってる気もするが、たぶん慰めてくれたのだろうと思い、澪菜はよろしくお願いしますと返事をした。
春晃は陣を片付け始めながら話をつづけた。
「東宮!ご報告遅れましたが、不死の山と呼ばれた大体の位置を掴みました。」
「誠か!」
「はい。」
想定よりもかなり早い報告に、澪菜も朧も喜びと驚きが交差した。
「史実を解いていくと、恐らくここより、遥か北の大地にそびえ立つ、国1番の大山の事だろうと。詳しくは、白菊に言伝してあります。私はここから当分離れられませんので、そちらから受け取ってください。」
「わかった。何から何まですまない。春晃お前がいてくれて、助かる。」
「ありがたき御言葉。」
必要な事だけ言うと、春晃は忙しそうに去って行った。




