弐拾弐
「では、そろそろ行ってくるよ。」
「気を付けて行ってらっしゃいです。」
澪菜は手を振り、見送りをする。朧はにっこり微笑み部屋を後にした。しかし、その笑みが澪菜には何かいつもと違う気がした。表情が澪菜に何かひっかかった。
「朧!!」
気がつくと、バタバタと追い掛けて、朧の着物の裾を掴んでいた。
「ん?姫?私がいないのは寂しいのかい?」
「あ、、、いや、、朧、、、何かあったの?」
朧は真剣な顔で覗き込む澪菜に驚いていたが、後はいつもと変わらない表情だった。さっきは違う風に見えたんだけれどな。
「勘違いならいいんだけど。なんかさっきいつもと違う気がして。朧には、こっち来てからいっぱい助けて貰ったから、スッゴい感謝してるよ。私なんて、何も出来ないと思うけれど、出来る事なら何でもするから?言ってね」
言おうか悩んだけれど、思い切って言って見た。
朧に感謝してるのは本当だ。朧がいなかったら、澪菜は今頃生きていたかもわからない。野垂れ死んでたかもしれない。野党に襲われて殺されたかもしれない。
自分に出来るなら役に立ちたい。そう思う。
朧は少し悩んで答えた。
「じゃあ…抱きしめてもいいかい?」
「ホえ!!?」
「抱きしめッッッて!!?え!!?え!!?」
顔を赤らめながら叫ぶ。なぜにそうなる!?
「嫌?」
髪をくるくる触りながら言ってきた。
やっぱり、どことなく表情がいつもと違う気がする。
普段なら絶対断るけれど、何故だろうか断れなかった。断ってはいけない気がした。
「10秒だけだよ!」
真っ赤になりながら答えた。朧がふわっと引き寄せる。朧の胸に顔が埋もれる。高貴な香の薫りが澪菜を包み込む。温かい体温が心地いい。見た目より、しっかりした体にやっぱり男の人なんだと感じる。
ほんの数秒だったが、長い時間抱きしめられてた気がした。
「ありがとう。今度こそ行ってくるよ」
手を振りながら、朧は仕事に出掛けて行った。
「澪菜様、お見送り終りましたし、部屋に戻りましょう。」
千鶴が連れ戻しに来た。
「今の見てたの!!?声かけてくれればよかったのに。はずかしぃ」
「そんなっ。無粋な真似しませんよ!!仲睦まじくて、嬉しい限りにあります。」
いやいやいや!
気をつかってる場所そこじゃないから!
「それより、千鶴ちゃん朧様子おかしくなかった?」
「東宮様ですか?私はいつもとお変わりなく思いますが……。」
「そぅ。」
やっぱり気のせいだったのか?私より女房達、千鶴の方が朧の事をわかるだろうし。不安は胸に残っているが、澪菜にこれ以上出来る事はない。朧に何もない事を祈りながら千鶴と、部屋に戻っていった。
――――――――――――
部屋に戻って少したつと、屋敷が少し騒がしくなっていた。
「何かあったのでしょうか?」
千鶴が確認しようと廊下に出ようとすると、バタバタと慌ただしく、廊下を走って行く女房がいた。
「女御様の部屋の前ですよ。」
慌ただしい姿に澪菜が不安がっているので千鶴が女房を止めた。
「おそれいります。屋敷に賊が入り込んだみたいなので、女御様、危ないので部屋から出ないでください。」
「賊!!?」
「東宮様はご存知なのですか?」
丁度入れ違いになってしまった様で、朧はまだ伝わってない。知っていたら片付くまで出仕しないだろう。早馬を出したみたいで時期に耳に入るといわれた。
「そっか、ありがと。」
違和感があったのはこれの事かとよぎったが違うみたいだ。
一時ほどたっても、依然慌ただしさは変わらなかった。
人は集まるばかりで、屋敷の中の空気は張り詰めて行く一方だった。
こういう事はよくあるのかなと聞いてみたら、いつもならすぐ捕まるはずと答えだった。
「捕まらないって事は、逃げた後かも。わたも確認してこよう「だめです。我慢してください」
澪菜の言葉が終わる前に強くかぶせてきた。
「でも私だけ隠れてても」
「女御様に何かあってはなりません。」
千鶴の監視が厳しくて、部屋からは出れそうにはない。
朧も何か悩んでいた様だったけれど、私が頼りにならないから何も言ってくれないのだろう。
昔から、両親や涼に守られて大事にされて。自分では何も出来なかった。しなかった。
こっちに来て初めて友達も出来て、少しは変わり初めていると思っていたけれど、結局は守られているだけ。
役に立ちたいけど何も出来ない自分が悲しかった。




