第四話 冒険者、元勇者から誘いを受ける
グレイさんとの手合わせは完敗に終わったが、敗北感よりは爽快感という気分に満ちていた。
「いや、さすがにお強い。 まったくかないませんでした」
「いえいえ、ゲネルさんの実力も相当なもので驚きました」
歯が立たなかったといえど、元勇者ともあろう方に自身の実力を褒めてもらえるのは非常に光栄だ。
笑みがこぼれてしまう。
「グ……グレイさん」
「どうした、エミールさん」
「あの、この地面どうするんですか……」
「あっ……」
エミールさんが指さした先には真っ二つになった裏庭の地面があった。
どうやら、最後のグレイさんの雷魔法と斬撃の組み合わせによる衝撃で地面が真っ二つに割れたようだ。
深さ5m程度、長さ10m程度の地割れができていた。
「ちょっと、これは所長に怒られるかもしれないから、エミールさんも一緒に謝ってもらっていいかな?」
「いやですよ!」
「あの、この地面は私の土属性魔法で直せますよ」
「本当ですか! ぜひお願いします!」
グレイさんが非常に嬉しそうな顔を浮かべる。 きっと所長という人に怒られるのが嫌だったんだろう。 元勇者といえど、雇われの身だ……
「わかりました」
地面に手をつけて、呪文を唱える準備をする。
「ドルント」
広大な魔法陣が地面に現れる。 土属性の魔法ドルントは唱えたものの意思によって、数分程度の時間をかけて、地形を操作する魔法だ。
数秒でも隙を与えると、命の危険につながる戦闘の場ではあまり使用できない魔法であるが、裏庭を元に戻すことは容易だ。
ゴゴゴゴ……
大きく割れていた地面が元に戻っていく。
「すごいですね、この魔法」
「あぁ、ゲネルさんは当たり前のようにやっているが、相当レベルが高い土魔法だ」
「よし、終わりました」
「いや〜ありがとうございます。 実は土属性は全然できなくて……」
「いや、あれだけの剣術と高レベルな炎属性魔法に加えて雷属性魔法も使えるんですから、十分すぎるでしょう」
「ははは、ありがとうございます。 ところで俺にはゲネルさんの適職がイメージできましたよ」
「えっ?」
思い出した。 今はハローワークに仕事を探しにきているんだった!
そして、どうやら今の手合わせでグレイさんには俺の適職がイメージできたらしい。
果たして、どんな仕事なんだ?
「そ、その仕事って?」
「そうですね…… それを伝える前に今日の夜、ゲネルさんのお宅に伺ってもいいですか?」
「「はっ!?」」
エミールさんとまた声を合わせて驚いてしまった。
どうやら元勇者というのは、人を驚かせるのが得意らしい。
「えーっと、グレイさんそれは何故ですか?」
「話したいことが多すぎるんですよね。 だから、お願いします!」
ハローワークの職員が面談者の家に行くなんてことあるのか?
そう疑問に思って、エミールさんの顔を見ると、何言ってんだコイツという顔をしていたので、おそらく前例はないだろう。
「え〜っと、来ていただいても大丈夫ですよ」
少し驚きはあったが、別に自宅にきて、何かが減るものでもないと考えて、グレイさんのお願いを了承した。
「ありがとうございます! では、あとでここからゲネルさんの家までの行き方教えてください」
そして、装備を返却し、グレイさんに家までの行き方を伝えた後、ハローワークを後にした。