第二話 冒険者、元勇者と面談する
元勇者改め、グレイさんのどうぞという言葉の後に席に着いた。
やはり、自分が元勇者と面談をするというのはなんとも不思議な気分だ。
「ゲネルさんの履歴書を確認させていただいたんですけど、キャット&クロウに所属していたんですね。 あそこのギルドマスターとは知り合いですよ」
「本当ですか? なかなか有名な人ですもんね」
「ええ、すごい変わっている人だと思います」
俺の緊張を紛らわせるためだろうか。
転職とは関係ない話から、面談は始まった。
その後、数分程度世間話をすると、そろそろ本題といった感じで質問が飛んできた。
「じゃあ今回の面談の本題に入りますが、いくつか質問させてください。 これまで、冒険者として生計を立ててこられたとのことですが、冒険者と言う仕事をしたいと考えたきっかけは何ですか」
「そうですね……、やっぱり好奇心が旺盛な性格だったからですかね。 両親は街の肉屋を経営してたんですが、私は両親から仕事を手伝えと言われても、手伝わずに、幼なじみと魔物がいるようなところに出かけてばかりでして……、腕っ節も強く、魔法も使えたものですから、だんだんと強い魔物を倒せるようになって、気づいたら冒険者になっていましたね」
「わかりました。 それで冒険者をずっと続けてこられたと思うんですけど、冒険者のどういったところが良い点だったと思いますか」
「う〜ん……、まあ冒険者以外の仕事ができなかったというのも理由ですが…… 良いところで言うと、まずは仲間の存在でしょうね。 気の知れた、辛いことも楽しいことも共に経験した仲間と協力して、強大な魔物を倒した時に味わえる達成感は計り知れないものだったと思います」
「わかりました。 ありがとうございます」
真面目に答えたが、恥ずかしいことをいってしまった気がする……
しかし、これから冒険者以外に転職をするのに、冒険者時代の話ばかり聞かれるのはなぜなのだろうか……
「それでは、戦闘スタイルについて伺いたいんですが、基本的に戦闘時は剣術をメインとして、魔法を補助的に使って闘われてましたか?」
「いいえ、どちらかといえば魔法がメインですね。 私は魔法の才の方があったので」
「なるほど。 どんな魔法が得意ですか?」
「う〜ん、得意な魔法か…… 回復魔法とかの補助系魔法は全く使えず、火、水、土の属性の攻撃魔法を使えます」
「なるほど…… 魔法の方が得意なんですね……」
グレイさんは少し考える様子を見せた後、発言した。
「それじゃあ、話を聞くよりも実際に戦ってみた方がゲネルさんの実力が分かると思うので、一度手合わせしましょう」
「「えっ!?」」
ずっと話を聞いて、時折メモをとっていたエミールさんも声を荒げて驚いた。
まさか、ハローワークで手合わせをしようというお誘いを受けると思っていなかったので、俺自身も驚いた。更に手合わせをする相手が元勇者なのだから、こんな事態は想像できるはずもない。
「ちょ、ちょっと待ってください。 グレイさん、所長に確認をとってくるので」
「エミールさん、大丈夫だよ。 もう許可はもらってるし、装備の準備もしているから」
「そんな根回しまでしてたんですか……」
エミールさんは非常に焦っているように見えるので、少なくともハローワーク内で手合わせをするのはよくあることではないのだろう。
「ゲネルさん、大丈夫ですか? もしゲネルさんが手合わせをしたくないと言うのであればやめておきますが」
グレイさんから俺を気づかって質問される。
もちろん、心の準備などできていないが、元勇者と手合わせをする機会など間違いなく一生に一回の貴重な機会だ。
「い……いえ、是非、お願いします!」
転職活動のことなど忘れて、元勇者と手合わせができるという好奇心から俺は返事をしていた。