表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

母たちの愛

作者のこっそりオアシスにようこそ。

コミカライズ第一巻発売記念!

こっそり好き勝手にやらせていただいております。

6000字、もとい8000字こえちまった……。

こんなあほな内容で……。

すみません……。

みなさん、こんばんは!!


ホギャっと誕生!! 

たまのトラブルは、(非合法手段で)スカッと解決!!

私、この物語の主人公!!

スカーレット・ルビー・ノエル・リンガードです!!

現在、絶賛、新生児。

ボディの主成分は乳母のメアリーのおっぱい。

あとは知識チートと美貌とド根性です。


前回のあらすじィ!!


なんとメアリーこそが、私の「108回」での思い出の乳母、フタリーチナヤ・フストリェーチャだと判明!! 


ええっ!? こういうのって、もっと引いて引いて、感動的に演出するのがセオリーでしょ!? なんで本編そっちのけで、こんなあほなスピンオフでさらっと暴露してんのよ!?


私が……!!

私がどれだけ……!!

「108回」で、フタリーチナヤ・フストリェーチャと再会したかったと……。


……いや、それ以前に……。


私は今、とんでもないカオスに巻き込まれていてた。


お母様とメアリーが睨みあって対峙している。

距離が近い。

いがみあうにゃんこのようだ。

でも、メアリーの巨乳がさまたげになり、二人のソーシャルディスタンスは保たれていた。


火花散るその光景に実況が入った。のりのりで叫ぶのは、オランジュ商会の航海長だ。


※ポリコレ派の方は、実況部分をさらっと読み飛ばしてください。ストーリーに支障ありません。


「……でかいッ!! 寄せてあげる小細工など不要!! これぞ横綱相撲!! すでに牽制ははじまっていますぜ!! 対戦相手はもう涙目だ!!  刮目せよ!! 巨乳とベビーフェイスのギャップ萌え!! 16歳の美少女乳母!! おまえはママなのか、ロリなのか!? 船乗りを魅了するマーメイド!! 巨乳世界のきりこみ隊長!! フタリーチナヤ・フストリェーチャあらため、メアリー嬢の入場です!!」


わっと主にオランジュ商会の連中がわきたつ。


男って……最低……。


入場って、屋敷なんて吹っ飛んでるのに、どこに……。


そして、海の男は巨乳好きなのか……。まあ、遠洋航海中は禁欲すぎ、ジュゴンが人魚に見えるくらいだから……。潮風にさらされすぎて、脳みそ塩ふいたんじゃないかしら。


「……マ、ママ!? ロリ……!? あ、あの、応援ありがとうございます。でも、もう少し、小さな声で、普通にご紹介を……」


耳までまっかにしたメアリーが、胸を両腕でだきしめ、隠すようにして頭をさげた。


いくら授乳が平気でも、こんなにセールスポイントでまつり上げられると、さすがに恥ずかしくなったらしい。もっともちっとも隠せてないけど。


「……スカーレットさん。ボクは貧乳も正義だと思います。真実はひとつとは限らない」


セラフィ!! その気遣いいらないから!!


慈しむまなざしを私に向けるな!! 私はまだスリムな胸になると決定したわけじゃない!! 絶賛成長期まっただなかよ!!


「わ、私ももしかすると、これから成長が……」


それはありません。お母様。


あほな紹介はまだ終わらない。


続いて、



「……貧乳!? 違う!! これは弓のため、自ら選んだ進化だ!! 慎ましいバスト!! なのに、惜しげもなくさらけだされる内腿のまぶしさはベスト!! 禁断の三角コーナーで男たちを惑わせ、そしてハートを射貫き殺す!! これがメルヴィルの叡智の結集だ!! 攻略したのは紅の公爵ただ一人!! 清楚でかまととな難攻不落の絶壁弩砲(バリスタ)!! その姿、まさにディアーナの化身!! 弓キチたちのアイドル!! 貧乳界の凄腕スナイパー!! 公爵夫人、コーネリア・マラカイト・ノエル・リンガード・メルヴィル様の入場です!! ぐわっ!?」


王家親衛隊が「生コーネリア!!」と大喝采をおくる。


いや、だから、どこからどこに入場してくんの……。


前から疑問なんだけど、生コーネリアって誉め言葉なの? 私、生スカーレットって言われたくないなあ。かまととって、そんな言葉、昼ドラぐらいでしか使わないんでは。


そして、禁断の三角コーナーって……あの腿のつけ根の……。赤い目をした妻ラブ門番がいるから、地獄に通じているのはまちがいない。


そして、航海長がお母様に弓矢で射られ、悲鳴とともに倒れ伏した。


「……メルヴィルの矢は、胸を侮辱した人間を許しはしない」


お母様、その矢ってオランジュ商会が用意した矢……。


自分の持ってきた矢で自分が射られるとは。航海長、あはれ……。まあ、虎の尾をがしがし踏んでたし当然か。あまり同情はしない。


お母様は凛っと顔をあげた。


「……と、とにかく!! この戦い、負けられない。どうか見守っていて。ヴェンデル。スカーレット。私はあなた達の妻として、母として、恥ずかしくない生きざまを貫いてみせる」


さすがハイドランジア王の即位式で、各国の大観衆相手に弓技披露をしただけはある。メアリーと違い、場慣れしている。10年間引きこもっていたとはとても思えない。


ただ……今の生きざまは、ちょっぴり娘として気恥ずかしいです。


「……絶壁じゃない。お腹よりは出てる……はず……?」


なぜ、語尾がかすれて消えた!?

そして、疑問符!? 

成人女性としてそれはいいのか!?


お母様、いじけてしゃがみこんじゃダメです!! 三角コーナーが衆目にさらされることになります!! ほら!! 赤目の悪魔が、白馬にまたがってパトロールをはじめてます!!


「わりいごはいねぇが」


オーラが秋田なまはげの形になって踊っています!! 目撃者を惨殺する気満々ですよ!?


倒れた航海長の背中を棍でつついて、生死を確認しています。死者に鞭うつとはこのことか!


「……念のため、あともう一回ほど殺しておくか。やれ」


「ヒヒヒーン!!」


ああっ、白馬キックをお見舞いしだした!!


だが、馬のとどめの後方キックで天高く舞い上がり、きりもみ状態で顔面から地面に叩きつけられた航海長は、むくりと身をおこした。


「へへっ、海の男はそう簡単にはくたばらねえんでさ。地獄は、船底の板一枚へだてて日常茶飯事ってね。……以上!! スカーレット嬢の母親度が高いのはどちらか選手権!! 選手紹介を終わります!! なお、両選手プロフィール制作は、うちの会頭、セラフィ・オランジュでした!! みなさん、盛大な拍手を!!」


しぶとく復活した航海長に突然ふられ、セラフィは愕然として叫んだ。


「なっ、ボクは知らないぞ!?」


「いやあ、紅の公爵閣下の怖いこと。まるで超ド級の大嵐でさ。あれを乗り越えられるのは、会頭しかいねえ。……俺らの命、あずけますぜ」


「嵐……!! ……わかった。みんな、ボクを信じてくれ。その命、あずかった」


セラフィは、きっと顔をあげ、力強くうなずいた。


オランジュ商会のみんなが、わっとわき立つ。


セラフィ、あんた……。ひょっとして学級委員とか押しつけられるタイプ? ちょっと親近感わくなあ。


「まかせろ。オランジュ商会はボクの家族。ボクらは一心同体だ」


セラフィは向かい風に髪をなびかせ、頼れる背中を見せた。


「……ほう、ならば妻を侮辱した部下の不始末、おのが命をもって贖うか。赤塵旋風、受けてみるか」


お父様はくるうりとセラフィのほうに向きなおった。


ふしゅううっと、変な蒸気が口の端から漏れている。


こえええっ!! なんなの!? この生きる蒸気機関は!?


その眼光をセラフィは真正面から受けとめた。


「ボクにとり、オランジュ商会は、恩人であり家族だ。ともに泣き、ともに笑う存在だ。退くわけにはいきません」


……あのさ、セラフィ。


盛り上がってるとこ悪いんだけど。あんた、その家族に絶対だまされてると思う。


航海長はお父様のターゲットからはずれてガッツポーズだし、オランジュ商会のみんな、セラフィがお父様にボコられるか、ボコられないかで、後ろでこっそり賭けをはじめてんだけど……。


……しかし、なんでこうなったあっ!?


私は頭を抱えた。


途中まではよかった。


メアリーとお母様が、かわりばんこで仲良く私を抱っこしていたのだ。だが、そのうちに、今夜はどっちが私と添い寝するかという話になり……。二人は譲れないと、互いに主張しはじめた。


いや、だから、屋敷はすでに吹っ飛んでるんですけど……。


どこで寝ろというのやら。


そして、言い合いは白熱し、ついにどちらが相応しいか、みんなに多数決で判断してもらおうという流れになったのだった……!!


前回の続きはね、よかったのよ。待望のシリアスではじまったの。


下記の感じで。


はい、照明さん、私にスポットライトあてて。こっから私の見せ場、フタリーチナヤ・フストリェーチャの回想シーンね。


ん、なに? 

この物悲しい調べは……。


おい、こら、ブラッド。この女装メイド。なぜドナドナを口笛しだした?


「……悲しい雰囲気を盛り上げようかと」


そんなBGMはいらないから!! 私はセリにかけられる仔牛か。この超絶美新生児の憂いをふくんだ横顔だけで、お涙頂戴はじゅうぶんなの!!


それはー、

懐かしさと哀しさの追憶……。


実際に私がフタリーチナヤ・フストリェーチャと出会った記憶はほとんどない。彼女が乳母としてつとめたのは、私が乳飲み子の一年間だけだったからだ。


でも、おぼろにおぼえている。


ひだまりの中、優しく私をあやす声と匂いとぬくもり。そして、別れのときの身を切られるようなつらさ。それはかけがえのない感覚だ。


ブラッドおおおっ!!


笑点を口笛で吹くんじゃなあああいっ!!


「悲しそうだったから元気づけようと」


その気遣いちょっぴり嬉しい!!

だけど今は不要だから!!


こほん。

私とフタリーチナヤ・フストリェーチャは、ほんとうの母娘のように仲が良かったらしい。


だから余計に忘れられない。彼女と再会できるはずだったあの六歳のときの大雪の日のことは。


ここからしばらくは六歳の私です。


きょとんとした表情に愛くるしい笑顔!!

腰よりも長い髪が、動くたびに、狐の尻尾みたいにはねまわるよ。


うおおっ、かわいい!! 

この私、連れ帰って守りたい!!

ウサギのぬいぐるみを抱きしめたやばさといったら。

我がことながら、生唾もんですよ。


おさわりは厳禁ですよ!!

撮影はオッケーです!!

握手は握手券と引き換えで!!


「ねえ、まだ来ないかな。わたし、髪、変じゃない? あ、やっぱりこのドレスのほうがかわいいかも。でも、おとなっぽいのもすてがたいし」


私は、初デートの女の子のように浮足立っていた。


自室と玄関を何度も往復した。移動のあいだにもしかしたら彼女が到着しているのではと、はらはらした。精一杯おめかしし、鏡の前で幾度となくチェックした。


私はフタリーチナヤ・フストリェーチャを歓迎するため、歓びのダンスを創作していた。その名をぷりりんおしりダンス。ミツバチのごとくお尻を旋回する、幼児の腰椎の限界に挑戦したダンスである。お父様をはじめ、たくさんの使用人の前で得意げに披露した。これは私の黒歴史となった。使用人たちは、皆このダンスのことをおぼえていて、私が10歳をこえてなお、宴の席でアンコールされ、身悶えせんばかりの羞恥においこんだ。



だが、夕暮れになり、やがて夜になっても、フタリーチナヤ・フストリェーチャは現れなかった。


私の笑顔はやがて泣きべそに変わった。


それでもあきらめきれず、ずっと窓辺で待ち続けた。つらいとき、しあわせの呪文がわりだった彼女の名前をずっと呟きながら。


でも、結局、彼女は来なかった。


私は夜の寒さで身体を壊し、しばらく寝たきりになった。

まさに薄幸の美少女……。


生まれてすぐにお母様と死に別れた私にとり、フタリーチナヤ・フストリェーチャは、母という存在そのものだった。なのに、彼女にとって、私との約束は、急にすっぽかせるほどのものでしかなかったのか。


思慕が強かった分、裏切られたショックは甚大だった。


私はやさぐれた。

不良化した。


「このウサギ、もはや酒でなぐさめるしかないのです」


六歳の私は、「憂さ」をしょんぼりしたウサギと勘違いしていた。


「このつらさ、晴らさでおくべきか。今夜は、とことん飲むから、おまえもつきあうのです」


強い酒を飲んだこともないのに、酔ってつらさを忘れようと、酒倉にこっそり忍びこんだ。愛用のウサギのぬいぐるみを供にして。


「……1月はしょーがつで、酒がのめるの。酒がのめる、のめるのよ。酒がのめるのよ。酒をのめのめ、のむならばあ~。のんで、のんで、のまれて、のんで~。ういっ。ひっく、てやんでぇ。わたひの酒がのめらいんれすか? だんまりしてないで、なんとか言ったら、ろうれすか? バカにして……!! バカにして……!! うえええーん……!!」


ひどいからみ酒である。


ぬいぐるみと差し向かいで飲み続け、私はへべれけになり、泥酔をこえて昏睡し、屋敷じゅうを大騒ぎさせた。6歳児にワイン6本はムリがあったようだ。誕生日のろうそくにちなみ、1歳につき1本である。


私はしばらく子供部屋に蟄居を命じられた。


……だが、すべては私の愚かな早とちりだったのだ。


フタリーチナヤ・フストリェーチャは約束を破りなどしなかった。彼女は、私に会いに来る途中で急死したのだ。


見かねた執事に真相を聞かされた私は、彼女の名前を呼び、号泣した。


雪になかば埋もれて亡くなっていたフタリーチナヤ・フストリェーチャは、私そっくりの人形を持参していたという。彼女は私のことを忘れてなどいなかった。私が慕うように、彼女もまた私を娘のように思ってくれていた。その人形は彼女の出身地で、母親が娘のしあわせを願い、贈るものだったのだから。


彼女に出会ったら、こっそり呼びかけてみようと思っていた言葉が、私の口からこぼれた。


「……ごめんなさい……!! ……わたしの……おかあさん……!!」


自分が許せなかった。


なぜ、私は彼女の誠意をうたがったのか。



フタリーチナヤ・フストリェーチャが、よく乳飲み子の私をあやしていたという樹の幹にすがりつき、私は泣き続けた。


6歳の私に、人形をはにかみながら渡してくれる彼女の幻を見た気がした。幻の私は、彼女の前で、ぷりりんおしりダンスを披露していた。しかも、満面のどや顔で。その部分はいらないです……。


あと少しで再会できるだった。

手が届く未来だった。

なのに、どうして……!!


ううっ、思い出すだけで涙が……!!


「オアアアアウアウアー……!!」


こらえきれず声を出して私は泣きだした。


はい、ここからは今の新生児な私ですよー。


そのとき、メアリーはそっと抱きしめてくれた。


「……お嬢さま、泣かないでください。メアリーは、奥様やブラッドのように強くないし、出来ることもわずかです。でも、一緒には泣けます。なにがあっても、ずっとそばにいます」


そう優しく語りかけながら、私の背中をぽんぽんと叩いた。

そのまなじりに涙が浮かんでいた。

うっすらとぼやけていた記憶が、急に色がついたように鮮明になる。

感情がはじけるように重なった。


……おぼえているよ。


フタリーチナヤ・フストリェーチャはいつもこうやって、私をあやしてくれた!!

小さな私と一緒になって、本気で泣いたり笑ったりしてくれて……!!


あんな人は他にいないよ!!


メアリーとフタリーチナヤ・フストリェーチャは同一人物だ!!


再会の夢が……かなった……!!


「お、お嬢さま!? ……ど、どうなさったんです!?」


涙まみれでしゃくりあげだした私に、メアリーはうろたえ、おろおろした。

「108回」の人生記憶のある私は、めったに泣かない新生児だ。


「や、やっぱりまだお乳が足りなくて……!?」


あわてて人目もはばからず、また胸をはだけようとする。


「……違うよ。メアリーさん。スカチビは腹がへっても悲しんでもいない」


ブラッドがメアリーを止めた。


「え、でも、それじゃ、私、どうすれば……」


困惑するメアリーに、この女装メイドは、青空みたいな少年の笑顔をみせた。


「ただ、抱きしめてあげて。スカチビが抱え込んでるものは、オレにも全部はわからない。だけど、こいつの願うことだけは、なぜだかよくわかるんだ」


……ブラッド。


あんたはどうして、そう時々かっこいいこと言うかな。私じゃない令嬢だったら、惚れちゃうよ?


……私の予感はのちに的中する。


こいつは無自覚なナイトっぷりで、無数の令嬢たちを虜にし、あげくとんでもない大物にまでべた惚れされ、国をひっくりかえすような大騒動になるのだが、今の私達にそれを知る由はなかった。


「お嬢様、大好きですよ」


メアリーに熱烈頬ずりハグされながら、私は感謝した。


ブラッドは私の視線に気づき、いたずらっぽくウインクした。


ふ、ふん。恋愛小説のヒーロー気取りですか。

ヒロインみたいなメイド服着てるくせに。

……ま、まあ、感謝はするけど?

あ、ありがと。

ほっぺにチュウぐらいしてあげてもいいよ。


「……いいよ。たいしたことしてないし。あ、でも、スカチビに見せてもらいたいものがある」


な、なに!?

もしかして、ちょっぴりいけないこと?


私はどきどきしながら、次の言葉を待った。


「ぷりりんおしりダンスっての見せてくれ。すっごい面白そう」


むきーっ!! また人の心を勝手に読んで!!

忘れろ!! その黒歴史は!!


私は憤慨し、手足をばたつかせた。


いや、実際息苦しい……!!


私はメアリーの胸でおぼれていた。


メアリーは胸をはだけていない。

なのに、おっぱいにはさまれ、私の首から上は沈没状態だ。

服ごしでこれだ。巨乳おそるべし。


「……すげえ。会頭がさっき死にかけるわけだ」


シーサーペントか。

リヴァイアサンか。

オランジュ商会の航海長が戦慄のうめきをもらした。


セラフィがうなずく。


「子供のボクだから、あの抱擁に耐えられたが、大人の男だったら、ひとたまりもなく溺れ、昇天したろう。メアリーさんの胸は凶器だ。航海長、油断するな。あの海峡は果てしなく深い。女性はまさに海そのものだ」


「心得てまさあ。だけど、びびるような腰抜けは、オランジュ商会にゃ一人もいやしません。ハイリスクハイリターン望むところでさあ。会頭とともにどこまでも行きますぜ」


けなげな私というシリアス路線をムチャクチャにする会話だ。


いや、あんたら、恰好いいこと言ってるけど、バカでしょ。いったいどこに行く気なの? いかがわしい店? そして、その巨乳成分、うちの母方のメルヴィルの血筋にも分けてください……!!


「あの……私も、娘を抱きしめてもいいかしら……」


メルヴィルの申し子のお母様がおずおずと両手を差し伸べてきた。


「……私にメアリーみたいに、娘を愛する資格はないわ。許されないことをした。どんな言葉で謝ればいいのかえさえわからない。こんな愛らしくて賢い子にふさわしくない最低の鬼よ。でも、母としてやり直すチャンスをあと一度だけちょうだい。お願い……」


お母様は泣きそうな表情で懇願した。


「オアアアアオオー!!」


私はぶほおっとおっぱいの海から浮上し、懸命にフォローをいれた。


お母様は私を守るため、なんども魔犬ガルムに立ち向かった。


あの化物は、獣というより天災だった。雪崩や山津波や落雷と変わらない。なのに、お母様は、たった一人で相手どったことさえあったのだ。


ブラッドが私の気持ちを代弁してくれた。


「……母親と娘なんだからさ。言葉でなく態度で愛を示せるはずさ。ただ抱きしめてあげればいい。肉体言語ってやつさ」


おい、肉体言語は、パンチとかキックのことでは……。


「ところで、ぷりりんおしりダンスはいつ見せてくれるの?」


だから!! それは忘れろっつうの!!


でも、ブラッドは、どんなときも不思議と場をおさめてくれる。

彼が動くと、最終的にみんな救われる結果になるのだ。

だから、みんなの信頼も厚いし、人望もある。


このコミュニュケーションお化けめ。


「108回」での孤高な仏頂面が信じられないほどだ。

もしブラッドが貴族だったら、あっという間に社交界の重鎮になったろう。


今だって、お母様ははにかみながら、私をメアリーから受け取り、ぎゅっと抱きしめてくれている。


「スカーレット。私もあなたが大好きよ」


お母様もメアリーも笑顔だ。

もちろん私もだ。


お母様の腕力が強すぎて、少し笑顔がひきつるけど……。飲んだばかりのミルクが逆流しそうになるのを、涙を浮かべて必死に飲み下す。赤ん坊の噴門の貧弱さよ……。


でも、我慢する。

お母様のこの笑顔を壊したくないもの。

私は空気が読める新生児なのだ。


「……コーネリアさん、遠慮しないで。もっと力いっぱい抱きしめて。スカチビ、なんか我慢してる。うんこじゃないみたいだから、きっともっと強く抱きしめてほしいんだ」


ブラッドおおおっ!!

おまえはもっと気をつかえ!!

お母様の超絶腕力でこれ以上しめあげられたら、空気の前に私が壊れるわ!!


「スカチビが抱え込んでるものは、オレにも全部はわからない。だけど、こいつの願うことだけは、なぜだかよくわかるんだ」


ちっともわかってないわ。

このトンチキやろう。


いい笑顔で言い放たれるとむかつくわ。


あんた、前のセリフ、そのままコピペしたでしょ?


しかし、ちょっと気がかりだ。


お母様は、いまだに私を殺そうとしたことを引け目に思っている。

もともと精神的に追い詰められていて、そこにマタニティブルーと麻薬中毒まで加わったら、どんな女性でもおかしくなるのだが、責任感の強いお母様はご自分を許せないでいる。


魔犬ガルムとの戦いが終わり、真っ先にそのことをお父様に謝罪していた。


「……私は娘を殺そうとしました。最低の母親です。どんな罰でも受けます」


ちなみにお母様の謝罪を聞いたお父様は、


「……すまなかった。コーネリア。つらかったろう。君には感謝こそすれ、恨む気持ちなど欠片もない。よくも、慈愛の女神のようなコーネリアに、天使のようなぼくの娘を殺させようと仕向けたな……。心を深く傷つけたな。よし、ちょっとシャイロック商会を根絶やしにしてくる」


と秋田なまはげオーラを十人ぐらいひきつれ、報復にうつろうとした。


シャイロック商会はハイドランジア最大の商会だが、この妻ラブ英雄は本気だ。

たとえ四大国が相手でも怯まず喧嘩を売ったろう。

私達が総出で止めなければ、今頃シャイロック商会の本宅ぐらいは地上から消し飛んでいた。


「……父上と母上も同罪だ。ぼくの愛する家族にここまでちょっかいを出したんだ。ただで済むと思うなよ。二度と悪だくみが出来ぬよう、心をへし折らせてもらう」


その報復計画を打ち明けられ、私とブラッドはふるえあがった。


なんというえげつない因果応報の手だ。

この人、絶対に敵にまわしちゃダメなタイプだ。

冷酷王子と魔王とメガネ参謀のコラボレーションだよ。


あまりにも酷すぎる計画なので、私が少し訂正せざるをえなかった。ハイドランジア国内でウラドな串刺し計画はいかがなものか。心どころか命までへし折ろうとしてるじゃない。いくらなんでも目覚めが悪くなるわ。


お母様がかえって心を病む結果になると説得すると、渋々軌道修正に納得はしてくれたけど……。


天使のような娘とか言ってくれてたけど、この人の血を半分受け継いだんじゃ、私、はっきり言って堕天使枠のほうだよ……。


はあ、気が重い……。

呪われた血の絆だ。


それに比べてメアリーとお母様の愛の尊いこと。

絆のありがたいこと。


育ての母と生みの母の奇跡のコラボレーション!! いや、フタリーチナヤ・フストリェーチャの件とあわせて、歓びも三倍!! こういうスピンオフを私は求めていたの!!


みんな、もっともっと私を愛して!! 私もみんなが大好きだよ!!


……なのに、なんで私の争奪戦になるのか。


そして、事態はさらに急展開。


黙って成り行きを見守っていたマッツオが、ゆっくりと巨体を動かし、進み出た。


「……女性を採点し、価値を決めるというのは、(それがし)の趣味ではないのでな。騎士は古来より、貴婦人の名誉を守るために戦うもの。ならば、男同士の一対一の代理戦争で、決着をつけるというのは如何かな?」


そして、マッツオはメアリーに片目をつぶって笑いかけた。


「『紅の公爵』殿は、いうまでもなく奥方様のために戦うであろう。もし、宜しければ、某がメアリー殿の騎士として名乗りをあげさせていただきたいのだが」


メアリーは、ぽかんとし、立ち尽くしている。


「……某ではお嫌か?」


マッツオの心配げな声にはじかれるように、


「嫌なわけありません!! 私がマッツオ様を嫌うだなんて!! むしろ大好きです!!」


あわてて叫んだため、何を口走ったか理解するまで、少し間があった。

それからメアリーは皆が見守るなか、両手をわたわた振って弁明しだした。


「いえ、好きといっても、そういう好きではなくて!! もちろんすてきなお方とは思っているのですが!! な、なんで、こんな物語みたいな展開が、私にふってくるの!? 心の準備が!! わ、私、なに言ってるんだろう……!? なんて恥さらしな姿を……!! もう……死んじゃいたい……!!」


「恥さらし? メアリー殿がか? まさか。あなたほど気高く勇気がある女性を、某はそうは知らぬ。だから、その名誉のために戦いたいのだ」


「……も、もうやめてください!! マッツオ様は、恰好よすぎるし、優しすぎるんです。私なんて田舎者で子供だって産んでて……!! そんなマッツオ様に戦ってもらう価値なんてないんです……!! み、見ないでください!! 私、今きっとひどい顔して……!!」


「いや、メアリー殿は、どんな表情でも大変可愛らしいぞ。男なら十人が十人とも、あなたのために戦ってみたいと思うだろう」


うわあ……。

マッツオはこれで計算してないで、思ってことをそのまま口にしてるだけなんだよなあ。

女王時代の私の側近だったからよく知ってるんだ。


そりゃ、ごつい顔しててももてたはずだよ。

だけど、亡くなった恋人のフタリーチナヤ・フストリェーチャ、つまりメアリーを想い続け、最期まで独身を貫いたんだけど。


「もうやめて……これ以上、褒められると、私、恥ずかし死にしちゃいます……!!」


そのメアリーはまっかっかだ。

羞恥のあまり小さくなっている。

なのに口元がほころびそうになるのを必死に隠している!?

そりゃあ、憎からず想っている男性にここまで言われ、まったく嬉しくないわけがない。

乙女だ。


……一気にラブコメな流れに軌道修正した!?


※さすがに一万字をこえそうなので、ここで切ります。


まさか、これ、次回に持ち越し!?


女性の胸は宇宙です。

それに男は夢中です。

無の境地でこの話をかきました。

頭をからっぽにしたとも言います。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こっちもめちゃくちゃいいです!! 今までもここのことは知っていて今あるのは2〜3ヶ月くらい前に全部読みました!けど、コメント送るのはここでは初めてです(笑) ちょこちょこ恋愛要素が入ってい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ