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第10章 出立準備完了


結局アニーに押し切られる形で、俺は今回の『伝説の黙示録』探しの依頼にアニーとサーシャを同行させることにした。

心配なのは慣れぬ土地への長時間の移動や環境も目覚ましく変化していくことにサーシャが耐えられるか・・・何と言ってもまだ2歳の幼子である。

彼女の感じる負担は肉体的にも精神的にも想像を絶するものだと思う。

父親として心配しない方がおかしいだろう。

きっとロークも同じ思いで悩んでいることだろう。

でも、そんな俺の心配とは裏腹に、アニーは意外にも冷静さを保っている。母親は強しなんだろうか・・・一旦腹を括ると女性ほど強い者はいない。

たぶん道中では回復魔術や疲労軽減魔術を使って、子供たちの負担を減らしてやろうと考えていることは何となく想像がついた。



西方域国境に一番近い港町ベルフォースまでは、王宮から瞬間移動が可能な扉から送って貰える手筈になっている。

そのベルフォースから国境を越える際に馬車を使うか、あるいは船を使った移動をするか選択せねばならないのだが・・・そこから先の所要日数や進路、移動方法などを含め事前の綿密なる計画が必要になる。

当然ながら、できる限り子供連れを考慮した旅程にしておかねばならない。

何せバサラッドからロンバルディア皇国のポートルースまでは直線距離にして2000K以上ある。

アドリア王国の西隣になるルクソニア公国とバーラム共和国の2国を丸々横断する大移動である・・・元の世界なら飛行機で飛べば意図も簡単なことではあるが、この世界では無い物強請(ねだ)りでしかない。

子供だけでなく大人の俺たちへの負担も疲労も大きいであろう。そんな事も考慮しながら無理のない調整をしていかねばならなかった。



そんな意見交換をしながら旅程などを調整し出立準備も整いかけた矢先・・・事態は急変した。

どうやらフローラが二人目を懐妊したようだ。

そう言えば、先日アニーと王宮に呼び出しを受けた際、フローラの姿が見当たらないことをロークに尋ねた時には、少し体の調子がすぐれないとは聞かされていたが、今から思えば妊娠初期の悪阻つわりが始まっていたんだろう。

きっと、ロークもフローラもその時点ではまだ『妊娠』に気付いてなかったのだと思う・・・彼は『伝説の黙示録』探しにアニーが行くならフローラも連れて行きたいとまで言っていたのだから。

でも、彼も頑張るところは頑張っていたんだ・・・そう思うと妙に可笑しくなって顔がニヤけてしまう。

何とも『おめでたい』話ではあるが、計画は若干なりとも変更を余儀なくされた。


自分ひとりでも一緒に行くというロークを俺は残るように説得した。

例え二人目と言えど不安定な時期である。娘のシェリルのこともあるし、今はできる限り近くに居てフローラを不安にさせないようにすることを奨めた。

それにはマリナも部下であると同時に大切な友人たちの事でもある。無理にポートルース行きを強いることはしなかった。

元々、俺とアニーへの依頼であり、ロークはサポートとしての立場であったわけだし、抜けたところで基本的に俺たちに問題がなければ敢行できる話である。

但し、王太女の側近という肩書は何かと国家機関に対し便利であり融通も効いたであろうが、それはそれで仕方のないことであり何とでもなる事であろう。



最終的に俺とアニー、そして娘のサーシャの3人で赴くことにした。

マリナからは、2人で心許ないと思うなら信頼のおける者をこの依頼に誘っても良いとも言われた。

それはハイヒューマンとハイエルフというだけでなく友人としての厚き信頼もあったのだろうが、今から誰かを誘うような時間も無いし、ロークもフローラが落ち着いたら後から追いかけるとも言ってくれたし、マリナや賢人たちには悪いが、任務とは言え国外を旅することなんぞそうそうあるもんでも無いので、ここは第三者が必要になるまでは家族旅行を兼ねていろんな経験をさせて貰おうと思っている。



・・・・・・・・



出立前日、俺は館長室に呼ばれた。

今回の『黙示録』探索について何か伝え足りないことでもあるのだろうかと思いながら部屋へと入って行った。


「すまん。忙しいところ呼びつけて・・・」


「いえ、今から家に戻って準備の最終確認しようかなと考えていただけですから~」


「時間が許すなら少し掛けてくれ!」


「はい・・・」


俺は名誉館長の言葉に従うようにソファーに腰を下ろした。

そんな俺を見ながら笑顔の中にも何か思い詰めたような表情を浮かべ、館長もゆっくりと腰を下ろし、そして語り始めた。


「実はなぁ~『黙示録』の件に関連しているとわしは思っとるんじゃが、ちょっと寄り道を頼まれてくれんかのぉ~」


「寄り道ですか?」


「うむ、お前さんには以前話したこともあろうかと思うが、この世界の上位種は果たしてハイヒューマンとハイエルフだけなのか・・・各種族に上位種は存在せぬのであろうか・・・覚えておるか?」


「はい。確かにその話はお聞きしました」


「うむうむ・・・わしはのぉ~各種族に上位種は存在しておると思うのじゃ!だから、それの調査も兼ねて少し寄り道をしてくれんかのぉ~」


「はい・・・それは構わないのですが、何処へでしょうか?」


「お前さんたちを瞬間移動させるベルフォースの町の西方・・・国境寄りに『竜人族の村』がある。そこへ少し立ち寄って欲しいのじゃ!」


「竜人族の村ですか?・・・」


出立の前日に呼び出されたということは何かあるなとは思ったが、そういうことだったのか・・・


「そうじゃ!そこの村長であり族長をされているエルランド・ドラゴニス氏に会って貰いたい。この方は『精霊』殿の祖父ホランド・ベルハート師の盟友なんじゃ!!」


「爺さまと盟友なのですか?」


「うむ。第二次人魔大戦の時から知り合いというか、もう親友に近いほど懇意にされていると聞いておる。それに村長同士でもあられるので族長会議でも顔を合わせられることも度々(たびたび)あるしのぉ~」


「なるほど・・・」


流石に爺さまは自分では長生きしているだけだと言うが、中々にその長い年月の中で積み上げられた人脈は並大抵のものじゃないのだろう。

俺にはそんな風に感じられた。


「そのドラゴニス村長に会って、少し話を聞いてくれないであろうか?」


「竜人族の上位種についてでしょうか?・・・」


「そうだ!『黙示録』にも何ら関連することが記されているとは思っとるが、これはわしの終生の研究のひとつでもある。だから、手を煩わして申し訳なく思うが、少し寄り道を頼まれてくれんか・・・どうでろう?」


名誉館長であるクロフォード・リンデバーグは学術界では『コトワリ』に関しては肩を並べぬ者もいない大権威である。

終生の研究として費やした膨大な時間でも解き明かせぬことばかりだという。

そんな謎多き『コトワリ』が『黙示録』の発見によって少しは解き明かされるのでは無いかと期待はしつつも、自分は自分なりにアプローチを掛けたいという学者魂も意地もあるのであろう。

そんなプライドを持つ可愛い側面が見受けられて、少し可笑しくなってしまった。


「いえ、俺も興味ありますし、それは構いませんが・・・突然訪ねて大丈夫でしょうか?」


「ほほっほ、それは最もだ。しかしその点は抜かりない・・・大丈夫じゃ。師匠から連絡を昨日取って戴いている。それに孫のアニー殿もおられるし先方も喜んで迎えてくれるだろうよ!」


「なるほど・・・判りました。どんなお話が聞けるのか判りませんが、国境を越える道中でもありますので立ち寄らせて戴きます!」


「ありがたい!この『黙示録』調査が終わった後でよいので、また報告書を作ってくれ!」


「了解しました。どうせ館長もウズウズして待てないでしょ?マジックメールにて逐次報告はするようにしますよ!ははっ」


かたじけない・・・ふほっほ」


名誉館長は殊勝にもそんな言葉とともに俺に頭を下げた。


ただ『竜人族』に関しては他の種族よりも謎が多い。

今の時代である、どこの町でも見かけるが、それでも大多数が竜人村周辺で生活を営んでいる。

この5年間、館長と共にいろんな研究をしてきたが、俺自身『魔人族』と共に『竜人族』に関することはいまだ理解が足りない。

理解するにもバサラッドに篭っていては情報が入り辛い・・・だから研究者の端くれとしては館長の依頼でもあるが自分の理解を深めるにも一石二鳥のように思えた。



・・・・・・・・



図書館を後にし、夕闇が迫る中を自宅へと向かう。

石畳みの坂道から見える我が家の窓からは、すでに灯火トーチの灯りが零れている。

中ではアニーとサーシャが明日からの出立に備え最後の準備をしているのであろう。


でも俺は・・・今になってもまだ考えてしまう。

アニーと幼子であるサーシャを過酷な旅に本当に同行させて良いのだろうかと。

そんな俺の頭をよぎる思いにアニーはこう言うであろう・・・昔も今もきっと胸に秘めているその言葉・・・想像してしまうと笑みが自然に零れた。





『未来にどんな世界が広がっても・・・一生あなたについて行きます。そして、一緒に時を流し続けたいのぉ~!』


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