表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/136

第6章 明かされた正体


ロークから会いたいとの旨のマジックメールが届いた。

家族同伴で久しぶりに『かれん亭』でお茶でもしないかという簡単な内容が記されていた。

休日をどう過ごそうかと考えていた矢先の出来事だけに、こちらとしては全く異存はなかった。


「ロークからお茶しないかって!」


「あら、ロークさんから?」


「うん、家族同伴で会おうだってさ!ははっ」


「ならお出掛けの準備しなきゃ~~サーシャ、歯磨きまだでしょ?こちらへいらっしゃい!」


アニーは本当に母親らしく子供を躾ける。

そんな自分の美しい妻が愛しくて仕方がない。

そこにはハイヒューマンとハイエルフとは全く別物の在り来たりの夫婦の姿があった。



俺とアニーはサーシャを伴い石畳の坂道を手を繋いで下りてゆく。

結婚後も、今もってふたりは同居時代と同じ集合住宅で暮らしている。

シフォーヌから一緒に暮らさないかとお誘いも受けていたし、マリナからも邸宅を用意するとまでも言われた。また、そんな話とは別にどこか新居を構えるのも良いかと考えもしたが、やっぱりふたりの思い出が一杯詰め込まれたこの部屋から立ち去ることはできなかった。

ふたりにとっては出逢いから現在に至るまでの人生を共に流してきた大切な空間である。それだけに想い入れも強かったのかも知れないが、全くもって引っ越す気にはお互いならなかった。

現在は俺の部屋をふたりの寝室にし、アニーの寝室だった部屋をサーシャの部屋として使っている。

まぁ、3人家族であれば何ら支障はない。狭いだけに余計にスキンシップが取れて逆にイイのかも知れない。

ここを立ち退く理由が無い限り、三人の生活のベースにしたいと思う。



「お出掛け、お出掛け~♪」


サーシャは両側から繋がれた手を前後に揺らしながら嬉しそうに歩く。

そんな素振りを傍から見ていると、親の俺たちも自然に笑みが零れてしまう。


「フローラさんやシェリルちゃんに会うのも何か久しぶりかも~あはっ」


「そうだなぁ~ここん所、アニーにはサーシャの世話ばかりさせて申し訳なく思う。息抜きもしたいだろうに・・・ゴメンな!」


「あら~~あなたからのそんな言葉初めてですよ?それに申し訳なく感じる必要なんて無いですから・・・ふたりの大切な子供でしょ?」


「うん・・・」


「だから、あなたがそんな風に自分を卑下することないのです。わたしはサーシャを育てるのが嬉しいの!あはっ」


両親であるクレマンとエランから、そして兄弟から愛情をいっぱい注がれて育ってきたんだろう。

だから、俺やサーシャに尽くしてくれることに何ら疑問を挿む余地も抱くことも無いのだと思う。

自分が出来ることを、溢れる愛情を注いであげたい・・・アニーの基本理念はきっとそこにあるのかも知れない。

そんな彼女を見ていると、幾度となく思う、何度でも何度でも感じさせられる・・・俺はアニーと出逢えて、一緒になれて幸せだと。

そして命が消えゆくその瞬間まで悠久の時の中で大切にしたいと・・・



・・・・・・・・



扉を開け店内に入ると、ローク一家はすでにテーブルに着き、愛娘まなむすめ愛子あやしながら笑顔のひと時を流していた。

この店で4人が顔を揃えるのは久方振りかも知れない。

冒険者時代は毎日のようにたむろしていたのに・・・クロエがいて、パウラがいて、いつも笑いが絶えない空間と時間を流して・・・僅か5年前のことなのに、そんな時代が懐かしく思える。


「お待たせ!」


俺はロークとフローラの幸せそうな顔を見ながら声を掛けた。


「おぉ~、来たか!座れよ座れよ~」


「・・・って、ここは家じゃないでしょ!ホントにあんたって旦那ひとは~~しょうが無いわねぇ~」


「ロークには相変わらず手厳しいなぁ~フローラは!ははっ」


「お久しぶりです~!」


アニーは俺の背中から恥ずかしそうに顔を覗かせてふたりに挨拶した。


「おぉぉーーーー!アニーちゃん、益々キレイになってない?何か腰が抜けるほど美人になったと思うんだけど・・・」


「フローラこそ体形変わらないしセクシーだし、その上セレブな奥様って感じになってて・・・俺もちょっとビックリ!」


ロークが感じたようにアニーは年々美しくなっていく。

それは俺も実感していたことだったが、それ以上にあのフローラが美しさの中にも上品さを増しているのは正直驚いた。

元々貴族の令嬢であったし、そうゆう素養は身に着けていたのかも知れないが・・・但し、黙って澄ましていればだが。


「あんたたち、何でこんな場所で妻の品評会やってるのよ~~失礼しちゃうわねぇ~」


「あはっ、でも何か久しぶりに会えて嬉しいです。主人同士はよく会ってるみたいだけど・・・フローラさんやシェリルちゃんとは久しぶりだし!」


「そうだねぇ~わたしも嬉しいよアニーやサーシャちゃんに会えて!きゃは」


「チェリル、チェリル~~サーシャ来たよ~」


「違うもん~~シェリルなの!シェ・リ・ルだよぉ~サーシャ!」


「シェリュルかぁ~~・・・イヒッ」


娘たちの会話がこれまた可愛い。

本当に目に入れても痛くないって表現はこういうのを指して言うのかも知れない。

4人の親の笑顔もほころんでゆく。


「何だよ~思い立ったようにお茶に行こうって?」


「たまにはこういう時間も必要だろ?がははっ」


「ふん、相変わらずお前はいつも強引だなぁ~まぁ、フローラやシェリルちゃんにも会えたし嬉しいけどさ・・・ははっ」


・・・・・・・・


お互いの近況や子供の育児など、しばし他愛もない話に花が咲いた。

しばらく振りの事だ。アニーもフローラも尽きぬ話にクスクス笑い合っている。

そんな和やかに流れる時間に区切りを着けるかのようロークは突然口を開いた。


「実はなぁ~俺もフローラも今さらながらに驚きもしないし納得もできたんだが・・・」


「何をさ?・・・」


「お前たちの真の姿についてマリナさまから聞かされた。何も俺たちは誰にも口外するつもりもないが・・・薄々俺たちとは次元が違うふたりだと思ってはいたけど、それを知ってしまうとさ、居ても立っても居られなくなってさ・・・お前たちにどうしても会いたくなって、フローラとここへ誘おうって!」


「そうか、俺やアニーが何者であるか知らされたわけか・・・別にお前たちに隠してるつもりは無かったんだけど、普通の生活を考えれば敢えて伝える必要性も無かったもんで・・・すまん」


「いや、何もお前が謝ることじゃないだろう。俺はさ、話してくれたマリナさまに感謝している。お前たちと知り合えたことが嬉しいし、俺もフローラも共に冒険したことを誇りに思ってる」


「そんな仰々しいことでも無いだろう?ははっ」


「いや、それでもお前らふたりに出会えたことは・・・たぶん俺やフローラの人生そのものを変えてくれた。知らず知らずのうちに・・・本当に感謝している」


普段のロークらしくない真面目な顔つきで、俺とアニーをじっと見つめた。

そんなロークに俺は返す言葉を探せなかった。


正体を知られたことに驚きは無かった。

何時ぞやはバレることであったし、逆に時期を図ってこちらから告白せねばならぬことだったからだ。

後数年もすれば変わらぬ姿形を見れば誰だって不思議がることは目に見えている。

だからマリナから明かされたことは、それはそれで良かったのかも知れない。


アニーもフローラも話に入らないように子供たちを構ってくれている。

ここは男同士に任せた方が良いと判断したんだろう。

別に俺たちの正体が判ったからといって態度の変わるふたりでは無い。それは俺もアニーも重々承知しているし信頼もしている。


「何で今になってマリナさまはお前に俺たちの事を話したんだ?お前だって仕官して側近となってから何年も経ってるだろ?話す機会はいくらでもあったろうに・・・」


「実は・・・お前が先日マリナさまに相談された話に関連している」


「それって『伝説の黙示録』の件か?」


「そうだ!お前が引き受けてくれたら俺もそれに協力するように頼まれた。その上でお前に何故依頼されるのかも聞かされたんだよ~」


「なるほどなぁ~・・・何となく解った!」


「それでお前はどうするつもりなんだ?その話・・・」


「正直迷っている。アニーとも話したが余計に迷いが出た・・・でも返事はせねばならないし」


「そうか・・・俺はさ、お前に付いていこうと決めた。フローラにも話はしてある。お前が請けるなら俺も協力する!」


ロークはロークなりに決断したのだろう。

だが戦闘があるとか無いとか以前の問題として、謎解きのようなこの依頼は生半可な気持ちでは成就できない。

根気との勝負になる。行く先々がすべて無駄骨ということも十分起こり得るからだ。


見知らぬ土地で徒労との戦いになることは必至だ。

ロークはフローラを連れては行かないのであろう。男爵家を空にするわけにも行くまい。

俺は迷っている。アニーを残すことがいいのか同行させる方がいいのか・・・サーシャのことを思えば単身で行くのが良いに決まっている。

それはよく理解しているのだが・・・こういう『託宣』や『コトワリ』の絡むものには俺よりもアニーの方が優れた能力を発揮する。

幼少から『森羅万象の理』の中で育ってきたわけだから・・・


アニーはサーシャを連れてでも一緒に行くと言う。

優柔不断な自分が情けなくもなるが、ただ単なる旅行ではないのだ。

妻と娘を気遣うのはおかしな事ではないであろう。


「ローク、俺は本当に迷っている。請ける請けないじゃなく、アニーを同伴させるかどうか・・・」


「うん。フローラも最初は一緒に行くと言ってくれた。けど・・・どうなんだろうな?危険が無いなら本当は俺もフローラを同伴させたいと思っている。そんじょそこらのお嬢さまじゃなく、元冒険者だから経験も要領も解ってくれているしなぁ~」


「だがなぁ~冒険のように数日で終わるわけでは無いだろう・・・」


「結局はそこになるんだよなぁ~」



ハイヒューマンとヒューマンでなく、王太女の相談役と側近の近衛騎士でもなく、友達同士として『黙示録』探しをどうするかふたりは悩み唸った。

結論を出すにはもう少し時間が必要なのやも知れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ