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第2章 束の間の休息


5年という月日の流れの中で王宮も大きく揺れ動いた。

王太子の座を巡る世継ぎ問題であった。

宰相のサイラスの提案を受け、1年後に王太子を正式発表することにしたアドリア王ベネディクトだったが、放蕩三昧の王子たちは王と宰相の当初の思惑を逸脱し、身を正すどころか擁立してくれる大貴族たちを前面に押し出し抗争にまで発展していった。

特に第一王子のロザーリオと第二王子のアルフレッドの仲は険悪そのものになり、自分を支持してくれる貴族たちを取り込む露骨な派閥合戦を繰り広げた。

王宮史にも残る醜態『一年抗争』である。


軍隊を二分するような戦闘が起こったわけではないが、貴族間の裏でうごめく陰湿な権力闘争が熾烈を極めた。

当然こんな低能な内乱が起こっていることを近隣諸国に感づかれると否応無しに国境線が騒がしくなる。

最初の内は黙って目を瞑っていたベネディクトだったが、エスカレートしていく抗争に業を煮やし断腸の思いで王子であるふたりの息子を内乱罪で投獄し追放という厳しい処分を下した。

また後ろで糸を引いていた有力貴族たちも一斉に粛清された。特に後ろ盾として動いていた王子たちの母方の貴族への処分は実に厳しかった。

妻たちの実家にあたる上級爵位の貴族たちではあったが、そこに見え隠れする権力への執着と欲望に断を下された格好となった。

これは何も王太子を決め切れなかった王が無能で招いたものでは無かった。

要は王と宰相は最初から怠惰に耽る息子たちとそれに繋がり利益を享受したいと願う貴族たちを排除したかったのだ。

腐り切った宮廷をどこかで一新しなければ現在築いた王国が意図も簡単に崩れ去るのは目に見えていた。

その上、器量も資質も無い者が国を継ぐことは、国民に対し不幸を招くことと同じ事だ。それだけは現国王の立場としては絶対に許し難きことだった。


粛清の嵐が吹き荒れる中、クローズアップされたのが第二王女のマリナであった。

第三王子は病弱で王太子の責務を担わせるには無理があったし、第四王子に至っては学者肌の為、鼻から継承には興味がなかった。

第五王子はまだ2歳という幼少であり、第六位はベネディクト王の弟であったが、彼は王側の人間として腐り切った王子たちと貴族の排除の主として動いたため、自ら継承の件は除外してくれるように兄である王に申し入れをしていた。

第七位の第一王女のイスリーナは婚姻が決まっていた為これも除外・・・そうなると必然的に第二王女のマリナへと耳目が集まる。

これは最初から王と宰相に仕組まれたものではないかと疑いも抱いてしまうが、国の行く末を考えれば至極全うな落とし所でないかと思えた。

王であるベネディクトも宰相のサイラスもそれを願っていた節が見え隠れしていたわけで・・・


俺たちがパーティーを解散してから2年後、マリナ・デルフィナーレ・アドリアは建国来初めての王太女として正式に任命された。

父であるベネディクトが王を引退すればこの国初の女王として君臨する。

マリナは父から「そなたを王太女に任命したいがどうじゃ?」と問われた時、自分にその責務が務まるのかと迷いに迷ったが、何も自分ひとりで責任を抱え背負う分けでは無い。

自分が信頼する者たちと共に知恵を絞り汗を流せば良いのだと思い直し、大任ではあるが父である王の期待に応えようと誓いを立てた。

これが先の未来で『偉大なる女王』と呼ばれる賢王誕生の瞬間であった。今は誰もそれを知るよしも術も持たないが・・・



現在ロークはそんな王太女マリナの側近として仕え、すでに5年近くが過ぎようとしていた。

冒険者時代の場と相手をわきまえない言葉遣いは流石に立場上畏れ多くてできないだろうが、それでも気心が知れているだけに信頼も厚いのであろう。

ジークランド家への養子話もフローラとの仲を気遣ってのマリナからの贈り物に思えたし、誰も居ない執務室では案外タメ口で話しているのかも知れない。

それを許すのもマリナの度量であり魅力なんだろうと思う。

さすがに俺がハイヒューマンと知ってからは、こちらに対しては敬語を使われるのだが・・・それは少し勘弁してもらいたい気分だ。


・・・・・・・・


風に吹かれた花びらが、まるで雪のように舞う美しい光景・・・

春の温かな陽射しを浴びながら、仲睦ましく手を繋ぎ合った3人はそんな光景に見惚れながら歩く。


桜並木なんてものは日本周辺でしか見れないものだと俺の思考内ではそう決めつけてきたが、この世界にも負けず劣らずの並木が存在していた。

四季もあり、何ら元の世界と違和感を感ずることがない為、何気に見落としてきたものも多いのかも知れない。

長く続く桜並木の下では家族連れや仲間たちの集まりなのか・・・席を囲むように『花見』と称する酒宴を催す者たちで溢れ返っていた。

こんな風習がこの世界にもあることが少し可笑しかったが、美しいものをでたいという気持ちはどの世界の人間でも同じなのだろう。

そんな春の風物詩のような風景に解け込む光景を目の当たりにすると・・・

やっぱり名誉館長の説ではないが、この国と日本はリンクしているのではないかと益々考えさせられるようになってしまう。


「キレイ、キレイ~~」


サーシャは握られた手を離し、舞うように落ちて来る花びらを無邪気にその小さな手のひらで受け止めた。

そしてふたりの方へ満面の笑みを浮かべた。


「よかったねぇ~~花びら掴まえたんだぁ~」


「うんうん!つかまえたぁ~~」


この年頃の子供は何にでも興味を抱く。

そのひとつひとつを学習しているんだろう。


「やっぱりお弁当作ってくればよかったかも~」


「いや、こんなに混雑しているのなら、お弁当を持って来るのはまた別の機会にしよう。今日はここを散策したら街へ戻ってゆっくり食事をすればいいさ!」


「はい!」


アニーは俺の言葉に笑みを浮かべながら素直に頷いた。


市街地から遠くないない堤防に続く桜並木はこの季節の名勝地になっているのであろう。

誰でもが気軽に訪れることができるこの場所は、日常の慌ただしい生活に疲れた心を癒すにはもってこいのスポットなのかも知れない。

元の世界と何ら変わらないそんな光景を眺めながら俺たちは街へ戻ることにした。


美しい妻と目に入れても痛くない娘とこんな風に過ごせる時間に幸せを感ぜずにはいられない。

サーシャを肩車した俺の傍らにはアニーが寄り添うように肩を預けて歩く。

以前、頭の中に描いた光景そのものだった。

言葉にするのは容易だが、実際心から幸せを感じる時間てのはこういうことを指して言うんだと改めて感じさせられた。


そんな気分にひとり浸っている時、視界の片隅にマジックメールの着信を知らせる点滅シグナルを拾った。


「アニー、ちょっと待って!マジックメールが届いている」


「誰からかしら?・・・」


「あっ、2件同時に着ているみたいだ。BOX開けるのでサーシャを頼む!」


「はい!」


肩から下ろしたサーシャをアニーは受け取るようにしっかり抱きかかえてくれた。


「何だろう?・・・」


一通目をBOXから取り出し目を通す。

マジックメールの送り主は図書館司書のメイスカヤからだった。


『休日中なのに申し訳ないです。お爺ちゃんがショーヘイさんに至急会いたいと言っています。都合がつくなら図書館へ出向いていただけませんか。勝手なお願いながら宜しくお願いします』


そのメールの内容を俺はアニーにも見せた。


「急ぎのようですね・・・」


「何だろう?・・・何かあったのかな?」


「もう一通はどちらからですか?」


「ちょっと待ってね・・・」


もう一通の送り主を確認する。

王太女マリナからであった。


「マリナさまからだわぁ~うはぁ~~」


「2通同時って何があったのでしょうね?・・・」


「マリナさまのメールを開けてみるね!」


『憩いの最中に不躾ぶしつけなメール許してたもれ。実は重要な物の存在が蔵書庫から明らかになった。これはショーヘイ殿とアニー殿にも関係することであろうと思われる。近々王太女府へ登庁願いたく存ずる。内容は先にクロフォード・リンデンバーグ名誉館長より詳しく聞いて貰いたい』


「・・・何が見つかったんだ?」


2通同時に届いたこともあったが、どちらも『至急』の面会を所望しているという旨が記してあることに変な胸騒ぎを覚えた。

どんな存在がメールの送り主たちを慌てさせているのか・・・余程の事なんだろか?

俺は意味不明な内容に疑問と不安を抱きつつも、取り敢えず図書館へ出向くことにした。


「俺とアニーにも関連していることかも知れない・・・一緒に今から図書館へ行ってみようか?」


「そうですねぇ~」


「アニー・・・すまない。ゆっくりできなくて・・・」


「何を言ってるんですかぁ~そんな気遣いは無用ですよ~」


アニーは申し訳なく思う俺へと明るい笑顔を返してくれた。

サーシャを任せっ切りにしていることに後ろめたさを感じている俺としては、せめて休日ぐらいはアニーの気分転換をと考えていたのだが、今日はそれも許されそうになかった。

そんな俺にアニーは笑顔でいつも背中を押してくれる。『内助の功』ではないが、本当に夫を立ててくれるできた妻だと思う。

ハイヒューマンとハイエルフの『つがい』の二人ではなく、そこにはどこにでもいるありきたりの普通の夫婦のふたりがいた。



「図書館からの帰りにゆっくり食事しよう。それでいいかな?」


「はい、はい~~わかりました!あはっ」


「わぁったぁ、わぁったぁ~~イヒッ」


無邪気に笑うサーシャを俺はアニーから再び預かり、しっかりと抱きかかえたまま図書館を目指した。



名誉館長からどんな言葉が発せられるのかは予想もつかない。

けど、俺の既成概念も固定観念も通用しないこの世界の出来事にもう驚かない。

この世界に転移して来て5年も経過するが、いまだ以って全てが驚きの連続なのだから・・・


この世界には不思議な『コトワリ』があり、それに翻弄され続けてきた。

悠久の時を刻んでいく中で、それを度外視することはできない。だから難しく考えるのではなく素直に受け止め、サーシャを授かったように『神の意志』が何なのか追い求め続けなければならい。

そして・・・

コトワリ』を越えた今のふたりなら、それが何であっても受け入れることができる。



俺たちは図書館の大きな扉を押し開けた。


世継問題に関しては『外伝3話』で触れています。

そちらを参照していただければ内容が繋がると思います。


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