フタリーチナヤ・フストリェーチャって……ええええっ!?
作者のこっそりオアシスにようこそ。
コミカライズ第一巻発売記念!!
こっそり好き勝手にやらせていただいております。
みなさん、こんばんは!!
ホギャっと誕生!! スカっと解決!!
私、ベビーフェイスのプリティレディ。
このいかれた物語の主人公。
スカーレット・ルビー・ノエル・リンガードです。
みんな大好きスカーレット!!
略してダイスカって呼んでね!!
……アタシ、〝1番〟でなきゃダメなんだからっ!!
主にぐーたらで。
お父様の白馬が忠告するようにいなないた。
賢者のようなまなざしで私達を一瞥する。
「なあ、あの馬が言ってんだけど。『ブームに寄せたメタネタは、あとで読み返すと恥ずかしいから、ほどほどに。それに巨乳、ツインテールは、むしろスカーレットよりアリサのほう』ってさ。なんのことだ?」
ブラッドが不思議そうに首をかしげた。
あんた、馬の通訳もできるんだ……。
もうなんでもありね……。
そういえば、なんで私、こんな言動を……!?
気を取り直して、前回のあらすじィッ!!!
王家親衛隊隊長マッツオと、私の乳母のメアリーが、なんだかとってもいい感じ。
ほら、私の恋愛センサーがびんびん反応してるよ!!
「ス、スカチビのあほ毛が、勝手にぴこぴこ動いてる!?」
驚くブラッドに、私はにやり笑いを浮かべた。
乙女、三分会わざれば、刮目して見よ。
じつは、私には、あほ毛が触覚みたいに感情をあらわす初期設定があったのだ。
(※本当です)
残念ながらキャラデザとして、ボツになったけどね!!
今、恋愛の気配に、私の秘めたる力が解放された!!
新生児の成長スピードなめないでよね。
ここはジャンル異世界恋愛!!
恋愛がからめば、乙女は奇跡を起こせるの。
私はあほ毛でハートマークをつくってみせた。
乙女はルビーでキセキします!!
サブタイトル回収!!
あ、私が胸からさげてる「真祖帝のルビー」が輝いた。
文字が浮かび上がる。
まさかアンノ子ちゃんからメッセージが!?
「おい、『ギャグに私をまきこまないで(泣)』って書いてあるぞ」
「そんな馬鹿な……」
ブラッドがあきれかえり、セラフィが頭を抱えた。
気にしない。気にしない。
どうせ、このいいかげんなスピンオフ、ノリで書いてるだけだから。
次回にはたぶん設定を忘れてる。
おっと、寄り道しちゃった。
二人の恋愛話に戻ろうっと。
乳母っていっても、メアリーはまだ16歳の美少女だ。
対してマッツオは、魔犬ガルムと殴り合うほどの偉丈夫。
……絵面的にちょっと逮捕案件……。
でも、二人とも恋には奥手なタイプなのは共通だ。
特にメアリー。
ほっておいたら、死んだヨシュアと旦那さんに義理立てして、死ぬまで独身でとおしちゃいそう。
それじゃ困るのよ。
だって、ヨシュアは、お母さんのメアリーのしあわせを願い、マッツオにメアリーの未来を託したんだもの。
鈍感マッツオは気づいてないけどさ。
ここは頼れるこの私が、二人の仲を取り持つしかないよね。
私はどっちにも幸せになってほしいのだ。
マッツオは子爵でメアリーは平民だ。
そのままだと貴賤結婚で、マッツオは爵位を失っちゃう。
でも、へーきへーき!!
お金さえ手元にあれば、メアリーをどこかの貧乏貴族の養女におしこめる。
家系図をでっちあげてもいいしね!!
……やっぱ世の中、銭さまやで。
108回も悪逆女王をした経験値をなめないでもらいたい。
山ほど悪だくみのスキルはもちあわせているのだ。
万事おまかせ、非合法手段でスカっと解決よ!!
おーほっほっほっ!!
「……アーッアッアッアッ!!」
私は悪役令嬢らしく身をそらして高笑いした。
「見ていて楽しいな。うちの娘は元気いっぱいだ」
「きっと、勇ましいあなたに似たのよ」
お父様とお母様が、私をほほえましく見守りながら、会話している。
うーん、自分で言うのもなんだけど、娘自慢ですませていい案件か?
こんな新生児おかしすぎでしょ!?
でも、大人なら、これぐらいの度量がほしいってもんよ。
そこの王家親衛隊とオランジュ商会!!
人を子泣きじじいを見るような怯えた目で、ちらちら見るんじゃない。
我が家族を見習ってよね!!
私は「108回」では、生まれてすぐ、お母様とは死に別れていた。
だから、両親そろっての愛情は、はじめての体験で少しむずがゆい。
だけど、心はあったかい。
いいよね。家族って……。
「よかったな。スカチビ。愛してくれる家族がいて」
ブラッドがあやすように、抱きあげた私の背中をぽんぽん叩いた。
またこども扱いして!!
でも、まあ、今回は不問に帰してやろう。
私達、家族の絆に免じて。
これから私達は三人で歩んでいくのだ。
私は満たされた心もちで、両親の会話に耳を傾けた。
「だけど、コーネリア、君もそうとうお転婆だったぞ。特に忘れられないのが、あの森の主の大猪をしとめたときだ。邪魔になるからとスカートを腰までたくしあげて……」
「やだ。恥ずかしい……!! 若気の至りよ。あのときのことはもう忘れて……」
ふふっ、思い出話がはずんでる。
私も将来の旦那さんと、こういうふうにメモリアルを共有できるといいな。
今度の人生こそ、私も大恋愛してみせる!!
私は決意に拳をにぎりしめた。
お父様はお母様の手をとった。
「生涯忘れるものか。あの素晴らしい光景を。今も目どころか魂に焼きついているよ。今夜、またベッドの上で、あの女鹿のような美脚の記憶を、より鮮明に上書きさせてほしい」
お母様は少し悲しそうに睫毛を伏せた。
「 もう私も若くないのよ。それに出産したしもの……。くずれた身体を見たら、きっと落胆するわ。あなたに嫌われたくない」
いえいえ、お母様はじゅうぶん引き締まったボディラインですよ。
とても経産婦とは思えません。
私のフォローは無用だった。
お父様はほほえみ跪き、お母様の手の甲にキスをした。
この人、しょっちゅう片膝ついてるな。
膝当てなしだと、ズボンに穴あかない?
「落胆? ぼくが? 嫌う? 君を? 天地がひっくりかえっても、ありえないな。コーネリアは、ぼくの愛しい女神だ。女神の美しさは不変に決まっている。そして、ぼくは女神コーネリアへの殉教者だ。死ぬまで……いや、死んでも、この愛は変わらない」
「ヴェンデル……!! うれしい!! 私もよ。ずっと愛してる!! お願い、ぎゅっとして」
立ち上がったお父様の広げた両腕に、お母様は息をはずませてとびこんだ。
胸に上気した頬をすりよせる。
二人は熱い抱擁をし、キスを交わした。
メアリーがこの場にいたら、きゃーきゃー大騒ぎするところだ。
「コーネリア、君のためなら、ぼくは世界を敵にまわして戦える。世界よ。ぼくの腕からコーネリアを奪えるものなら、かかってくるがいい。昼のコーネリアも夜のコーネリアも、すべてぼく一人のものだ!!」
お父様はお母様を片手で抱きしめたまま、天に向かって剣を抜き放ち、雄々しく叫んだ。
私はなにを見せられてるんだ……。
なんでこんなところで、高らかに世界へ宣戦布告をおっぱじめるの。
……殉教者じゃなくて、狂信者の間違いでしょ。
いや、狂戦士というべきか。
どうして娘自慢が、思い出話に、そして夜の睦言に、三段ロケットみたいに加速するのよ!!
家族の絆どころか、私置き去りにして、二人っきりの成層圏に飛んでっちゃってるんですけど!?
「よかったな。スカチビ。愛し合う家族がいて」
ブラッドが私の背中を優しく叩く。
「そして、たぶんもっと家族が増えるぞ」
「オアアアアアッ!!」
いいことあるかああっ!!
私は抗議の拳をにぎりしめて絶叫した。
早急に子供部屋の開設を要求する!!
こんなイチャコラ両親と同じ部屋なんて冗談じゃない!!
私のトレードマークの紅い髪と瞳が、桃色に染め直されるわ。
憤慨する私をよそに、セラフィは焦点があわない目で空笑いしていた。
「あはははっ。ロケット? 成層圏? ボクの理解できない言葉が、こんなにたくさん……。ボクはこんなにも無知だったのか。井戸の中のかわずだ。うぬぼれやのミジンコだ。恥ずかしくて死んでしまいたい……」
うーん、まじめすぎると生きるのつらいよ?
私の心の中のセリフを深く考えると、たぶん発狂するから。
特にこんな作者のイドがあふれでた作品だと。
っと、それよりも、メアリーとマッツオの縁結びをするにあたり、ひとつだけ大きな問題があったんだ。
それは、「108回」で私の乳母をしてくれてたフタリーチナヤ・フストリェーチャのことだ。
わずか一年のあいだったけど、本当に親身になって新生児の私を世話してくれ、私も別れのとき、「ママ、いっちゃダメ」と大泣きするくらい懐いていたらしい。
ずっとその人に再会したかった。
私が六歳のときにチャンスはあったんだ。
でも、残念なことに、直前にその人は亡くなってしまった。
私は号泣した。
「108回」で出産直後にすぐお母様と死に別れていた私にとり、フタリーチナヤ・フストリェーチャは、母性の象徴だった。つらいときは、その名前を「しあわせの呪文」として唱え、のりきってきた。
彼女がマッツオの恋人だったと知ったのは、ずっとあとのこと。
燃えさかる城から女王の私を逃がす寸前、マッツオが教えてくれたときだ。
フタリーチナヤ・フストリェーチャは私と別れたあとも、いつも私を案じ、よくマッツオに思い出話をしてくれていた。だから、マッツオは、自分の娘のように私のことを思っていたって、閉めた扉の向こうでそう言ったんだ。……ううっ、うわーん……!!
「オアアアアアッ!! オオーン!!」
「な、なんだ。スカチビ!! どうした!? おもらしか!?」
ちがう!! あの別れのときを思い出したら、悲しくなったの!!
マッツオは彼女を生涯忘れず、独身を貫いた。
……ごめんね。メアリー。
もしフタリーチナヤ・フストリェーチャがもうすでにマッツオと出会っているなら、私、やっぱりこの恋は応援できないよ。ちょっとブラッド、マッツオに聞いてほしいことがあるんだけど!! 通訳お願い!!
「ほいほい。ねえ、騎士の大将。えええっと、ふたりちゃんがふとりねーちゃんって人、知ってる?」
マッツオがたくましい首を傾げた。
「二人ちゃんが、太り姉ちゃん? なんのことだ?」
ちがうっ!! フタリーチナヤ・フストリェーチャ!!
ブラッド!! もう一度、通訳して!!
そして、マッツオもよく思い出して!!
どこかで会った記憶はない?
すっごく大事な運命の人のことなの!!
「……ふむ、聞き覚えはないな」
苦心惨憺して、フタリーチナヤ・フストリェーチャの名前を正しく伝えたときには、マッツオは空で唱えられるほどになっていた。だが、残念ながら覚えがないということだった。私はほっとした反面、とてもがっかりした。
「……スカーレットお嬢さま!! だいじょうぶですか!?」
息せき切ってメアリーがすっとんできた。
私の泣き声を聞きつけたのだ。
マッツオが安心させようと笑いかけた。
「なに心配はいらぬ。某の運命の女性の名前とやらを、スカーレット嬢が教えてくれていたのだ」
しまったあああ!!
マッツオはメアリーの気持ちに気づいてないんだ!!
今、そんなこと口にしちゃダメだよ!!
「マッツオさま……の運命の女性ですか。それは素敵ですね」
やめてぇぇぇぇ!!
言葉と裏腹にメアリーの目のハイライトが消えてるよ!!
恋バナ大好き、恋愛突撃隊長のキャラを忘れてる!!
なのに、こっちの気苦労もしらず、マッツオは上機嫌で語った。
「フタリーチナヤ・フストリェーチャ、という女性だそうだ。すっかり覚えてしまった」
「……えっ?」
固くなっていたメアリーの肩が、ぴくんっと動いた。
信じられないことを聞いたというふうに、目を見開いている。
マッツオは語り続けた。
「フタリーチナヤ・フストリェーチャか。このあたりでは聞かぬが、不思議と心に響く名前だ。もしもその女性に出会ったなら、プロポーズでもしてみるか。もっとも、いかつい某を見たら、熊かと思って逃げられるかもしれんが。いや、なかなかに楽しかった」
マッツオはそう言って豪放に笑いとばした。
ああ、冗談だと思ってたんだ。
そうやって、ありえない長い名前をおぼええられるかどうかのゲームだと。
まあ、普通そう思うよね。
だが、マッツオはすぐに笑うのをやめた。
「どうかしたのか? メアリー殿」
そう太い眉をひそめ、声をかけざるをえないほど、メアリーの反応は激烈だった。
「……どうして? ……えっ? えっ? 私、からかわれてる? でも、マッツオ様はそんな方じゃ……じゃあ、偶然? そんな……ありえない……!!」
顔を赤くしたり白くしたりしながら、うろがきたようにオロオロしている。
不安げで泣きそうな顔をしている。
まるで小さな女の子のようだ。
いつも元気いっぱいで、でも情動は安定しているメアリーには珍しい。
私達は思わず顔を見合わせた。
なにかメアリーのトラウマに触れてしまったのかと思ったのだ。
凍りついた空気を打破したのは、意外にもお父様だった。
お母様と人目をはばからぬ熱いキスをしたポンコツ公爵は、とりあえずの飢えがみたされ、途中から私達の会話に耳を傾けていた。
「フタリーチナヤ・フサ……いや、フスリェーチャは、メアリーの正式名だ。覚えるのがむずかしいだろう。彼女のクロウカシス地方では、長い正式名を、恋人が間違えず唱えられるかで愛の深さをはかる、なかなかにロマンチックな風習があるんだ。それにしても、なぜ君達がその名前を知っている?」
お父様は顔をあげ、そう不思議そうに尋ねてきた。
内容が私の頭にしみこむまで、数秒の時間を要した。
「……オ、オ……オアアアアアアッ!?」
そして、私は声を限りに、驚愕の絶叫を放ったのだった。
作者が愉しむために書いています。
ゆえに内容ははちゃめちゃです。
読みづらい部分が多々ありましょうがお許しを。