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第七話 冒険者、新たな仕事に向き合う

 元々戦士とかだったとか言われてもおかしくないくらい、たくましいガイズさんの腕を見ていると、体力面でやっていけるのか少し不安になってきた……


 「いや〜、まっとったよ。 魔法を使える人がいるかいないかで作業効率が全然違うってお隣さんの農家が言うから、わしも焦って魔法農家の求人を出したんじゃが、なかなか人が来なくてね〜。 それでインターンでも良いからきて欲しいと思って、募集し始めたら、君がすぐ応募してくれたんじゃ」

 「そうなんですか。 こちらこそ、農業は全くのど素人に関わらず、インターンシップを受け入れていただいて良かったです」

 「魔法が使えて、体力もある優秀な冒険者じゃったら十分じゃよ! ガッハッハ! それじゃあ、まずは君の寝泊まりする部屋に連れて行こう」


 どうやら見た目通りに豪快な人っぽいな……

 この1週間はガイズさんとご家族が生活されている家で寝食をともにさせてもらう。

 俺の宿泊する部屋まで案内してもらった後、用意してもらった作業着に着替え、作業場に向かう。

 

 「よし、じゃあまずはうちの農場をまわりながら紹介して行こう。 まずうちの農場は農地を三分割し、それぞれ春に種をまくキャベツ、インゲンマメの2種類の作物を育てる農地、秋に種をまく小麦の農地、そして休作をして家畜を放牧する農地と分けておる」

 「休作をしている期間に土地を回復させるんですか?」

 「そう言うことじゃ、広い農場を持っている農家にしてできない方法じゃが、ここら辺の農家は皆同じような育て方をしておるよ」

 「なるほど、じゃあ家畜の世話もできるようにならないといけませんね」

 「そう言うことじゃな。 まあ家畜の世話では魔法が活かせるところもあまりないじゃろうし、まずは農業について知ってももらうのが先じゃな」


 ガイズさんに農場の説明を一通り受け、これから種播きを行なうという農地にたどり着いた。


「それじゃあ、まずは農地の整備をゲネル君にやってもらいたいんじゃ。一部分だけ、畝を整備しているんじゃが、まだ整備が全然できてなくての。 ゲネル君にはまだ整備されていないところの畝を魔法を使って整備して欲しいんじゃよ」


 先ほどガイズさんから説明を受けたが、畑で作物を作るために細長く直線状に土を盛り上げたところのことだ。

 この整備に割と時間がかかるらしい。


 「なるほど…… 整備されているところと同じようにすれば良いんですね」

 「そうじゃ…… できるか?ゲネル君」

 「やってみます」


 呼吸を整える。 より強くなるため、魔法の鍛錬を続けてきた。 

 そんな自分の魔法が果たしてうまくいくのかわからない。 

 だが、グレイさんが言ってくれた通り、俺の今までの経験は無駄じゃない。 きっとできるはずだ。

 地面に手をつけ、魔法を唱える。


 「土魔法 ドルント!」


  唱えた瞬間、地面に魔法陣が描かれ、その瞬間地面が俺の想像した通りに形を変えていく。 もちろん想像しているのは、視界の端に映る畝が整備された地面だ。


 10分程度かけて、視界に映る農地は全て畝の整備された地面に変わった。


 「ふう……どうでしょうか? ガイズさん」

 「うむ……」

 

 ガイズさんは新たに整備された畝に近寄って、手で触ったりして、出来栄えを確認している。 

 いつも通り魔法を唱えただけなので、うまくいった自信はないのだが……


 「完璧じゃ…… ゲネル君! 完璧じゃよ。 普通にやると1日かけてやる作業が10分で終わったわ!」

 「本当ですか! 良かった!」

 

 ガイズさんが俺のことをあまりにも褒めるので、正直照れ臭がったが、どうやらうまくいったらしい。

 俺の魔法がガイズ農場に役立つことがわかって、自分が社会に認められた気がした。


 「よし! これなら、午後からは苗植えの作業に入れるな。 少し早いが、休憩にしようか」

 「はい!」


 農場に建てられた木製の小屋で昼ごはんが用意されているらしいので、ガイズさんと共に向かった。

 小屋の中では農場の従業員と思われる人が数人ご飯を食べていた。

 俺とガイズさんのように午前中の作業を早めに終えた人たちだろう。


 「みんなお疲れさん! 今日から一週間共に働くゲネル君じゃ。 なんと魔法の使い手で早速農地の整備をしてもらったところじゃ」

 「おー! ついにきてくれたんですねー!」

 「よろしくー」

 「よろしくお願いしまーす」


ガイズさんからの言葉で皆がおれの方を見て、歓迎の言葉をかけてくれた。


 「ゲネル君、あと15人ほどいるが、彼らがこの一週間共に過ごす仲間達だと思ってくれ。 農業しかしてこなかったバカばっかじゃが、なんでも聞いてくれ」

 「ちょっと、ガイズさん誰がバカなんすかー」

 「あんたが1番農業しかやってきてないバカでしょ」

 「おい! 今言ったやつ晩飯抜きじゃ!」

 「ははは、よろしくお願いします」


 『仲間』  ガイズさんの言った言葉が頭の中で妙に響いていた。


 昼ごはんはパンと野菜のスープであり、パンはこの農場でとれた小麦から作ったものらしい。

 素朴なものであったが、素材の味が活かされており、今まで食べたパンの中で1番おいしいかもしれないと感じた。


 昼ご飯を食べていると、続々と従業員の方々が入ってきて、自己紹介とかをしながら、今してる作業を魔法でできないかという、冗談なのか本気なのかわからないことを話したりしていた。


 「よし! それじゃ、今から苗植えに行こうか! ゲネル君」

 「ガイズさんそれも新人君に魔法でやってもらうんですか?」

 「バカもん、ゲネル君もわかってると思うが、魔法は万能じゃない。 もちろん、自分の手でやってもらう」

 「新人使いが荒いですねー」

 「うっさいわい!」


 ガイズさんと従業員の人たちの接し方をみると、皆舐めた口を聞いてるようではあるが、ガイズさんのことを慕っていることも伝わってきて、本当の親子のような関係なんだろうなー、と想像していた。

 にしても、魔法は使わずに自分の手で作業をするのはなかなかハードそうだ。


 先程、畝を整備した場所に着く。

 「よし、ゲネル君いまからやるのは苗植えという作業じゃ。 いまから苗植えを行うんじゃが、キャベツは種をいきなり地面に植えるのでなく、まず小さなポットで苗になるまで育ててから、畝に植えていく。 苗同士の間隔もちゃんとあけてずっと植えていく作業で、さっきもいった通り手作業で行なっていくしかないの」

 「はい、わかりました」


 そこからガイズさんの指導を受けながら、畝に穴を開け、苗を埋めていく作業をひたすらに繰り返す。

 めちゃめちゃ地味な作業だが、農地が広くて終わりが見えないため相当にきつい。 

 ガイズさんも同じ作業をしているが、俺の4倍くらいのペースで苗を植えていっている。

 

 「めちゃめちゃにしんどいじゃろ。 ゲイル君」


 ガイズさんが俺の心を読んできた。

 

 「まぁ、正直、、、。 ガイズさんにとってはこの作業はへっちゃらですか?」

 「いや、めちゃめちゃしんどいな! ガッハッハ」


 想定外の答えが返ってきたので、驚いているとガイズさんが話を続けた。


 「じゃがね、全くしんどくない仕事なんてこの世には存在せんよ。 たしかに農家はタフさのいる仕事じゃが、自分の手で育てた作物を人々に届けるというやりがいがあるから、しんどさも乗り越えれる。 あと、わしの育てた作物はめちゃめちゃうまいしな! ガッハッハ」

「しんどくない仕事はないか、、、。 たしかにそのとおりですよね、 ずっと冒険者をやってた分、仕事をするとそう思ってしまいますよ」

 「何を言っとるんじゃ、ゲネル君。 冒険者もきっとしんどい想いはものすごいしてきたはずじゃ。 それと何も変わらんよ」


 たしかに、、、 冒険者時代に死にかけたこともあるほどだ。

 過去を輝かしいものだと考えて、しんどいこともある仕事だと忘れていたのかもしれないな。

 

 とりあえず、今俺がしなければいけないことは目の前の仕事に向き合うことだ。


 それから、休憩を挟みながら、苗を植えていき、やっと全ての苗が植え終わった。

 

 「よーし、終わったな! それじゃ、今から皆で晩飯にしよう。 今日はゲネル君の歓迎会を兼ねて宴会じゃ! 酒はいけるかい、ゲネル君?」

 「はい! 好物です!」

 「はっはっは! それは良い!」


 昼食を食べた小屋に行くと、従業員が20人ほど集まっていた。 おそらくこれでほとんど全員が集まっているのだろう。

 テーブルには、ピザやサラダなど、この農場の作物が存分に使われているであろうご馳走が並んでいた。


 「おお!きたね主役が」

 「ガイズさん働かせすぎですって〜」

 「じゃあ、皆飲み物入れていきますかー、ビールの人〜?」

 「「「は〜い」」」


  俺以外の皆が威勢よく手を挙げた。


 「ゲネル君は?」

 「あ…… じゃあ、俺もビールでお願いします!」

 「良いね〜。 ハイハイ、ジョッキを持って!」


 ジョッキが手渡され、黄金色の液体がシュワシュワと音を立てながら注がれていく。

 

 「よし! 皆持ったか!」

 「持ってま〜す」

 「よし! え〜ごほん、今回は皆もご存知の通り、ゲネル君が魔法農家のインターンシップとしてうちに参加してくれた。 ゲネル君にとって、しんどいこともあるとは思うが、この1週間が有意義なものとなることを祈っており……」

 「かんぱ〜い!!」

 「「「乾杯!」」」

 「おい! だれじゃ! わしの乾杯の挨拶とったの! まあええ! 乾杯!」

 「ゴクゴク……」


 皆一斉に喉にビールを流し始める。

 舌でピリッとした苦味を感じ、喉で炭酸が弾けるのを感じていると、ジョッキから気付いたらビールがなくなっていた。


 「はぁ……めちゃめちゃうまい!」

 「おお、ゲネル君ペースが早いのう!」

 「美味くて気づいたら全て飲んでました。 これ特別なビールとかなんですか?」

 「そうじゃな、このビールはうちで醸造したビールじゃよ。 アルコールは殺菌作用を持つ分、夏場なんかは水を飲むよりも安全ってので、冬から醸造し始めて、夏の農作業中にビールを飲むってとこも少なくない。 うちも自家製ビールを作ってるって訳じゃ」

 「そっか、自家製ビールだから、こんなうまいんですね」

 「いや、なぜゲネル君がそんなにも美味く感じるかと言うと別の理由がある」

 「別の理由ですか?」

 「ああ、仕事終わりだからじゃよ」

 「仕事終わり?」

 「そう、1日仕事をして、疲れた自分の体にご褒美として流し込むビール、そこから得られる快感は他のどんなことにも変えがたいと思っとる」


 冒険者時代も冒険から帰ってきたら、いつもの酒場で飲む酒がうまく感じていたことを思い出した。

 仕事終わりに飲む酒がうまいというのは、どの仕事でも同じことのようだ。

 そんなことを考えていると、別の従業員の人が話かけてきた。


 「ゲネルさん、この人はただの飲んだくれだから気にしないでも良いよ。 でも、皆このご褒美があるから辛い作業も頑張れるってもんなんだ」


 それが頑張れる理由か…… めちゃくちゃ単純だけど、確かにこの快感が替えがたいものなのは間違いない。


 「おかわりお願いします!」

 「おお〜、いけるクチだね〜」


 そのまま宴会は続き、御馳走を平らげながら、ビールを何杯も飲み、従業員の人たちと夜を明かした。

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