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「葉桜ぁ」
背中に背負う葛の葉の可愛らしい声に、葉桜か小さく首を傾けた。
「起きた?」
「うん」
小さく返事をする葛の葉が葉桜の肩をきゅっと掴んでくる。
「あたい、また悪いことしちゃった?」
葉桜の背中に顔を埋めて、小さく呟くような葛の葉に葉桜の胸がチクリと痛む。
「ううん。葛の葉のおかげで私は怪我もしなかったよ」
優しくかける声に背中の葛の葉が更に強くしがみついてきた。
葛の葉には妖狐としての記憶がない。
葉桜にはそれが、葛の葉が妖狐を抑えるためだけに存在しているのではないかと思えてならないのだ。
つまり、妖狐にとって式神としての使役が切れる数年後、その時に葛の葉の存在がどうなるのか。葉桜は気がかりで仕方がない。
「さぁ、葛の葉もお手伝いをして頂戴。
一度戻って、奥さまの話を聞いてみましょう」
暗鬱な気分を振り払うように、極めて明るい声で葉桜は微笑んだ。
今一度、目にする屋敷の雰囲気は先程とはうって変わり、凛とした旧家の佇まいが二人を迎えてくれる。
葉桜の隣に並ぶ葛の葉も、狐の耳を隠す為にまた髪を高く結い直してある。
「何だか、さっきとは違う家みたいだ。
今は護られてる。感じがする」
葛の葉の唇から、素直な一言が漏れた。
屋敷の中に通された二人が先程とは違い、客間に案内されるとすでに中では番頭が待っていた。
「お待ち致しておりました」
彼の顔もまた、先程のような暗い影はなく生気を取り戻したかのように見える。
「ご当主は?」
「はい。顔色はだいぶ良くなりましたが、未だ意識は戻らず伏せております。
もののけは?」
不安そうな声に、葉桜が答える。
「追いましたが見失ってしまいました。
山崩れのあった場所に土砂に飲まれた殿舎を見つけました。
何が祀られていたか分かりますか?」
葉桜の言葉に、番頭の瞳に動揺の色が見えた。