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第14章 国境線を越える


 5月の抜けるような青空のもと、俺たちはエルランド・ドラゴニス村長に、国境を越える為に手配してもらった魔導馬車の前で別れの挨拶を交わしていた。

魔脈の上を迅速魔法を掛けて走る魔導馬車は定期馬車とは違い、元の世界に例えるなら特別に呼び寄せたハイヤーと路線バスぐらいの違いがある。

当然同じ距離を走るなら半分の所要時間で済む。但し・・・魔術を使える魔術士二人の御者を含め金額は高額である。

王族や上級貴族でも無い限り気軽に使える代物では無いのだが・・・

俺たちがハイヒューマンとハイエルフであることへの気遣いなのかも知れないが、マリナからの援助や特殊カードも授かってはいるが、長旅に於いて湯水の如く使う訳にも行かないので、ここは節約の為にも、村長の好意に甘えることにさせて貰うことにした。


「ソニアよ~お二方のご案内と護衛をしっかりやるのじゃぞ!解っとるのか?」


「任せて~!お二人の邪魔にならないように頑張るから~お爺ちゃん!」


「あん?邪魔にならんようにてか?・・・お前は何の役にも立たんのかぁ~~!」


「お二方を私が護衛するなんて烏滸おこがましいでしょう?・・・でも、サーシャさまは守るから任せて!!」



ソニア・ドラゴニス 18歳♀(竜人族)

エルランドの孫であり、ベルフォースの冒険者ギルドに登録しているC級冒険者であるが、必ずしも冒険者ランクと真の実力とはイコールではない。俺たちだってさえC級だったのだから。

女狂戦士バーサーカーとして現在売り出し中の・・・腕は勿論のこと可愛らしさに気さくさも手伝ってか、ギルドではかなりの人気者のようである。

ソニアは幼少の頃からエルランドに武芸を仕込まれていたらしく、そんな積んだ稽古量の上に素質も才も自分以上であるとエルランドは笑っていた。

そんな彼女が案内と護衛を兼て同行してくれるらしい。


どうも、アドリア王国に潜んでいる他国の間者たちが今回の俺たちの『伝説の黙示録』探しに感ずき不穏な動きをしていることを村長は自身の情報網から感ずいていたのだろう。

まだ俺たちがハイヒューマンとハイエルフだとは公式に公開されているわけではないが、密かに他国の間者たちはその情報を掴んでいるに違いない。だが、そんな相手に戦闘を仕掛けるほど短慮な馬鹿はいないであろうが、幼子も抱えているしどんな不測の事態が起こるやも知れぬ・・・だからソニアだけでも国境越えに備えて帯同させようと考えたのだろう。

大人数の護衛など付けるものなら余計に目立ってしまうが、それに匹敵するほどの若い腕利きの女性がひとり増える程度なら何ら問題も支障も無いという配慮がそこには伺えた。

こちらから一方的に訪ねてきたのに、逆にこういう気遣いをさせてしまう・・・エルランドには本当に頭が下がる思いだ。感謝しかない。

本来ならロークがこの任に当たって随行してくれていたのだろうが・・・それは今となっては致し方ないことである。


「ショーヘイ様、アニー様、サーシャ様・・・ソニア・ドラゴニスです。ルクソニア公国の竜人村までお供させていただきます。宜しくお願いします!」


ソニアは俺たちを見回しながら元気よく挨拶をくれ、そして深々とお辞儀をした。

本当に明るく可愛い女性である。

アニーはそんな彼女に返礼するかのように軽く会釈をしながら微笑んだ。


「ソニアさん、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いしますね~あはっ」


「サーシャだよ~♪イヒッ」


俺に抱かえられたサーシャは、アニーの挨拶に釣られるように、ソニアに向かって小さな手を挙げながらくしゃくしゃに崩した満面の笑みを返した。


「ソニアさん、堅苦しいのは抜きにしましょう!俺たちは『様』付けするほど大層な者じゃないので、気楽に参りましょう~ははっ」


「不束者ではありますが、何かのお役に立つでありましょう~遠慮なくこの者に申し付け下され~ほほっほ」


エルランドは傍らに立つ孫のソニアの頭を軽くポンポンと叩きながら上機嫌に高笑いをする。

その行為に膨れっ面になるソニアの顔に俺もアニーも思わず笑みを洩らした。



・・・・・・・・



整備された街道を魔導馬車は国境を目指し西へと只管ひたすら走る。

魔脈の上を移動している限りは、元の世界の自動車とまでは言わないが、それなりに快適な速度で風を切りながら進んでいく。

左手に海を見下ろせる街道からの眺めは、天気が良いのも手伝って、遥か彼方まで続く大海原の照り返しが眩しくもあり、美しくもあり・・・そして得も知れぬ開放感を心に与えた。

その眩しい景色に目を細めながら見惚れるアニーの髪が風に揺れる。

そんな彼女の横顔を見ていると、ふたりして今この場所にいることに嬉しさが込み上げてくる。

迷いに迷った同伴の旅であるが、『つがい』のふたりが離れ離れにいるよりは、何が起ころうと共に居ることが『役割』であり『コトワリ』なのかも知れないと改めて思わされた。


「おかぁ~さん、キラキラとキレイだよぉ~♪」


「そうね~海がキラキラしてるねぇ~」


サーシャは靴を脱いで座席に立ち上がり、車窓から乗り出し気味に照り返す海に指をさして興奮している。

アニーはそんな娘をしっかりと支えながら微笑んでいた。

サーシャのはしゃぐ素振りや仕草が周りの者を和ませたようだ。

この馬車には俺たち4人と国境管理事務所に用事のある村役場の役人2人が乗り合わせていた。


「あぁ~~あ、今日は天気が良くてホント気持ちイイですよねぇ~~ふふっ」


ソニアは笑いながら背伸びをするかのように両手を天井に向けた。

冒険者としては、じっと長時間座っていることが退屈なのと同時に体が鈍ってしまうんだろう。

そんな姿も5~6年前の自分たちを思い起こされるようで何となく笑えた。

体力を持て余し気味のソニアに役人の一人が微笑みながら口を開いた。


「私共2名は国境管理事務所で仕事の為に下りますが、その後は直接ルクソニアのもと寄りの町まで行かれるのですか?」


彼女が『竜人族の村』の族長であり村長であるエルランド・ドラゴニスの孫であることを知っている役人は、丁寧な言葉遣いで問い掛けていた。

それに対し、ソニアは彼らに軽く頷いた。


「はい。時間的にもルクソニアの最東部の町ラグーンまでは行けるので、そうするのが良いかと思っています。ショーヘイ様、それで良いでしょうか?」


「へっ?!ソニアさんに任せるよ。何せ全くもって予備知識が無いもんで・・・ははっ」


そう聞かれても返事のしようが無い。

俺は頭を掻きながら苦笑いを返した。

そんな俺にソニアはほっぺにえくぼを作って微笑んだ。


「了解しました。サーシャ様の疲労も考えて、途中で休憩しながら参りましょう。後ほど御者の方々と打ち合わせしておきますね!」


「よろしくお願いします!」


俺もアニーもソニアのその言葉に頷いた。


もうすぐ国境管理事務所に着くのだろうか・・・車窓の景色は海沿いから少し木々が生い茂る林の中へと移り変わってきた。

魔導馬車は山の麓を国境線目掛けて最後の峠と上り始めた。

林を抜けると岩肌が剥き出しになった岩壁とその向こうに高く聳える山々が広がっている。

国境管理事務所はその谷間の少し開けた部分に建っていた。如何にも国境という感じがする。

馬車は国境管理事務所の玄関前に止まった。


「私共はここで下車致します。これからの道中のご無事をお祈りいたします」


「あ、ありがとうございます!」


役人2人はそう祈念の言葉を俺たちに掛けながら管理事務所の玄関前で馬車を下りた。

ソニアは役人たちが下車し終わるの待ったのち、俺たちの方へと顔を向けた。


「ではゲート前まで行きますよぉ~~ゲート越えるとルクソニア公国ですから!あはっ」


この世界の国境線を越えるのは初めてだが・・・意外にも想像に反してシンプルそのものだった。

高い塀が聳え立ち厳重な入出国の管理が為されるのか思ったが、そんな物もなく、ただ自然の地形を利用した狭まった箇所に低い遮断機のようなゲートと簡易的な詰め所が2つあっただけだった。

一方はアドリアからルクソニアへ、もう一方はルクソニアからアドリアへのゲート詰め所に見受けられた。

たぶんあのゲートを潜るまえに身分証明書を見せるだけなんだろう。

そう言えば・・・バサラッドの城門を潜るときも身分証の提示を求められることは無かった。

この世界では荷馬車が検閲される程度で、案外人間の往来には寛容なのかも知れない。でもさすがに国境線だ身分証の提示は求められるだろう。

だが、求められても何の躊躇いもなく堂々と今なら提示できる。『転移パック』にあったような偽物ではない。転移して来てから6年・・・そう考えると、この世界における正真正銘の身分証明書を持てる身になったことが自分自身でも可笑しくなってしまう。


「夕方までにラグーンの町まで行きましょう!」


ソニアは俺たちの顔を見ながら自分なりに建てた旅程を言葉にした。

それには何の異論もない。


「いくなり~♪」


アニーに抱っこされたサーシャは嬉しそうにソニアの言葉に反応した。

そこには小さなクロエがいた。


「クロエおばちゃんみたいだねぇ~あはっ」


「サーシャさま~~可愛い!ふふっ」


「イシシッシ・・・」


サーシャの笑顔にみんな釣られて笑ってしまった。

そのみんなの笑顔を俺は守って行かねばならない。

ルクソニア公国がアドリア王国のように治安が良いのかどうかも今は分からない。

尾行されている気配も感じ取っている。

腰に下げた剣のつかをギュッと握りしめ、見も知らぬ土地へ出向いて行くことに俺は気持ちを少し引き締めた。





『さぁ~国境を越えるとしよう!』


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