七話 見舞いに行ったんです
七話 見舞いに行ったんです
緊急入院だったので、充電器を持っていなくて困った。簡易充電器を買おうにもいつ退院できるか分からないので、おいそれと買うわけにもいかない。とりあえず実家と想に救援を求めた。
実家は金銭面の保証してくれたので入院費に関しては何とかなりそうだ。だが来られるのは退院時だけだと言われた。
想はプログラム優先で、代わりに都が来てくれた。要は都に鍵を渡し、要が書いたリストにあるものを持ってくるように頼んだ。
「なんで私が……」
そう言いながらも言ってくれた。これでスマホのバッテリー残量を気にしなくても良い。
会社のほうも解雇ということにはならなかった。
後、気になるのはエスパーダのことだけだ。スマホを取り上げる形になっているので、さらに心証が悪くなっているだろう。会えば誤解は何とかなるんだが。
何の手段も取れないまま二週間が過ぎた。
それまでは都が来てくれていたが、その日に限って想が来た。都はついて来なかった。
「毎日要の顔見たくないってさ」
そこに文句を言うほど都に依存してはいないが、一日の流れが変わることに戸惑った。
「想はプログラム作ってたんだろ」
「昨日できて、早速使った」
想は自分のスマホを要に見せてきた。要は身体を起こして、移動式のテーブルの上で画面を見る。ただ要の姿が映っているだけだった。
「こっちを映して」
想に言われて、想を映すと想が着ているジャケットの右側のポケットに小さな人影が見える。
小さな人影からある名前を連想し、要は肉眼で見ようと想のスマホをテーブルに置いた。
ポケットが盛り上がってるのが見えるだけで、詳しく分からない。むしろスマホを通して見たほうが、詳しく見えた。
「想」
「連れて来たよ」
想はポケットに手を寄せる。ポケットの中から紺のスーツを着た小人女子が姿を現し、想の手にしがみついた。
予想以上の重さだったのか想はすぐに反対の手を添えて、歯を食いしばっている。
そしてなんとかテーブルの上に小人女子を立たせ、想は大きく息を吐いた。彼女はムッとしていた。
要はその表情だけをずっと見ていた。要が一目惚れしたあの顔だ。
彼女は要の視線に怯えていた。
「はじめまして。宿守要です」
とりあえず名乗った。自己紹介文を送ったが見てるとは限らないからだ。
「私はエスパーダ・サリナス。食品会社大手のコロポックル社で営業をしています」
名刺を受け取ったが、小さすぎて読めない。
「その名刺の住所、要は部屋になっているから」
パイプ椅子に腰を下ろした想は言った。
「読めたのか?」
「スマホは偉大だということだ。それよりも話し合うことがあるだろ。こっちは無視して良い」
その間も深く寄りかかり、沈黙した。疲れたのかもしれない。
鏡は改めてエスパーダと向かい合い、何から話すかを考え始めた。最初にして最後のチャンスを生かすために。




