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第八話 冒険者、決意する

 「おーい!! ゲネル君! 起きろー!!」

 「うっ……はい!」

 「仕事の時間じゃぞ、起きんか!!」

 「うわぁ! すみません! 急いで支度します!」

 

 ガイズさんの怒号で目を覚ました。

 昨日どうやら飲みすぎたみたいだ…… まだ体内にアルコールの残っている感覚があり、少しふらつきながら、作業着に着替え集合場所に向かう。


 「おいおいゲネル君大丈夫かい?」

 「完全な二日酔いです。 すみません……」

 「僕もお酒飲みすぎて寝坊したことなんて何回もありますよ」

 「2回目やっちゃうとガイズさんからなが〜〜い説教が待ってるんで、これからはお酒も飲みすぎないように気をつけないといけませんね」

 「はい…… 反省します」


 どうやらガイズさんは1回目はまだ許してくれるようだ。

 お酒の飲み過ぎには気をつけよう……。


 それからインターンシップでの日々はすぐに過ぎた。

 土魔法と水魔法を使うこともあったが、魔法を使うのはどちらかと言えば、作業の一部分だけで、基本的には肉体作業の日々だった。

 それでも、魔法のおかげで相当作業の効率は高くなった、とガイズさんや、従業員の人達からも言ってもらえて、自分が役に立てていると言う実感がもてた。

 夜は次の日に失敗しない程度にお酒を楽しみつつ、従業員の方達とも仲良くなり、全員の名前をやっと覚えたと言うところでインターンシップは終了を迎えた。


 「ゲネルくん、この1週間本当にお疲れ様。 君のおかげでうちの農場は相当助かったよ。 これがこの1週間の給料じゃ。 少ないかもしれんが受け取ってくれ」

 「ありがとうございます」


 封筒に入った現金を受け取った。 このお金は久々に受け取る報酬で、労働の対価として得る初めてのお金であった。 

 冒険者時代に得ていたお金と比べると少ないかもしれないが、このお金は特別なものだと感じた。


 「ゲネル君、どうじゃった。 うちの農場で働いてみて」

 「何よりも…… しんどかったです」

 「ガッハッハ、正直なやつじゃ」

 「でも、仕事も悪くないなって思えました」

 「…… そうか! そう思ってくれたなら、インターンシップを受け入れた甲斐があると言うものじゃ」

 「こちらこそ、本当に参加してよかったです」

 「もしも、君が魔法農家と言う仕事を、そして、うちの農場を気に入ってくれたならいつでも待っとるよ」

 「あ…ありがとうございます!」

 「まあ、次二日酔で寝坊したら許さんがな! ガッハッハ」

 「ははは、その節はすみませんでした。 」

 「帰りの馬車はもう来ているようじゃから、気をつけて帰りなさい」

 「はい! 本当にありがとうございました!」


 帰りの馬車に向かおうとすると、従業員の人たちが全員集合していた。


 「皆さん、本当にありがとうございました」

 「ゲネル君、またうちで働いてくれるのをみんな望んでいるからね」

 「今日はゲネル君と一緒に飲めないと思うと寂しいよ〜」

 「ははは、また飲みましょう。 お世話になりました!」


 ガイズ農場の皆さんに送られ、馬車に乗り込む。


 「ゲネル君! 待て待て!」

 

 ガイズさんからの言葉が聞こえ、窓から顔を出す。


 「これを持って行きなさい」


 ゲネルさんから渡されたのは、コップに入ったビールだった。


 「ははは、最後もビールですか」

 「ガハハ、一番嬉しいじゃろ」

 「ええ、その通りです」

 「それじゃあ、気をつけてな」

 「それじゃあ、お客さん出発しますよ」

 「はい、お願いします」

 

 馬車が歩み始めた。 窓から農場の方を見ると従業員の人たちが皆手を振ってくれていた。

 

 「皆さ〜ん! ありがとうございましたー!!!」


 精一杯感謝を伝え、馬車は農場を後にする。

 農場が見えなくなったくらいで、もらっていたビールを喉に入れる。


 「やっぱりうまいな…… 仕事終わりのビールは」


 こうして俺のガイズ農場でのインターンシップは幕を閉じたのだった。

 

 インターンシップから帰って翌日は家で疲れが出たのか1日のほとんどを寝ていた。


 そして、次の日、朝起きてハローワークに向かうことにした。

 

 「お久しぶりです。 ゲネルさん、だいぶ焼けましたね」

 「久しぶりです、グレイさん。 いやー、もう日中はほとんど外だったんで」

 「それは大変でしたね。 どうでしたか? インターンシップは」

 「そうですね…… 仕事終わりのビールの旨さに気づきましたよ」

 「! ハハハ、それは素晴らしいことに気づきましたね」

 「あの…… 本当にインターンシップに参加して良かったです。 行こうと思えたのはグレイさんのおかげです。 ありがとうございました」


 グレイさんへの感謝の言葉は、自身の心の底から出た言葉であった。

 本当にハローワークに来てよかったと思う。


 「いえいえ、そう言っていただいて本当に良かったですよ」

 「後、俺…… 決めました」

 「決めたって言うと?」




 それから数ヶ月後……


 「はいよ、ビールお待ち!」

 「ありがとうございます」


 俺は一人でバーで酒を飲んでいた。 

 ビールをグビッと喉に流し込む。


 「あぁ…… 美味いな〜」


 もちろん、酒を飲みに来た訳だが、1人で飲みにきた訳ではない。

 今日は人と約束をしている。


 「よー、ゲネル。 待ったか?」

 「おせえよ、ギース!」

 「悪い悪い、仕事が長引いてな」


 そう今日は幼なじみで元パーティのギースと飲む約束をしていたのだ。

 久々に故郷に帰ってくると、ギースに偶然遭遇し、一緒に飲みに行くことになったのだ。


 「ビールでいいか?」

 「あぁ、ありがとうな」

 「すみません。 ビールもう1つ」

 「あいよぉ!」

 「にしてもお前、焼けたな〜」

 「ああ、お前はなんか老けたな? 仕事のストレスか?」

 「馬鹿! うっせえよ。 で、今は何の仕事やってんだっけ?」

 「はいよ、ビールもう1丁!」

 「まぁ、とりあえず乾杯しようぜ」

 「はは、そうだな。 それじゃ……」

 「「乾杯!!」」

 

 乾杯してすぐ口に酒を持っていき、お互いグビグビとビールを飲み込む。


 「プハ〜! それで今は何の仕事なんだっけ?」

 「ああ、ここから馬車で2時間くらいのガイズ農場って所で、魔法農家って仕事をしてるよ」


 そう、俺はガイズ農場で正式に雇ってもらうことにしたのだ。 

 ハローワークから、正式に応募した翌日には採用の連絡が来て、久々に農場にいくと、皆歓迎してくれた。

 そこから、しんどい作業をしながら、魔法を農業にどうやって活かすか考えながら、新しい魔法の修行もたまに仕事終わりにしている。

 まぁ勿論、仕事終わりは酒を飲むことが多いが……


 「農家か! それでそんだけ焼けてんだな。 大変そうだな」

 「まぁ…… 大変だけど、悪くはないかな」

 「ははは、何だよそれ。 だが、久々に昔の元気な頃の顔に戻ってるから安心したよ」

 「ああ、色々と迷惑かけたな」

 「水臭いこと言うなよ。 それで、今は休暇で戻ってきてんのか?」

 「ああ、1週間休みをもらってな。 だから明日も休みだから、今日は酒で潰れても問題ないぜ」

 「おいおい! 俺は仕事だから、潰れるのはお前だけにしろよな!」

 「はっはっは! 悪い悪い、なあギースまた今度休みでも合わせて旅行にでも出かけようぜ」

 「おお! 元冒険者の血が騒ぐってやつか? いいね、他のパーティの連中にも声かけてみるか?」

 「そうだな! それが良い! 酒の美味い所でも行こうぜ」

 「お前はそればっかだな!」

 「ハハハ、悪いな!」

 「お前… なんか豪快になったなあ」

 「そ……そうか?」


 何となく、ガイズさんに似てきたのかもしれないなと思いつつ、コップに残っていたビールを胃に流しこむ。


 「美味いなぁ! ビールもう1杯!」


 今の仕事は日差しの強い中、外での作業ばかりだし、わからないことばかりだ。 

 しかも、冒険者の時に得られていた仕事と比べて刺激は少ないかもしれない。 

 もしかしたら、今の仕事よりも俺に向いている仕事だってあるかもしれない。

 それでも、俺はきっと乗り越えていけるだろう。

 なぜかって、仕事終わりのビールが待ってるからな。

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