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ラズヴェルト様と私の辺境までの道のり その4


 辺境に近づくにつれ魔物の数も種類も増えているし、強さも増している気がする。

 荒野を走っているときに、動物を捕食している魔物、に襲い掛かる大きな魔物、をさらに上空から連れ去っていった飛行系の魔物に弱肉強食の縮図を見た。群れで獲物に襲い掛かる魔物に、それらを一体で薙ぎ払う魔物。濁った水に潜んで獲物を狙う魔物に、それを丸呑みにする魔物もいた。見渡す荒野のあちこちでそんな争いが繰り広げられていて、魔物の異質さに目を瞑ればサバンナの大自然のようだ。


 ずっと車に乗っているだけではさすがに体が鈍るからと、休憩の合間や野営の前などに魔物を狩ったりもする。ラズヴェルト様の側近以外は成り行きで共に過ごすことになったメンバーだけど、数日も経てばかなり連携が取れるようになってきた。


「ヘクトー! あいつらの機動をそげ!」

「はいっ! ブライルさん!」


 集団で襲いかかってきたナマケモノの見た目なのにゴリラサイズで、長い両手の先の鋭い爪を振り回す俊敏な動きの魔物を、ヘクトーが腰を入れた物干し竿さばきで地面に叩きつける。


「こっちは俺が行きます!」


 ヘクトーの攻撃範囲の外にいたやつは、風のように駆け出したカイルークさんが素早い動きで切り捨てていく。

 ヘクトーが魔物の動きを止めたところにブライルさんが追い付き、その背丈ほどの大きな剣で魔物を一太刀で沈めている。体格の大きな魔物でもまるで豆腐でも切っているかのような鮮やかな切り口。時々勢い余るのか敵の背後の地面が抉れてたりするんですが。


 ソルフェールリットさんは少し離れたところでラズヴェルト様に結界を張る準備兼、遠距離攻撃。

 私とラズヴェルト様とモットとクラーラが固まって様子を見守り、ジニアさんが傍で非戦闘員の警護、という感じだ。いえただの侍女ですし、見てくださいこの細腕、戦いでは何の役にも立ちませんよ私。

 まあ万が一ラズヴェルト様に危険が迫ったときには、封印されし真の力を解き放つので問題はない。



 この世界で動物と魔物の違いは体内に魔石があるか否かだ。魔物は親からではなく世界に点在する魔力溜まりから生まれる。より力の強いものは知能を有したりもするらしいけど、基本は本能のままに他者を襲い暴れ捕食する。

 実は私のギフト『ホームセンター』でポイントのもとになるのはこの魔石なのだ。

 それに気づけたのは、思い出すだけで身を斬られたような痛みを覚えるとある出来事があったからだ。


 最初に『ホームセンター』のギフトを発動させ、恐る恐る店内に入った私は、そこに溢れる地球の品々に懐かしさのあまり泣き崩れ、早速買おうとした。けれど『ポイントが足りません』という無情な機械音声が聞こえ購入することができなかった。試しに品物を持ったまま外に出ようとすればドアが開かず、店内で封を切ろうとすれば手元から品物が消えた。

 どうやったらポイントが手に入るのかも分からず、何でや~!! と店内で四つん這いになって床を殴りつけたことも何度かある。特に神殿にいるときによく分からない理由で食事を抜かれ、空腹で寝つけなかったときなどには店内で暴れ回ってやろうかと思った。


 その頃は、ただ絶望に突き落とされるだけなので極力『ホームセンター』を使わないようにしていたのだけど、ラズヴェルト様に助けられてからは何とかこの力を使えないかと色々検証するようになった。

 そんなある日、『ホームセンター』を発動し店内に入ったとき、ふとサービス受付というカウンターに向かうことを閃いた。そして無人のカウンターの前に立つと『ポイントをチャージしますか』と機械音声が問いかけてきた。『神の直感』が承諾するように促してきたので、「はい」と答えればポンという機械音と共に『250万ポイントがチャージされました』との音声が。

 え!? は? どういうこと!!? ときょろきょろと辺りを見回し、何となく自分の体をぐるりと確認したときに私は気が付いた。先日ラズヴェルト様がはにかむ様な笑顔で「お守りに」とくれたブレスレットについていた魔石が無くなっていることに!

 その魔石はラズヴェルト様のお母様が持っていた魔石を、お母様亡き後ラズヴェルト様が受け取ったもののうちの一つで、魔石自体とても貴重なものだった。それに、ラズヴェルト様がソルフェールリットさんに頼んで特別にとっさのときに結界を張れる魔術を込めてもらい、ブレスレットに加工したものだったのだ。

 あのときの絶望が分かるだろうか!! 叫んでも泣き喚いてもポイントは魔石に戻らず、私は浜辺にうちあげられたペットボトルのように、凹み萎びて数時間微動だにしなかった。ホームセンターの床に涙の川ができるかと思った。この点では未だに『神の直感』を恨んでいる。


 その後すぐにラズヴェルト様の所へ行き土下座した。突然のことに目を白黒させているラズヴェルト様に事の次第を説明し、お詫びに見張りの塔から飛び降りてきますと走り出そうとしたところをナキのドジに止められ、カイルークさんに宥められた。

 事情を聞いたラズヴェルト様は怒るどころかふわりと笑い、「サラの役に立ったのなら良かった」と大海よりも広い心で許して下さったのだ。懺悔を天使に赦してもらったときの震えるほどの感動だった。私が“ラズヴェルト様は天使教”の立ち上げを決心した瞬間である。と共に、今後この能力はラズヴェルト様のために使おうと決めた出来事でもある。

 『ホームセンター』で物を買うには魔石と交換して得る「ポイント」が必要だと聞いたラズヴェルト様が、まだ必要ならと他の大切な魔石を出してくれようとしてきたので、私は必死に遠慮した。手と首を振りまくり、奇妙な踊りと「もう十分です足りてます何でも買えます十分ですもうお腹いっぱいです」と訳の分からん言葉を発しながら説得し、へとへとになりながらどうにか魔石を収めてもらった。

 とはいえ、王宮というか王都に居る限り魔物の魔石を直接手に入れることはほとんどない。せいぜい魔術の媒体となっている魔石の使用済みのやつを貰ったりしていたけど、10ポイントから100ポイントくらいにしかならなかった。あ、『ホームセンター』では1ポイント=1円換算だ。


 それが辺境に向かう途中に出てくる魔物の魔石は辺境に近づくにつれ高額になっていき、『ホームセンター』のポイントもどんどん増えていった。私の『ホームセンター』での買い物の対価が魔石だと説明を受けた旅の仲間達が、道中手に入れた魔石をすべてくれることになったのだ。

 魔石は専門店で売ればそれなりにお金になるし、冒険者ならばギルドに持って行けばランクを上げることもできる。なので、全部でなくてもいいと遠慮したのだけど、皆これから向かう先では他に使い道もないだろうし、必要になったらまた魔物を狩ればいいと気軽に渡してくれた。やっぱりラズヴェルト様のお心が清いから良い人が集まるんだろうな。


 というわけで、今運動ついでに狩ったナマケモノっぽい魔物の魔石は一つ5000ポイントほどだった。十数体の群れで襲いかかって来て、ブライルさんが止めを刺した群れのボスのような大きいやつの魔石が3万ポイント。総じて約12万ポイントの収入だ。今夜のご飯は豪勢にしよう。



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