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第一話 冒険者は転職活動に真剣になれない。

「ゲネル、お前もそろそろ、転職活動に真剣にならないといけないんじゃねえの?」


 少しぬるくなったビールを胃に流し込んでいると、ふと、元パーティで幼なじみのギースから、目が覚めるような鋭い言葉が俺に向かって発せられた。

 

 最近、ギースの転職先が決まって約1ヶ月、仕事も少しは慣れてきたということで、2人で冒険者時代によくきていた馴染みの酒場にきて、酒を交わしていた。

 最初はギースの近況を聞くところから始まり、その後、冒険者時代の思い出話を話し、俺の近況を話していた。

 今日、ハローワークに行ったが、どんな仕事をしたらいいかわからない、なんてことを伝えた瞬間、矢が放たれるようにその言葉が出てきた。


 酒場は冒険者やそうでない一般人など、いろいろな人でごった返しだったので、もちろん騒がしい場所だったのだが、その言葉を聞いた瞬間、一瞬、俺に入ってくる音がなくなり、酒場が無音になったのかと思った。

 どういう反応をしたらいいかわからず、とりあえずビールジョッキを机の上に置いた俺を見て、ギースが口を開いた。


 「……悪い、まあ、お前が俺たちのパーティのリーダーだったんだからさ、もっとしっかりしてほしいと思ってんだよ」

 「ああ…… すまん……」


 こいつは本当に俺のことを心配して言っているのだろう。

 それが伝わってきて、元パーティのメンバーに心配される現状であることを恥ずかしく思い、なおさら何を言えばいいのかわからなかった。

 かろうじてでてきたのは、何に対して謝っているのかもわからない謝罪の言葉だった。

 

 「まあ、今日はとりあえず帰るか。 また飲もうぜ」

 「ああ、そうだな」


 ギースが立ち上がるのを追うように、俺も立ち上がった。

 10分の1もないほどのビールがジョッキに残っているのを見つけて、最後に自分の胃に流し込む。

 ビールはぬるくて、炭酸も残っておらず、飲んだあとの後味は最悪だった。



 翌日ーー



 窓から差し込む日の光で目が覚めた。

 今日もいい天気だ。

 しかし、昨日飲みすぎて二日酔いになったのか、酒場を出る直前のギースの言葉が俺のなかに残っているのか、いい気分ではない。

 しかも、これからハローワークに行かなければいけないことがより気分を億劫にさせる。

 昨日面談で話したエミールさんとか言う金髪で気の強そうな女の人と今日行くと約束してしまったからな……


 まったく気が進まないが、朝の支度を進めた。

 

 にしても、俺がギースや他のパーティの連中を誘って、冒険者を始めた時はまさか将来、転職活動を行なうなんて微塵も考えてもいなかった。 

 まさか魔王が討伐され、世界中で魔物の数が減っていって、冒険者という職業を転職することを余儀なくされるとは……

 いや……確かに魔王が討伐されなければ今も冒険者として食えていたかもしれないが、今の平和な世界は世界中が望んだことだ。 もちろん俺自身も。


 あぁ、今頃勇者として魔王を討伐した人は何をしているのだろうか。

 きっと、王から莫大な報酬をもらっていて、一生働く必要なんてないんだろうな……

 俺も昔仕事がいっぱいあった時に貰っていた金で今は生計を立てているが、そのうち貯金は尽きる。

 勇者と違って、働かなければ生きていくことなどできないという当たり前の現実に更に気分が億劫になる。


 勇者への嫉妬や羨望で心を満たしながら、朝の支度を終わらせた。

 それから、家をでてハローワークへ向かった。


 「おはようございます」

 「おはようございます。 本日はどのようなご用件で本施設にお越しいただきましたか?」

 「10時からエミールさんと面談の予定です」

 「かしこまりました。 では、こちらの椅子に座っていただいて、担当の者を呼んでくるのでお待ちください」


 一応、昨日エミールさんに渡された資料は目を通した。

 ……が、やはりやりたい仕事は思いつかない上に自分にできる仕事がわからない。

 自分のスキルを活かすとしたら、王国の傭兵くらいのものか……


 「お待たせしました。 今日は私ともう1人、こちらのグレイが面談を担当しますのでよろしくお願いします」

 「あっ、わかりました。 よろしくお願いします……」


 どうも、見たことのある顔な気がした。

 自分の記憶を遡ってみると、5年前の勇者一行の凱旋パレードの時を思い出した。

 その時に見た顔にそっくりだ……

 というか、その時見た勇者の顔に完全に一致したため、自分の中で目の前に立っているハローワークの職員が勇者であるという説が浮上した。


 「よろしくお願いします。 グレイです」

 「あの……もしかして、勇者様ですか?」

 「まぁ一応……元勇者です……」

 「えっ?」

 

 ……驚いた。 今朝、勇者は今頃仕事なんてしていないだろうと考えていたのに、まさかここで働いているのか?


 「えぇっと、勇者様はここで働かれているのですか?」

 「えぇそうです。 本日からの勤務です。 後、勇者様と言うのはやめてくださいよ、ゲネルさん。 普通にグレイと呼んでください」

 「あっわかりました。 グ、グレイさん。 よろしくお願いします」


 本当に働いているらしい。 なぜ、元勇者ともあろう人が働いているんだ?

 きっと元勇者ならではの考え方があるのだろうが……

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