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「私は何も存じません」
今までの協力的な雰囲気から一転、急に心を閉ざした冷たい空気が漂い出す。
葉桜は、口を開こうとした葛の葉の肩に手を置いた。
何かを隠している。
先程の女当主を思う行動からも、この番頭が口を開くことはないと確信した葉桜は小さく息を吐いた。
「そうですか。
ですが、あの憑き物をそのままにもしてはおけません。
こちらで調べますが、それはよろしいですね」
強い瞳が番頭を射抜くようにみつめる。
「再び奥さまが狙われないとも限りませんよ」
グッと耐えるような顔を見せた番頭は、観念したように重い口を開いた。
「このことは、当家の恥でございます」
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番頭の話を聞き終えて外に出ると、当に太陽は天辺から西にずれていた。
「もうお腹が空いた」
「そうだね」
頬を膨らませた葛の葉に同意して、ひとまず宿に帰る道を行く。
道すがら、葉桜の脳裏は番頭に聞いた話の整理に追われていた。
番頭の話によると、事の起こりは何代も前の当主。
その当時の当主は相当に女癖が悪く、女中にも平気で手出しをするありさま。
そして当然起こったのが当主に対する恨みや嫉妬。
そんな中で、女中の一人が自害したという。
しかも自らの命と引き換えに呪いの言葉を吐いて。
それからというもの家には不運が続き、跡を取る男児の寿命は短く、嫁にくる女性にも悪いことが続き、困り果てた当時の当主が京から呼び寄せた陰陽師に頼んでことを鎮めた。
それが、あの殿社だったらしい。
葛の葉の見た意識の破片。
あれはおそらく殿社の中にいた女中。憑き物の見ていた景色。
人に害をなす憑き物になってしまったとはいえ、元々は女中も身を哀れんだ一人の女。
どうにか救ってやりたい。
葉桜が小さく息を吐いた。