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「お腹いっぱぁい」

 満足そうに微笑む葛の葉の顔に、葉桜も自然と笑顔になる。

 ほほ笑み合った葛の葉の瞳がスッと大人びた。


「ねぇ葉桜。

 さっきの屋敷なんだけどね。憑き物の落ちた後はすごく浄化されているみたいに感じたんだ。


 もう一回あの屋敷が見たい」


「うん。あの変化はちょっと気になるね。

 行ってみようか」

 葉桜の視線が村の奥の屋敷に伸びた。




 番頭に許可を取って再び正面から屋敷をのぞむ。

 何かを感じ取ろうと集中する葛の葉が、辺りを見回す視線を止めた。

「呼んでる」


 屋敷を囲む大きな木々の中、少し小ぶりな桜の樹。

 凛と立つその姿に、何とも言えない懐かしさや温かさが胸を満たす。


 ゆっくりと歩みを進めた葛の葉が大きく息を吐くと、その小さな左の手のひらをそっと幹に当てた。


「……ありがとう」


 小さくつぶやいた葛の葉の、くりくりとした大きな瞳から大粒の涙がこぼれる。

「葛の葉?」

 心配げに声をかけた葉桜をゆっくりと葛の葉が振り返った。


「桜が教えてくれた。

 この幹の上に何かあるって。

 あたいちょっと登って来る」


 小さな葛の葉の身体を枝の上に押し上げてやる。

「気を付けてね」

 すばしっこくスルスルと木を登る葛の葉は、あっという間に葉の茂る枝の中に消えていった。



「葉桜。これ見て」


 嬉しそうな満面の笑みで帰ってきた葛の葉が小さな手を開くと、削れて黒く変色した木札。

「名前が書いてあるよ。読んで」

 葉桜の瞳が、かろうじて読める文字を追う。

「これは退魔の札。

 刀隠れの(もん)桜夜さくや……。

 おばあ様だ」

 見上げた視線が枝の上の葛の葉と絡む。


「この桜も、桜夜のことを覚えてた。あたいに記憶を見せてくれたんだ」

「じゃあ(みやこ)から来た陰陽師って、おばあ様。


 あ。この桜、殿社のあった北東(うしとら)の方角を向いてる。

 退魔の札を立ててこの木自体を結界にしたんだ」

 屋敷と木々の隙間から覗く崩れた山肌は確かにこの方角。


 葉桜もゆっくりと木の幹に手を触れた。

「ありがとう。

 ずっとお屋敷を守ってくれていたのね」

「昨日の雨で山が崩れて、殿社の位置が変わっちゃったから結界の力が弱くなっちゃったんだって。

 だから、裏鬼門(うらきもん)から入られちゃったって言ってた」

 枝から降りようとぶら下がる葛の葉を受け止めて、ゆっくりと地面に降ろしてやる。


「裏鬼門から。ということは南西(ひつじさる)

 奥さまの部屋は裏鬼門の位置だった」


 さわっ。


 ふいに、桜の枝が鳴った。まるで注意を促すように。


 葉桜が懐に古い退魔札を差し込んだ。

「葛の葉、奥さまの部屋に行こう」

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