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ヨシュアとの約束

ま、また文字数が……。

こんなの読んでくださってる方、申し訳ございません……。

コミカライズ「108回殺された悪役令嬢」1巻発売に名をかりた、好き勝手劇場です。

ひっそりこっそり更新中!

みなさん、こんばんは。


スカッと参上。スカッと解決。

人呼んでさすらいのヒロイン。

下位欠スカーレット……!!


スカーレット・ルビー・ノエル・リンガードです。


……ちょっと!? 下位欠ってなんの誤変換!?

ダメ人間っぽいからやめて。

きちんと快傑って直しといてよね。


だいたいさ。

前話でも、バーナードをバーナビーって、二箇所も間違ってるし。

ほんと、てきとうな作品だよ。


「……くけええーッ!! 私の名はバーナ―ド!! アーッ!!」


ほら、寝かしつけた怪物を、また起こしちゃった。

絶叫して暗黒舞踏を披露しながら走り回ってるよ。


私、もう知らないからね。

寝たふり寝たふり。


その寝返り、ハイドランジアじゃ2番だね。

1番は……この私よっ!! ヒューッ!!


……うーん、こんなネタ、わかる人いるのかしら?


「おまえさ、さっきから誰に話してんの?」


ブラッドがメイド服のスカートを揺らし、不思議そうにたずねた。


「オアアオッ」


内緒。乙女にはいろいろ秘密があるの。


バーナードの不満と我が家の雇用問題をみごとに解決し、勝利の寝返りをうっていた私は、魅惑のウインクでブラッドに答えた。


「オアオッ、アオアオッ」


それより早く「毒婦の頭巾」を回収しにいきましょ。

あれを元手にじゃんじゃん儲けるんだから。

あのごうつくばりのバイゴッド夫妻が、金庫代わりに使ってた隠し部屋だもの。

きっと、この大爆発でも無傷で残ってるはずよ。

あ、セラフィに査定お願いって伝えてね。


「……だってさ」


私の言葉をブラッドに通訳され、セラフィは頭を抱えて悩みだした。


「……うーん。いったい、この短い赤ちゃん言葉のどこに、これほどの情報が? 人間は成長することで、なにか大切な能力を失っているのか……。もしかして、赤ちゃん言葉には無限の可能性が?」


そして、セラフィはきっと顔をあげ、


「オアオアアオオーッ」


と私に向かって話しかけた。

私は呆れ果てて答えた。


「……オアオー」


……なんて破廉恥な。

セクハラだよ、セラフィ。

いくら私が新生児でも、レディーのはしくれ。

もうちょっと言葉を選んでほしいな。


「……だってさ」


ブラッドが再び通訳する。

セラフィはがくっと肩を落とした。


「ダメだ。まったく言葉の法則が摑めない。自分がなんて言ったのかさえも……。ブラッドはあんなにはっきり理解できているのに。ボクはもしかしてダメ人間なのか? なにが風読みだ。なにが天才だ。女の子の言葉ひとつ理解できないのに。恥ずかしい。消えてしまいたい……」


ええっ、セラフィのやつ、どうしたの!?

しゃがみこんで、指先でうじうじ地面をこねくりまわしだしたよ。


「ありゃ、会頭の悪いくせがはじまっちまいましたか」


オランジュ商会の航海長が、困ったように、海で日焼けした顔をつるんっとなで、私達にこっそり耳打ちした。


「幼くしてオランジュ商会を背負った会頭は、無理して一分の隙もねえ天才像を見せつけてきなさった。そうしねえと、みんなが不安になっちまいますからね。その反動で、ときどき幼児退行するんでさあ。なあに、心配はいりません。ひとしきりいじけたら、すぐ元に戻りなさる」


セ、セラフィも苦労してるんだ。

そのやせ我慢、女王経験者の私にはよくわかるよ。


ブラッドに抱っこしてもらい、私はセラフィの背中をぽんぽん叩き、なぐさめようとした。

だめだ。新生児の私じゃ、手が短すぎて届かん。

私は手足を激しくばたつかせてみた。

も、もうちょっと……。


「……ぐえ」


指先でなく、爪先がセラフィの頬にめりこんだ。

ブラッドがびっくりしたように私を見た。


「落ちこんでるセラフィに追い討ちかよ。鬼赤子だ」


ち、違う!! 

今のは不幸な事故!!

わざと足蹴にしたわけじゃないから!!

ひとに妖怪みたいな呼び名をつけるな!!


名誉挽回のため、私はセラフィを激励した。


「ウーオーアーオーオー!!」


落ちこまないで、セラフィ。

セラフィはすごいヤツだよ。

これくらいでくじけるなんて、あなたらしくない。

ブラッドは血の流れで私の考えを読めるの。

赤ちゃん言葉なんて普通は理解できなくて当然よ。

はいっ、ブラッド、通訳して。


「……だってさ」


ねえ、あんた、さっきからその台詞ばっかね。

ほんとに通訳してる?

さぼってない?

だいたいね。

小説は文字だけなんだから、こういうメタネタはほどほどにして、きっちりセリフ喋っとかなきゃ、他のキャラにぜんぶいいとこ持ってかれちゃうよ。


「だいじょうぶ。心配すんな。言葉なんてなくても、思いやりってのは伝わるもんさ。スカチビの優しさは、きっとセラフィの心に届いてるよ」


うおっ、急に雄弁になりやがった。


だが、ブラッドはちゃんと仕事してたらしく、セラフィはうなずくと、すくっと立ち上がった。


「……ありがとう、スカーレットさん。そうですね。ボクは今までどんな荒波ものりこえてきた。ここにいるオランジュ商会のみんなと一緒に。だから、これからも挫けはしない。ボクは、オランジュ商会会頭、セラフィ・オランジュだ」


オランジュ商会の喝采を受けるセラフィに、私はほっと胸をなでおろした。


これでオッケーね!!

さあ、「毒婦の頭巾」回収へレッツゴー!!


「オオアオアーッ!! アオオー……」


と気勢をあげたところで、急な眩暈に私は襲われた。

あ、そういえば、ずっと食事してなかったっけ。

ばたばたで空腹を忘れてたよ。


魔犬ガルムと一晩中やりあったのだ。

体内エネルギーなんてとっくに底をついてる。

赤ちゃんボディに、これはきつい。


「メアリーさん!! スカチビが燃料不足!! 授乳頼む!!」


ぐったりした私に、ブラッドがあわてて叫んだ。


「オアッ!?」


私はあわてて飛び起きた。


駄目だよ、ブラッド!!

だって、メアリーは今さっき、ヨシュアとお別れしたばっかりだよ。

もう少しそっとしておいてあげようよ……。


おろおろする私の鼻をブラッドがつまみ笑いかけた。


フ、フガっ!?

乙女の鼻になにすんのよ!?


「あいかわらず頭いいけどバカだな。スカチビは。赤ん坊が変な気をつかうなよ。それにな、メアリーさんはおまえが思っているほど弱くないぞ」


「ふふっ、気にしてくれてありがとうございます。お嬢さま。でも、だいじょうぶですよ。ヨシュアは私の心の中でずっと一緒です。だから、私もがんばって生きていかなくちゃ。ヨシュアが、あれがぼくのお母さんなんだよっ、て胸をはれるように……」


そう言ってメアリーはとってもすてきな大人の笑顔を見せた。


お母様が優しいまなざしで頷いた。

お父様がそっとその肩を抱く。

朝の風が、公爵邸の敷地をわたる。

水滴がきらきら輝いた。


……ああ、これが本当に強い大人の女性の生き方なんだ。

お母様がメアリーを尊敬するわけだよ。


その場の誰もが心をうたれ、メアリーを見ていた。

バーナードでさえ怪鳥の雄叫びをやめていた。


メアリー……。

じゃ、じゃあ、お願いね!!


私は涙をぬぐい、メアリーに頼んだ。

メアリーは、元気いっぱいに笑顔で応じた。


「はいっ、まかせてください!! お嬢様!!」


メアリーは思いっきり胸をはだけようとした。


「オアアアアアッ!?」


「ちょ、ちょっとメアリー!?」


「メ、メアリーさん!! ストップストップ!!」


その場の男達全員があわてて目をそらし、私とお母様とブラッドが必死に止めたが、当のメアリーはきょとんとしていた。それから理由に思い当たったらしく、朗らかに笑った。


「私は乳母です。これがお仕事ですよ。いちいち恥ずかしがってたら、ヨシュアに笑われます」


職業意識高すぎィッ!!


急に私達の視界がかげにおおわれた。

王家親衛隊隊長マッツオの巨躯が、私達の前にいた。


「……その心がけお見事。だが、貴女は母であるが、可憐な女性でもある。騎士としては、衆目に肌をさらさせるのは忍びない。勝手な言い分だが、目隠しの壁になることを許されよ」


そう男らしく歯をみせて笑い、私達に背を向けると、どかっと胡坐をかいて座り込んだ。


おおっ、あいかわらずの男っぷりだね。

さすが女王時代の私の側近だよ。


「……あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」


「うむ。我が心の強さは貴女の足元にも及ばん。しかし、図体のでかさだけには自信があるぞ。心置きなく務めを果たされよ」


メアリーが礼を言い、マッツオは振り向かず鷹揚に頷いた。

心優しい大巨人という言葉がこれほど似合う人間はいない。


メアリーはブラッドから私を受け取った。

安心した私は心おきなくメアリーのお乳を貪り呑んだ。


……ん? いつもよりメアリーの胸の鼓動が大きいような?

でも、表情は平静だし、気のせいか……。


授乳活動にいそしむ私達にマッツオが話しかける。


「なあ、メアリー殿。うどの大木がこずえを鳴らしているとでも思って聞いてくれ。貴女が強いひとだ。だがなあ、もし泣きたくなったときは、悲しみを抱えたまま我慢せず、泣いてもいいのだ。そうすることで晴れる気持ちもあろう。涙にとらわれ歩けなくなるほど、貴女は弱くはあるまい?」


そしてマッツオは前を向いたまま、苦み走った笑みを浮かべた。

深くよく響く声で語り続ける。


「偉そうな口を叩いてすまんな。だがな、泣けない女性ほど悲しいものはない。それが優しい女性ならばなおさらだ。だからな。いつか泣きたいときがきたら、我慢せず泣いてくれ。……それがしの背中でもな。悲しみをうけとめる壁役ぐらいは果たせるぞ。気が向いたら遠慮なく使ってくれ。気が済むまで、殴っても蹴ってもかまわん。頑丈さだけは折り紙つきだ。あのときの貴女の拳は、ちとこたえたが。すまなかったな」


マッツオが言っているのは、メアリーが息子のヨシュアを亡くしていることを知らず、それを口に出させたことについてだ。あのときマッツオは詫びとしてメアリーに背中を殴らせ、自分で自分の頬をはりとばした。まだ気にしてたのか。律儀な男だよ。


「いえ、あのときは、私こそ救われました」


「はっはっ、そう言ってくれると、ありがたい」


メアリーは短く礼を言った後は、また黙ってマッツオの言葉に耳を傾けていた。

だが、胸元の肌が少しづつ桜色に染まっていく。

頬の色は変わっていない。でも、高鳴る心音は、密着している私にはもう隠せなかった。


メ、メアリー……!! 

胸がどくんどくんしすぎだよ。

もう、くわえてらんないんですけど!?


そんな状況も気づかず、マッツオはぐっと鋼の拳を目の前で握りしめた。

そして、この唐変木は女心を直撃するとどめの言葉を口にした。


「……それにヨシュアに頼まれたからな。ママを、ずっと守って、と笑顔でな。それがしの拳を小さな両手で包むようにしてな。男同士の約束だ。違えるわけにはいかん。皆ももちろん頼まれたであろうが……」


マッツオの言葉が嘘でないあかしとして、紅葉のような手形がふたつ、その拳に赤くついていた。


……気づいてないのか。

それヨシュアに頼まれたの、マッツオだけだよ。

つまり、そういうこと……!?


メアリーの胸が、とくんっとはねあがるように鳴った。


「お、お嬢さま……。も、もうおなかいっぱいですかね。メ、メアリーはちょっと洗濯物を忘れていました。もう行かなくちゃ。ブラッド、お嬢さまをお願い……!!」


いや、お腹ぺこぺこなんで、まだいけるんだけど。

ま、しかたないか。

こんなトランポリンみたいに胸が動悸してちゃ、お乳吸えないし。


メアリーはあわただしく胸元を正し、私をブラッドにあずけた。

あわただしくマッツオに礼を言い、走り去っていった。

その顔は耳までまっかであった。


……あ、メアリーがこてんっとこけた……。


私とブラッドは顔を見合わせ、ため息をついた。


全壊した屋敷のどこに洗濯物があるのやら……。


マッツオがびっくりしたように大目玉を見開いたあと、巨大な肩をがくりと落とした。


「こんなむさくるしい男がべらべら語ったから、気持悪がられたのであろうか。すまぬことをした」


こけたメアリーを助けに行こうとした足を止めてしまう。


ちがう!! 逆だよ!!

マッツオの前で胸をはだけているのが恥ずかしくなったんだよ!!


ブラッドにげっぷをさせてもらいながら、私はあきれはてた。


しかたないね。

ヨシュアの気持ちをムダにしないためにも、同じ赤ちゃん仲間として、このスカーレットお姉さんが、一肌ぬいであげちゃおう……!! ブラッドも協力してよね!!

作者の心のオアシスです。

書いてて楽しいです。

おもしろいかどうかは、また別問題なのは言うまでもありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見つけました、素晴らしい。本編も好きすぎる自分ですが、精神を削られるお話も多くて、読むのに覚悟がいるのです。でも好きすぎるんですが。こっちは気軽に読める感じで、楽しい。ご褒美です!!
2021/06/03 10:22 退会済み
管理
[良い点] 地の文悪ノリ当社比80%増! [気になる点] まぁ、暴走? でもそこが面白いところだしなぁ……。 気になるから面白いのか? [一言] メアリーとマッシオが愛い可愛! ほくほくします。 元ネ…
[一言] 「前世の私を殺したのは、お前か?!」 ってネタも欲しかったです。 こういうの大歓迎。 すいません最初「下位欠」を素で「カイジ」と読んでしまいました。 タイトルのぐうたらに引っ張られたのかな…
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