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ラズヴェルト様と私の辺境までの道のり その3


 何事もなく迎えた翌朝。昨夜の残りのポトフとホームセンターで買ってきたパン、ジュースや紅茶などで朝食を済ませ、皆でトラックに乗り込む。


 ちなみに、このトラックはちゃんと昨夜一度ホームセンターに戻している。駐車場の端の方にあるガソリンスタンドで軽く洗車と燃料補給をして、もともと停めてあった場所に返しておいたのだ。そして先ほどまた借りてきた。


 今日は私が運転するけれど、私一人でずっと運転するのは大変だし、何かあった時の為に運転できる者が他にもいた方がよいということで、休憩中に少しずつ皆に運転を教えていくことになった。この世界では免許も必要ないしね。

 隣にはラズヴェルト様、そして助手席にはブライルさんが興味深そうに乗っている。体の大きな人なのでラズヴェルト様がちょっと押されて私の方へ寄っている。ブライルさんに比べるとラズヴェルト様はまだまだ小柄でその対比が大変可愛らしい。よし私の助手席はブライルさん専用にしよう。隣はもちろんラズヴェルト様固定で!


 辺境に向かって車を走らせていると、やがて荒野から背の高い草が増えていき、両側に木々が立ち並ぶ深い森のような場所へと入って行く。一応馬車でも通っていたのはそれなりの幅の道はあるけれど、ボコボコして走りにくい。運転席が上下左右に揺れるので、後ろの荷台の方はもっとひどいかもしれない。

 心持ちスピードを落として走っていると、上の方からすっと何かが落ちてきた。と思った瞬間にはドンとフロントガラスの上の端の方に当たり、視界から消える。


「え?」


 驚き今のを確かめるために車を停めようかと思っていると、後ろから「フォレストエイプだ!」と警戒した声が聞こえてきて、魔物だったのかとスピードを落とすのを止める。

 すると今度は助手席側の森の中からバッと深緑っぽい毛皮のオランウータンのような獣が飛び出し、またバンと音をたてて車体にぶつかり後ろへ流れて行った。


「え??」


 なんて声を上げている間にも次々と上や横の木からオランウータンのようなものが飛び出してきては、ドン、バンという音とギャッという悲鳴を残し消えていく。助手席のブライルさんは横の窓からその様子を眺めて「おー!」と何か面白そうな声を上げていた。

 後ろの荷台からは「上だ!上!」「殴り落せ!」という声や金属音、魔物の声なんかも聞こえ、このまま走り続けていいものかと悩む。


「大丈夫だ、このまま行ってくれ」


 いつの間にか助手席のドアを開け後ろを見ていたらしいブライルさんが、バタンとドアを閉めて緊迫感の無い声でそう言うので、後ろも危険な状況にあるわけではないのだろう。歴戦の戦士の言葉に従って、変わらないスピードで運転を進めた。

 さすがに目の前にオランウータンっぽいものが降ってきてフロントガラスにぶつかり、滑るように流れて行ったときはビクッとなってしまったけど。地球だったら大変な事故現場だこれ。


 そんなこんなで森を出て、丘を越え、また荒野を走り、草地を抜け、と車を走らせて来たけれど、車ってすごい! たいていの魔物は車のスピードに追い付けないし、前から飛び掛かってくる魔物はボディアタックで退けることが出来る。上から飛んできた鳥のような魔物が運転席の天井を攻撃してきたけど、傷一つついてなかった。荷台の幌の方は後ろに乗る人達が責任もってガードしてくれてるし。



 辺境に向かって旅を始めて数日も経てば、皆車の運転も覚え、それぞれの特性も出てきた。

 安心して運転を任せられるのは、カイルークさん、ソルフェールリットさん、ブライルさん、モットのあたりだ。

 カイルークさんとブライルさんは熟練の運転手という感じで運転も丁寧だし、道の凹凸もすいすいと避けてゆったり乗っていられる。

 ソルフェールリットさんの時はなかなかのスピードでまっすぐ走っているのに車の揺れがほとんどない。どうやっているのかと聞けば、走りながら魔術で先の地面を軽く整えているのだとか。ちょっと何言っているのか分からないですね。

 モットの運転の時もやっぱり揺れない。これも聞いてみれば土の精霊に地面を走りやすいように整地してもらっているのだとか。ちょっと何言っているのか(略。


 クラーラとヘクトーはスピード狂の気があり、怖くてラズヴェルト様を乗せて運転させられない。ジニアさんは法定速度絶対遵守! という感じで低速でしか走らない。速度計の針が40キロからピクリとも動かない。

 ナキの運転はあっちへふらふらこっちへふらふら、沼に落ちそうになったり(でもぎりぎり落ちない)、木にぶつかりそうになったり(でもぎりぎりぶつからない)と心臓に悪いので早々に運転禁止を言い渡した。「運転ってむずかし~ね☆」と言いながらも、車より大きい魔物をかわすときに見事なドリフト走行をしてみせたのはこいつだ。


 朝から車を走らせて一・二時間おきにトイレ休憩をはさみ、昼食と食休みをしてから、また休憩をはさみつつ走って日が暮れる前に野営地を決める。というペースで先を進んでいく。


 野営地が水場の近くになった時には女性陣の強い希望によりお風呂に入る。周囲を囲むようにカーテンのついた、運動会などで使うような形のテントを張り、子ども用ビニールプールに魔術でお湯を張ってもらう。

 まずはラズヴェルト様に入ってもらい、私は髪や体を洗うのを手伝ったり――は断られたので、脱衣所代わりにいくつか敷いた簀子にタオルや着替えを用意して、テントの外で見張り。

 その後女性陣が入るのだけど、王宮では能力がばれるのを警戒して使えなかったホームセンターで買ったシャンプーやコンディショナー、化粧水や美容クリームなども気兼ねなく提供する。するする落ちる汚れとサラサラになった髪、もちもちになった肌に、ジニアさんやクラーラにはとても喜ばれた。過酷な旅の途中なはずなのに二人とも以前よりキラキラしていて、美人度も格段にアップだ。自分用のが欲しいと言われたので、匂いや成分などを比べながらそれぞれの好みに合うものを渡しておいた。

 お湯を入れ替えた後男性陣も入っていたようだけど、むさいので知らん。

 ちなみに、使用後の水は川に流すので、頭や体を洗うのも服を洗うのも自然に優しい成分のものにしている。


 皆が持っていた替えの服も一着かそこらだったので、ホームセンターで購入してきた服を渡したんだけど、何と言うか……ちょっと問題が。

 まずヘクトーが作業用のツナギを気に入った。頑丈さと機能性が最高だ。デザインもいい! と。そして洗濯物を干すために出した伸ばせる物干し竿も武器として使うようになった。すごい馬鹿力で物干し竿で魔物を薙ぎ払う姿はなかなか壮観だ。が、ぱっと見映画や漫画でしか見たこと無いようなこてこてのヤンキーが出来あがってしまった。

 ブライルさんは作業用ズボンに頑丈長靴、作業用ジャンバーで完全に工場長です。モットもツナギが動きやすくて気に入ったらしい。ちょっと大きめのツナギを着てほにゃりと笑う姿は入ったばかりのバイト学生。

 カイルークさんは動きやすく手触りが良いとジャージを好んで着ている。ナキは下がジャージに上がTシャツで運動中の学生みたいだ。

 ソルフェールリットさんは着心地が良いからと上下揃いのトレーナー。完全に顔を覆う長い前髪に、落ち着くからとトラックの荷台の片隅に武器の杖を持って座っている姿を見たときは……。

 クラーラは動きやすいとデニムにチェックのシャツを合わせて着ているが、私はメイド服の方がロマンがあって良いと思うよ。

 唯一ジニアさんは騎士道は服装から、の精神で変わらぬ騎士服を着ているけど、上着の下は980円で売っていた柔らかいYシャツ。


 それぞれが好きな服で野営の準備をしているのを見ていると、あれ、この世界は中世ヨーロッパ辺りの文明ぽいと思っていたけれど、19世紀の開拓時代のアメリカだったかなと頭が混乱してくる。

 まあそんなものは淡い色のシャツと綺麗めのスラックス姿のラズヴェルト様を見たらどうでもよくなったけどね。天使は何を着ても天使。溢れ出る気品に全てが高級ブランドのものに見えた。


 もちろん皆自分の職務や現状を忘れているわけではないので、防具や武器はきちんと装備している。ツナギやジャージの上に装着された鎧は意外とマッチしていてこれぞファンタジーって感じだ。トレーナーにマント羽織って杖掲げているのはなんか違う気もするけど。あとモットさん、軽くて丈夫だからって盾の代わりに鍋の蓋を使うのはやめていただきたい。



誤字修正しました。ご報告下さった方ありがとうございます<(__)>

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