お父様からお母様へのプレゼント!? え、これってまさか……!!
鳥生ちのり様によるコミックス「108回殺された悪役令嬢」第一巻。
KADOKAWAフロースコミックより発売中!!
これはその記念という大義名分でつくった「108回殺された悪役令嬢」の好き勝手スピンオフです。
これを正史とみるか、こんなん認められるか、と放り出すか。
それは読者様の自由です。
やあやあやあ、遠からんものは音にもきけ。
近くば寄って目にも見よ。
私、この作品のヒロイン。
スカーレット・ルビー・ノエル・リンガードと申します。
……ふうん、この作品、まだ続くんだ。
メインタイトルのぐーたら大作戦を、投稿頻度に変えたのかと思ったよ。
「……だいたいですねえ。私の名前をバーナビーとよく間違えるのはどういうことですか!! 私の名前はバーナードです!! バ、ビ、ブ、べ、ボのバ!! わかりますか!! 公爵様!!」
(※なんのことか99%の読者様にはわからないと思います。あまりにも出番が少なかったため、作者が本編で名前を忘れ、バーナビーとバーナードと名前が入り混じっていたのです)
……あら、こっちも前話から続いてたんだ。
泥田坊……じゃなくてお父様の従者のバーナビーは、口角から唾を飛ばして喚き散らしている。
あのクレイジー公爵に食ってかかるなんて、よっぽど腹に据えかねたんだろう。
まるで破れかぶれの酔っ払いだ。
酔っているのは酒にではなく、怒りにだが……。
抗議の意志を示すためなら、マグマの中にだってダイブするだろう。
ハイドランジア最強の王家親衛隊がどん引きしているぐらいだ。
「あの紅の公爵相手に一歩もひいてない……」
「あいつ死ぬのが怖くないのか……」
「すごい勇気だ……」
ひそひそささやき合っている。
その言葉どおり、英雄のお父様がその迫力に押され、口をつむんでいるぐらいだ。
その反抗がこたえたのか、振り回されるバーナードのでっかいトランクを睨み、じっと耐えている。
すごいぞ!! バーナード!!
本編で影が薄すぎたぶん、作者が気を遣っているらしい。
……小さな親切、大きなお世話である。
こんな好き放題劇場で活躍してもキャラの格が下がるだけである。
ちっとも嬉しくない。
私もこの変な作品のメインタイトルから、私の名前を削除したいくらいだ。
うーん、でもさ。バーナビーもバーナードも頭文字は「バ」だよね。
のぼせあがって冷静な判断力を失っているのかな。
「キエエエーっ!! 私の名前はバーナード!!」
と怪鳥のように叫んでいるバーナードを横目にしながら、私は首を傾げ、さきほどのバーナードの言葉を思い返していた。
バ、ビ、ブ、べ、ボ……。あッ……!!
私はわかってしまった。
「私だって一族のまとめ役の、ブライアン老、ビル老、ボビー老に命令されなければ、公爵様の従者になんかなりたくなかったんです!! なんで怖がりの私が、敵陣のど真ん中に単騎突入するキチガイの従者になんか……」
ああ、やっぱりね。作者らしい安直なネーミングだ。
バーナビーは、私達を守るために魔犬ガルムと命がけで戦ってくれた三老戦士の縁者だったんだ。
「ですが、あのおそろしい三老はもういない!! 亡くなられたことに胸は痛むが、私は自由です!! やっと家令と執事と召使いと料理人と庭師と雑役夫を兼ねた、従者という名前の奴隷制度から解放されるのです!!」
天を仰いで両手を広げたバーナードの頬を滂沱とした悦びの涙が伝っていた。
ちょっと待てええええ!!
そんなむちゃくちゃな兼任従者、見たことも聞いたこともないぞ!!
最低10人ぶんくらいの働きを一人でやってたってこと!?
一日で過労死しかねない仕事量になるんですけど。
仰天した私がお母様のほうを見ると、察したお母様はうなずいた。
「バーナードさんはとても優秀なのです。彼がいないと、この公爵家はまわりません。ブライアンさんたちの縁者とは知りませんでしたが」
「……アオオオー、アオアオア?」
嫌な予感がした私は、いったいバーナビーにどれだけの賃金を支払っていたか、ブラッドを通してお父様に聞いてみた。
「ふむ、年給で金貨50枚(360万円くらい)だな。うちの家計ではどんなに切り詰めても、これしか払えないのだよ」
お父様は眉をしかめ、重々しく答えた。
私は唖然とした。
よその貴族の上級召使以下の賃金じゃないか。
そんであんだけ役目負わせて重労働って……私でもぶちきれるわ。
しっかし、クレイジーお父様はともかく、お母様までなんで異常に気づかないんだ。
呆れた私だったが、よくよく思い出してみると、お母様はいつも同じエプロン姿だった。
それに寝間着も朝に洗って夜にはまた着回していた。
他にあるのはあのいかれた戦闘装束だけだ。
とても公爵夫人とは思えない貧乏っぷりだ。
出してやりたくても金はない。
それにこの超人夫婦は、ステータスがお化けすぎる。
きっと人間の能力限界値がわかってないんだ。
私は目配せした。
お父様、この優秀な人材を流出させちゃダメです。
誠意を見せるのです。誠意を!!
私の警告が通じたのか、お父様は、バーナードの抱えた重そうなトランクを手にとった。
「重いだろう。受け取ろう」
おおっ、それですよ。その気遣いですよ!!
さすが私のお父様、やればできるじゃないですか。
娘としてとても嬉しいです。
「……コーネリア。愛する君へのプレゼントだ。海外に行かないとこの素材がなかったため、縫製に時間がかかってしまった。すまなかった」
トランクをがぱんっと開けると、お父様はドレスを取り出し、跪いてお母様に恭しく差し出した。
うん、通じてなかった。
さっきバーナードの言葉を黙って聞いてたのも、トランク奪取の機会をうかがってたのか。
いやだなあ。このポンコツ公爵と血縁だなんて……。
「……あなた……まさか、そのドレスは……!!」
お母様が頬を染め、両手で口をおさえる。
いやいやをするようにかぶりを振る。
まるであこがれの王子様に突然プロポーズされ、幸運が信じられず、呆然とたちすくむヒロインだ。
「ああ、そうだ。ぼくたちがはじめてキスを交わしたときの思い出のドレスだ。まったく同じものを復元させた。どうか受け取ってほしい。そして、また二人で思い出をつむいでいこう……」
「ヴェンデル……もちろんよ……ずっと私を離さないで……」
「ああ、ぼくがどれほど君と肌を重ねる日を夢見ていたことか……。夜が待ち遠しい。せめて今は唇だけでも……」
二人は見つめ合い、そして抱き合って長いキスをした。
……夜になっても寝床なんて吹っ飛んでるけどね。
あのドレスは、お母様が「赤の貴族」にいじめられたときに汚され、二度と着れなくなったというドレスの複製なのだと私は思い当たった。
うん、感動的なシーンだ。
バーナードも涙ぐんでいる。
情緒不安定なだけで、根は善人なのだろう。
そうでなければ、いじめにあって人間不信になっていたお母様に信頼されるわけがない。
うまくおさまったかもしれない。
次にお父様が余計なひとことさえ言わなければ。
「バーナード、家がこの通りなくなってしまった。おまえに建て替えてもらったドレス代は、しばらくツケにしておいてくれ。給金もしばらく待ってもらうことになる」
バーナードの目からひゅうんっと涙が引っ込んだ。
入れ替わりに頭から、ぴーっと湯気が出た。
「……×▽×△〇×!!!」
邪教徒も裸足で逃げ出すような呪詛をまき散らし、地団太を踏む。
なのにお父様は、
「それとこれからは愛馬の世話も頼む。デリケートな子だから、細心の注意をはらってな」
とこともなげに言い放った。
セラフィから贈られた白馬のたてがみを愛おしげになでる。
「ヒヒヒヒッ!! このうえ馬丁まで!? ケーケッケケケッ!! ヒョーッヒョヒョッ!!」
……あ、バーナード完全に壊れた。
地団太が呪いのデスダンスにパワーアップしたよ。
カックンカックン手足を奇怪に揺らし、カーリー女神みたいに踊り出した。
私はため息をついて、セラフィを手招きした。
セラフィはさすがだった。
この展開を予想し、私のほしいものをすでに用意してくれていた。
「……こんなこともあろうかと……」
セラフィ、その台詞、著作権だいじょうぶ?
私は、ブラッドをうながし、荒ぶるバーナードに近づいた。
バーナードは恨みでにごった目で私を睨んだ。
「紅目で赤髪の悪魔が二体に分裂した……!! ひひっ、ついに幻覚が襲ってきたか……!!」
お父様と私は、世にも珍しい紅い瞳と赤髪の特徴もちだ。
……一緒にされたくない。
お父様は悪魔だけど、私みたいなプリティーな悪魔いないからね!!
「やられる前にやってやる……。まずは赤ん坊から……」
「ちょい待ち」
攻撃態勢に入ったバーナードの機先を制し、ブラッドが彼の鼻先に一枚の紙をつきつけた。
「……これは!?」
バーナードが息をのみ、人間の顔に戻った。
それはバーナードの新たな給金の提案書だった。
お父様の支払っていた約五倍の額だ。
「オアアアアアーッ!! アオオオオオーッ!!」
「あなたの価値にはとても及ばないが、今はそれで我慢してください。いずれ、ふさわしい額を支払うようにします。どうか、これからもヴィルヘルム公爵家に力を貸してくれませんか、だってさ」
「スカーレットさんは……この公爵家令嬢は、ただの赤ん坊ではありません。それだけのものを支払える能力があります。このセラフィ・オランジュの誇りにかけて保証します」
私の言葉をブラッドが通訳し、セラフィが保証すると、バーナードはおいおい泣き出した。
「感激です!! やっと……!! やっと私の価値をわかってくれる主が現れた……!! 地味だの、存在が薄いの、さんざんな日々だった……!! 名前もおぼえてもらえなかった。知人にあいさつしても『こんにちは。バー……んんっ、いい天気ですねえ』って言葉を濁すんです!! こんなに評価されたのは生まれてはじめてだ!!」
そしてバーナードはひざまずき、私の手を取ると恭しく口づけした。
「このバーナード。よろこんで貴女のしもべになりましょう。未来のユア・マジェスティ。貴女こそこの国を治めるのにふさわしい」
いや、私、この人生じゃ女王やる気ゼロなんですけど……。
ひきこもる気は満々ですが。
おい、そこのポンコツ公爵!!
「生まれたばかりのぼくの娘に口づけるとは。そこに直れ、バーナード……」
物騒なことを呟いて抜刀するんじゃない!!
まとまりかけている話をむちゃくちゃにしないで!!
お読みいただきありがとうございます!!
ここは作者の心のオアシスです。
なにもかも忘れ、好き勝手やらせてもらっております。
ご了承ください。