八話 人間と和解したんです
八話 人間と和解したんです
要はまず謝ることにした。
「ごめん。君の写真を撮ったのは、課金してるのが誰かを知りたかったからなんだ。それでアプリの解除の仕方がわからなくて、写真が増えていく結果になって……」
「それはそこの人間から聞きました。私を見つけるプログラムを使って、部屋中追いかけ回されました。怖かったです。一緒にいた女の人が」
都のことだ。小さいとはいえ想が女性を捜していたのだから、心穏やかではなかったのだろう。
「あなたはまともなようですね。壁紙の文面が気持ち悪かったので、もっと変質的だと思ったのですが」
盗撮疑惑が晴れたようで何よりだ。
そういえばエスパーダも寝ている要を盗撮していたはずである。そのこと追及したかったが、要にはそれよりも知りたいことがあった。
「なんで課金を?」
「いっぱいガチャを回すには課金が必要なんです。アプリはスマホを持ってないので、インストール出来なくて、とりあえず近くにあったスマホで……」
「ちょっと待って。小人用のスマホってあるの?」
するとエスパーダは顔を下に向けた。見上げているのが辛くなったわけではないようで、ふてくされた空気を出している。
「ある。でも私、ガラケーで……」
要は言葉を失った。
「小人のガラケー、見たいな」
代わりに想が声をかけてきた。
「想、今はそれどころじゃない」
要は強い口調で言う。
「分かった。後で見せてもらうことにする」
想はあっさり引き下がった。
ガラケーを出そうとポケットに手を入れたまま、エスパーダの動きが止まった。想の話に乗って、ごまかそうとしたようだ。
「エスパーダ。俺が怒ってるのは分かる?」
「返すつもりだった。ネットバンクを利用して」
「それでもほかの人に使われるのは良い気分じゃない。分かるでしょ?」
「でも……」
「ゲームしたいのは分かるよ。でも課金は違う。やめて欲しい」
「え?」
エスパーダは再び要を見上げた。
「ゲームにして良いの?」
「入院してる間は無理だけど、退院したら。もちろん課金なしで」
エスパーダはそれを聞いて会心の笑顔を見せた。写真で見たときよりもかわいいと要は思ってしまう。
「良いのか? それで」
想がまた話に入ってくる。
「何が?」
「ゲーム。させるのか?」
「問題になっているのは課金だ。それがなくなれば俺は別に……」
エスパーダの笑顔をすぐに曇らせるわけにはいかない。だから結論はこれしかないと要は思った。
「要、女で苦労するぞ」
多分忠告してくれているのだろうが、今はかわいいエスパーダを見ていたかった。惚れた弱みというやつである。
「ありがとう。私、我慢する」
当たり前のことを固い決意で宣言した。
これで課金の脅威はなくなった。しかしそれはエスパーダの気持ち一つでどうとでもなる不安定なものだった。それでも要は安堵した。見ず知らずのやつよりエスパーダの仕業だと分かっていれば対処のしようがあるからだ。
「想、帰るよ」
「うん、ガラケー見せてよ」
「スマホ買ってくれればスマホも見せられるよ」
エスパーダは想のポケットに戻してもらい、想と帰っていった。
エスパーダが要のときよりもくだけた感じだったのが気になった。どうして女子は要よりも想と親しくなってしまうんだろう。要にモヤモヤが残った。




