九話 人間に告られたんです
九話 人間に告られたんです
退院した後、エスパーダは要の前に普通に姿を現した。もはや隠れてる必要はなくなったと言わんばかりに。
「ん」
エスパーダはテーブルの上に立ち、両手を広げて、何かを受け止める仕草をする。
「え? 何?」
「スマホ! 想は買ってくんなかったから、あんたを待ってたの」
想は名前で呼ぶのに、要はあんた呼ばわり。嫉妬を禁じえなかった。
「早く!」
エスパーダは要に対して強気だ。
しぶしぶ認証を突破したスマホを渡すと、エスパーダは笑顔を見せた。そしてすぐに異界大戦を起動させる。
「あ、想の作ったアプリ、切ってあるわよね?」
「うんにゃ」
「また盗撮か。好きね」
「好きなのはエスパーダのことだよ」
エスパーダが要を見上げ、固まった。
「あの、エスパーダ?」
「私、小人族だよ」
「それは分かってる」
「それでなんで好きなの?」
「一目惚れ……かな」
効いているのか、エスパーダは顔を赤くしてスマホに視線を落とした。
「私はあんたを知らない。私はスマホでゲームしたいだけ。それだけなんだから」
「連絡先交換しない? そうすれば俺のことを知ってもらえる」
「私、営業だからいろいろ買わせるよ。ウサギにネズミにドングリ」
「う、うん」
「え? じゃあ、スマホ買ってくれる?」
顔を上げて、要を見つめてくる。上目遣いで、目が潤んでいる。この女を見ていると即決してしまいそうだ。
「ボーナスが入ってから考える」
なんとかかわしたが、完全に逃げ切ることが出来なかった。
エスパーダのテンションがみるみる上がっていくのが分かった。
「約束だよ。それまで課金はしないから」
そう言って消したのは、課金の申請画面だった。危ないところだ。こんなやりとりが続くと思うと胃が痛くなる。
エスパーダは自分のガラケーを取り出し、何かを打ち込んでいた。
要のスマホの着信音がする。エスパーダがメールを送ったようだ。後でチェックしておこう。
「登録してたの?」
「いつ退院するか聞こうと思って入れといたの。でも想が教えてくれるから使わなかったけど」
想が恋敵になりそうで、複雑だ。明らかに要よりも先行している。
「都、怖い女の人は?」
「さあ。知らない」
「想のスマホはその女の人が見ているはずだから、何かしてくると思ったんだけど」
再びエスパーダが固まった。そして小刻みに震えてる。
「私が連絡してた想って、まさか……」
おそらくエスパーダの想像通りだろう。都なら刑事裁判の有罪率くらいの割合でやっているはずだ。
「あんたの知り合い怖すぎるよ」
要は笑うしかなかった。




