拾弐
こういう時どうしたらいいか、澪菜には全くわからない。困り果てていると、奥から千鶴より一回りくらい年上の女性が出て来た。
「御前失礼いたします。私、女房頭の静子と申します。千鶴が何か失礼をいたしましたか?」
静子は千鶴を庇う様に話し掛けて来た。しかし、静子もまた何かに怯えているようだった。
「静子様、私が澪菜様の御髪を傷めてしまったのです。申し訳ございません」
「傷めたって、ちょっと絡まっただけですから…大丈夫で……すよ」
澪菜が訂正しようとしても、二人は全然聞いていなかった。
「この子は最近入ったばかりで…不手際の処分は私が受けます故、なにとぞお命だけはお助け下さいませ。」
澪菜は静子の発した言葉に驚きを隠せなかった。
命なんてそんな、、、。
二人は、澪菜が髪を絡めただけで命をもって償えと言うと思っているのだろう。気付いてしまうととても悲しくなる。
「鬼にも少しは、慈しむ心はないのでしょうか?」
「鬼?私の事?」
静子の言葉が理解出来ないでいると、静子は話を続けた。
「金色の髪、碧色の目。いにしえから鬼とし伝えられてきました。」
だからか。千鶴が目を合わせなかったのも、この怯え様も、私を「鬼」だと思っていたからか。
髪と目の色で今まで散々言われてきた。
この国には金色の髮の人間何ていないのだろう。
でも、人としても見なされないのは、さすがに堪えるなあ。静子は真っ直ぐに澪菜を見詰めていた。千鶴を庇う様に。
「あ………………………」
澪菜はそれ以上言葉を返せなかった。
自分が鬼だと思われているのに、何を話したらいいかわからなかったのだ。
沈黙がどれくらい続いただろうか。そんなに時間はたっていないだろうが、すごく長い沈黙に思えた。
カタンッッッ
その時庭から物音がした。
「何奴ですか!!?」
沈黙を最初にやぶったのは、静子だった。
言葉に誘われるかの様に、物音の主は現れた。
「すまない、立ち聞きする気はなかったが……聞きづて為らぬ話しをしてたから」
「春晃様!!」
庭から出て来たのは、春晃と呼ばれる男の人だった。
「春晃様、ここは東宮女御の対の屋。例え、貴方様とて、軽々しく入ってよい場所ではありませんよ。」
静子が春晃を止める。すると、春晃は書状を一通出した。
「許可は東宮、御自らでている。」
その言葉を聞くと、静子は何もいわなかった。
「姫君、御前失礼。私は安倍家、五代名当主陰陽師春晃。御見知りおきを」
「……初めまして。澪菜です。」
軽く挨拶を交えると、春晃はまた、静子達の方に向き返った。
「静子殿、あなた方は東宮直々に姫を任せられているのだろう。」
静子は怖ず怖ずとはい答えた。何を言われるのかをもう気付いているのだろう。
「では、姫を愚弄するのは、東宮の事を愚弄しているのとは変わらぬ。叛徒とされてもおかしくはないぞ。」
春晃は腰にさしている、刀に手を伸ばした。
「しかし春晃様!!このような出で立ちでは、皆が怯えるのは仕方ない事…」
「問答無用。」刀を引き抜き、振りかざす。
騒がしさに集まってきた他の女房たちが悲鳴をあげた。
「あぶない!!」
澪菜は見ていられずとっさに二人をかばった。二人と春晃の間に入り両手を広げた。
静子と千鶴は不思議な顔をして澪菜を見上げていた。
「えっと春晃さん!何も殺さなくても!!」
「どきなさい。謀反を働いた者は罰っせねば、後に大きな災厄となる。」
春晃は冷たい目で淡々と答える。
「何故先程まで蔑まれていたのに、その様な者を庇う?」
確かに澪菜には、怨んだり、憎む理由はあれど…かばう理由何てなにもなかった。
ただ言えるのは、ここをどいたら二人が処罰されるのが明確なのだ。