ぐーたらキングダム大作戦、発動!!
「108回殺された悪役令嬢」という作品の派生話です。
5/1発売のコミックス(FLОSコミックさま刊)記念ということでつくってみました。
「オアオアオオオーッ!! アオオオーッ!!」
はじめての人はよろしくね!!
知ってる人はごきげんよう!!
心をこめて挨拶したよ。
想いが通じてたら嬉しいな。
私、スカーレット・ルビー・ノエル・ハ……
いや、今はリンガードか。
以後お見知りおきを!!
職業は公爵家令嬢。
チャームポイントは紅い瞳、赤い髪。
スカーレットの名前の由来だよ。
そう、私の名だ。地獄に落ちても忘れるな。
バキューンッ!!
身長55センチ、体重4・《ピーッ!》キロ。
スリーサイズは乙女の秘密。
生まれて数カ月のぴちぴち新生児です。
こう見えても女王経験者だ……。
意味がわからない? 赤ちゃんのくせに?
そりゃそうか。
じつは私、スカーレットとしての人生を、何度もループしてたんだ。その数なんと「108回」!! しかも、すべての人生が、①女王にのぼりつめ、②国民に反乱され、③最後は惨殺というコースだった……。
そのことに気づいた私はかたく決意した。
もう女王になんか絶対ならない。
社交界にも顔を出すもんか。
私はカタツムリのようにひきこもる。
そして、ぐーたら生きるのだ。
「オアオアオ―!!」
私はここに!!
ぐーたらキングダムの建国を宣言する!!
スカーレットのスカーレットによるスカーレットのための国だ。
通貨単位はミルク。
パスポートはおしゃぶり。
公用言語は赤ちゃん語だ。
「なに興奮して叫んでんだ。スカチビ」
気炎を吐く私に、メイドっ子が語りかける。
こいつの名前はブラッド。
メイド服なんか着てるけど男の子だ。
暗殺一族〈治外の民〉の長の子でもある。
「108回」では宿敵同士であり、何度も私の命を奪った相手である。だが、今度の人生では、ひょんなことから味方になった。ここは広い心で許してやろう。今後とも私のために尽くすがよい。おーほっほっほ!!
「アーッアッアッア!!」
「……ああ、まかしとけ。言ったろ。オレがおまえのナイトになってやるって。これからもよろしくな。スカチビ」
えっ……う、うん。こちらこそ。
いつもありがと……。
不束者ですがよろしくお願いします……。
……っじゃなあああいッ!!
これじゃ、まるでプロポーズじゃない!!
っていうか、私をスカチビと呼ぶな!!
すぐに大きくなるんだから!!
新生児の成長曲線なめんなよ!!
あっという間に、ボン! キュッ! ボンよ!
まったく、いつもバカにして!! 美人になった私を見て、後悔したって遅いんだから!!
「オアアアオオオオオッ!!」
私は悔しくて転げ回った。
……照れ隠しもある。
ブラッドは血の流れで私の考えを読む。
本当はブラッドにどれだけ感謝してもし足りない。
……ブラッドは私のために命がけで戦ってくれた。
おそろしい怪物から、最後まで私を守り抜いた。
私がもし女王なら、迷わず騎士に叙勲したろう。
ブラッドには一生かけても返せない借りがある。
……そんな気持ち、ばれたら恥ずかしい。
「怒るな。怒るな。オレは、今でも、おまえは可愛いって思ってるよ。で、『ぐーたらキングダム』って、よーするに、おまえがいつも言ってる『資金を貯めてひきこもりたい』ってやつだろ。でもさ」
ブラッドは私をなだめ、抱きあげた。
「この惨状を見ろよ。おまえの家、跡形もなく吹っ飛んでるぞ。もともと貧乏だったのに、立て直しもままならないんじゃないか」
風来坊に、貧乏を心配される公爵家……。
黙って聞いていたお父様お母様が、うっと胸をおさえて呻いた。英雄と弓の鬼才が、がっくりと地面に手をついて落ち込んでるよ。さっきまでの凛々しさが嘘のようだ。
ま、無理もない。
敷地内の金目のものは、祖父母のバイゴッド侯爵夫妻に残らず持っていかれてる。領地は悪政の名残でぼろぼろ。税収は見こめない。頼みの綱は、お父様への国家からの未払い褒賞金だが、これも、お母様を救うために、王様と裏取引し、王家親衛隊を派遣してもらったのでパアだ。
魔犬ガルムという怪物を撃退するため、私達はあらゆる手段と奇策、力を出しつくした。出し惜しみしていたら生き残れなかった。
奇跡的に全員の命が助かった。が、
引き換えに、多くのものを失った。
私達の目の前には、いまだ白煙をあげる公爵邸の残骸。大水がひいて泥まみれの庭園が広がっていた。大惨状だ。普通に収入のある貴族でも、年収のほとんどを注ぎこまないと復旧はむずかしい。まして貧乏なうちでは一生かけても……。
「いっそ他国に身売りするか……」
お父様が、ぼそっと怖いことを言った。
たしかに英雄「紅の公爵」の名は絶大だ。
どの国も喜んで受け入れてくれるだろう。
「おい、いいのか。おまえの父ちゃん、本気でやりかねないぞ」
ブラッドが眉をひそめて警告する。
わかってる。
このお母様ラブのクレイジー公爵は、お母様を守るためなら、平気でこのハイドランジアを捨てる。
私は安心しろと、ブラッドをぽんぽんした。
心配はいらないよ。私にまかせて。
本編ではあまり発揮できなかった私の知識チートが、ついに炸裂するときがやってきたのだ。
「108回」の人生経験をなめないでほしい。
なせば成る。なさねば成らぬ。何事も。
今日、ここから!!
私のひきこもりライフがスタートする!!
「アウアウオウッ!!」
ぐーたらキングダム大作戦発動よ!!
気合をいれて運命に立ち向かうの!!
ほら!! ブラッドも続いて!!
通訳のあんたは我が国の外務大臣なんだから!
「はいはい……えいえい、おー……」
やる気のないブラッドの気勢を尻目に、私は拳を握りしめた。
我に勝機あり!!
これぐらいの困難がなんだ。国民全部が敵にまわった絶望に比べれば、なにほどのことか。
あえて言おう。カスであると!!
「108回殺された悪役令嬢」という作品を知らない方は、なんのことやらわかりづらいでしょうが、ループ記憶のある赤ちゃんが、安泰にひきこもれる場所を確保しようとがんばる話です。
主人公の相棒は、メイドの恰好をした男の子。血をあやつる武術を使います。
主人公の母親は神がかった弓の才能以外はおおよそぽんこつです。父親は妻にストーカーじみた愛をいだくクレイジーな最強公爵です。いつまでも新婚気分の両親にあてられ、主人公はげんなりしています。