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第22章 創造する未来


『お前がそう望むならそうすれば良いんじゃないか?わしがどうこう言うべき事は無い。但し、ショーヘイ殿やアニー殿の了解は取っておくんじゃぞ!それに・・・暮々も迷惑を掛けたり、足手纏いにならぬようになぁ~』


「心得てるよ~お爺ちゃん!」


ソニアはエルランドからの返事を見つめながら、ひとり言のように呟いた。

祖父から言い使った当初の目的であるショーヘイ一行をルクソニア公国の『竜人族の村』まで送り届けたソニアは、役目を無事果たし終えた今、ホッとするのと同時に肩から重荷が下りた感覚はあったが、かと言ってこのまま素直にアドリアの竜人村へと戻る気になれなかった。


ショーヘイやアニーの気さくな人柄に魅せられたこともあるが、ウルマスの息子であり『ハイドラゴン』であるルーカス・アールグレーンにどうしても逢いたいと思った。

自分が生きているこの時代に、自分と同じ竜人族の上位種に出会える可能性がそこにある。人生においてもう二度とないであろうそんな機会をあっさりと看過してしまうのは実に愚かな事のように感じられた。

そう思うと居ても立ってもいられないソワソワとした気持ちに駆られてしまう。

丁度、ショーヘイ一行がウルマス村長の薦めもあり、『ハイドラゴン』であるルーカス・アールグレーンに出会う為にバンドール経由で隣国バーラム共和国へと進路を変更する今を於いてそのチャンスは他にない。

だから、祖父であるエルランド・ドラゴニスに引き続き一行に帯同したいとマジックメールで伝えていた。


「ショーヘイ様、アニー様、それにサーシャ様・・・もうしばらくご一緒させていただきます!宜しくお願いします!!」


ソニアは嬉しそうな顔をして、こちらに向かい深々とお辞儀をした。


「うんうん、これからも宜しく!ははっ」


「ソニアさん、こちらこそよろしくね!」


「ソニア、ソニア~~サーシャとまた一緒だねぇ~♪イシシッ」


「はい!あはっ」


俺は勿論大歓迎であるが、それ以上にアニーもサーシャも喜んでいるようだ。

彼女が残ってくれることは至って大きい。

また何かに付け世話になってしまうのだろうと思いつつも、こうして『えにし』によって繋がり広がって行く世界は実に奇なる物だと・・・そんな風に感じてしまった。



また、エルランドが手配してくれた魔導馬車も『竜人族の村』までの契約になっていたが、ウルマスがルクソニア公国の公都であり首都であるバンドールまでの費用を負担してくれるそうで、御者たちも俺たちと一緒にまた旅を続けられることを素直に喜んでくれた。

ウルマスに変な気遣いをさせたことを申し訳なく思う。

しかし魔導馬車を利用できることは、ポートルースまでの旅程を考えるとかなりの日数短縮にもなり、この上なく有り難い代物だった。

本当に感謝しかない。


馬車は一路ルクソニア公国の首都バンドール目指し、街道を風を斬ってただ只管ひたすら駆け抜けて行く。

竜人族の村からだと、魔導馬車であっても丸々一日は要する距離だが、このまま順調に行けば夕方には着けそうな気配だ。

あれ以来、第一王子ロザーリオの手の者だと明かした男たちは姿を現さない。お灸が効いたのか、自重しているのかは分からないが、こちらの目に触れるような大胆な行動をしてこない事には少し気が休まった。

とは言え、他の密偵が潜んでいる可能性が無い訳ではない・・・だから警戒を怠るような油断は禁物である。

移動中は魔脈を利用してアニーがバリアを掛けてくれているし、四六時中張り詰めた気持ちでいることは心身共に疲れてしまうので、どこかで息を抜かなければならないが、そのことは常に念頭に置いておかねばなるまい。


『用心に越した事はない』

そんな事を考えつつも、俺は移りゆく車窓の景色を眺めながら昨日のウルマスとの会話を思い出した。

傍らではサーシャが楽しそうにソニアにじゃれつき、賑やかな笑い声が広くもない車内に響き渡っていた。



俺は目を瞑り、回想するかのようにウルマスの語った言葉を脳裏に思い浮かべた。



・・・・・・・・



「そして3点目ですが・・・」


「はい・・・」


「それは・・・最終的な目的は存じ上げませんし、詮索するつもりもございませんが、この『旅』が続いて行くということです!」


「村長のおっしゃる『旅』が我々の存在意義に関係しているのでしょうか?・・・」


「はい。過ってのハイヒューマンとハイエルフが『旅』をお続けになられた記録はたぶん何処にもございません。きっとこの地で『ハイドラゴン』に遭遇できなかった故だと思われますが・・・」


「それは、アドリアの隣国であるこの『竜人族の村』をまず最初に訪ねたということでしょうか?」


「順路的にはそうなるのかも知れませんねぇ~・・・」


「なるほど、そこで最初の目的を果たせなかった。だから『旅』がそこでついえたということですか・・・」


「そうです。ところが、クガ様は違った!まだ出会ってはおられませんが、すでに『ハイドラゴン』が実在していることをお知りになりました。これが意味為すところは大きいのです!」


「それは・・・わたしの本来の目的の他に『使徒』と呼ばれる上位種の方々との出逢いという『旅』がプラスされ、そして継続されていくと言うことでしょうか?」


「そうです。そうお考え戴いて間違いないと思います。私が想像するに・・・たぶんクガ様は今回の『旅』で『使徒』たちすべてとお出会いになられるような気がします・・・」


「他種族の上位種とも出逢えるかも知れないということですか?」


「はい。その通りです!きっと、いや、それはひとつの『えにし』を繋ぐことで広がって行くものと確信しています。ここを訪れられた理由からして、そういう流れになっているのですよ!」


「・・・魔人族についても、ドワーフ族についても、増して獣人族についてさえも深く理解していませんし、それにどこで生誕するのかも知りません・・・今の現状を考えれば、そんな絵空事のような事が起き得ることなぞにわかに想像も尽きませんし、現実になるとも思えません!」


「ははっは・・・それが『えにし』を繋げるということです。望んでも望んでも叶わないこともあるし、望まなくても叶ってしまうこともある・・・これが『この世界のコトワリ』なのですよ!」


「あぁ~なるほど・・・それは自分でも良く理解しているのですが、あまりにも現実離れしている話しにしか感じられないし、どうすれば良いのかも解りません!」


「そうかも知れませんね。だから迷わず進みなされ!一歩踏み出せば、必ずあなたが進むべき道が示されて行きます。今は深くお考えになる必要もありません・・・ただ目の前に広がる世界を素直に受け入れられたらそれで良いのですよ~」


「はい・・・」


「クガ様ご夫妻の存在意義は敷かれた未来ではなく、自らがお創りになる未来にあるのです。踏み出した一歩先にあるものを確実にお掴み下さい。それがお二人が背負っておられる『運命』であり『使命』なのだと・・・私には感じられました」


ウルマスは迷わず、考え過ぎず目の前に広がる世界を素直に受け入れろと言う。

それは、受け入れた未来さきにまた新たな世界が広がるという意味にも取れる。

確かに、敢えて否定し続ける理由はどこにも無いし、起こり得た事象を起こりべくして起こったのだと咀嚼そしゃくすれば良いだけのことだとは理解している。

受け入れて歩んでいくことに抵抗があるわでもない。けれど、考えればそうするしか選択肢が無いようにも思えてしまう。

どこか『神』の思いのままにプログラムされ、操られているような違和感は拭え切れない。

それは『神』がこの世界に俺を送り出したことが起点となり始まっているような気がする。

俺たちに何をせよと・・・何を望んでいるのか・・・今だに何ひとつ答えは見えてこない。


「私が申した3点の違い・・・これがクガ様ご夫妻が過ってのハイヒューマンとハイエルフが存在されてきた意義と違う意義を持って存在されておられると感じられたことです!」


「誰も無し得なかったことを『えにし』を繋ぐことで越えたことは事実ですが・・・」


「それだけでも凄いことなのです。それは不変と思われた『コトワリ』を変える事の出来るものだと示されたのですから~ははっ」


「はい・・・」


「迷わず進みなさい。そこにまた新たな『コトワリ』が生まれて行くはずです。それは『使徒』たちと『えにし』を繋ぐことです。その未来さきにあるものが何なのかは誰にも判りません。それを見つける為に一歩一歩踏みしめて前へ進んで行くのが人生であり、あなたが悠久の時の中で為さなければいけない『役割』なのかも知れません。そして、それがあなたの責務であり存在する意義です・・・私はそういう風に感じましたよ。『未来を創造』しなされ~!」


そう言って話しを締め括ったウルマスの顔は、どこか晴れやかで満足そうな表情を浮かべていた。


彼が述べた言葉は、俺には真理のように思えたが・・・それは『神の領域』に踏み込めと言われているようにも感じられた。

自分自身に何ができるのかは、まだ見えて来ない。

見えなくて当たり前なのかも知れない。だから一歩一歩踏みしめろという言葉になるのだろう。

考えれば考えるほど難しく思えてしまうのが『この世界のコトワリ』である。

どこまで素直に受け止められるか・・・自信は無いけれど、傍らにアニーとサーシャが、そして集う仲間が居てくれたら進めそうな気がする。




まずは『ハイドラゴン』に出逢おう。そこから先はまた何かが見えてくるだろう。きっと・・・


馬車は刻々と黄昏時が押し迫る中、夕闇に追い掛けられるようにバンドール目掛けて走ってゆく。


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