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第66章 神の領域


「良く期待に応えてくれた!見事じゃ~ワシの積年の想いもこれで果たせたわぁ~・・・流石じゃわい!!」


名誉館長は破顔一笑の面持ちで俺を迎えてくれた。

そして応接セットへと手招きし座らせた。

ビフレスト山脈から戻った翌々日、俺は今回の報告も兼ね図書館を訪ねた。


「いえ、何もわたし一人の力ではありませんので・・・」


「うむ、それも良ぉ~~く分かっとるわぁ~!ほほっほ」


「はい。でも『黄金のマンドラゴラ』を『霜の巨人』から授けられて良かったです!」


「うむうむ・・・それも3本も!!よほど君もハイエルフ殿も彼に気に入られたようじゃなあ~」


『黄金のマンドラゴラ』を3本授かったのが多いのか少ないのかは判らないが、特別希少種である事と好々爺の喜びから察すれば規格外の取得本数だったのだろう。

しかし俺にとっては、そんなマンドラゴラよりヨトゥンと出会え会話できたことの方が遥かに貴重で有意義なものだった。


「ヨトゥンさまにはいろいろお話を聞かせて戴きました。出会えて本当にふたりの為には良かったと思います」


「そうかぁ~『霜の巨人』はやはり温厚な精霊であったか・・・」


「はい。とても穏やかで好感の持てるご尽でした。50年後に再会しようとまで言ってもらいましたぁ~ははっ」


短命種にとっては一生に一回の出来事であり、長命種でない限り50年後なんてまず有りえない。

悠久の時を刻める俺だから気安く言葉にできる年月だったのかも知れない。


「先の長い話じゃなぁ~ほほっ」


「かも知れませんね・・・」


「じゃの~・・・それより今度は是非ハイエルフ殿と一緒に訊ねてくれたまえ~お出会いしたいものじゃ~!」


好々爺はそう言葉にすると願望を込めた煌めく瞳で俺に微笑んだ。

自分としてもアニーを知ってもらうことに異存はない。寧ろ、今後の事を考えれば是非実現しておきたいことだ。


「そうですね~今日はシフォーヌさまのお屋敷に今回の件の報告に行っていますが、機会があれば同伴させていただきます!ははっ」


「うむ、その日を楽しみに待ってるわい!」


「実は・・・今日は館長のご意見を訊きたくて報告を兼ねお伺いしました!」


俺は少し姿勢を正し、好々爺に真剣な眼差しを向けた。


「何をじゃ?ワシで判ることなら良いがのぉ~~!ほほっ」


「館長はご存知かと思いますが、ヨトゥンさまとの会話で新たに教えられたことがあります」


「ふむ・・・」


「『ハイヒューマンとハイエルフは一代限り、血脈は残せぬ』と云われたのですが、これは何故なのでしょう?常人でないのは判っていますが・・・」


この言葉の裏側にある謎がどうしても消化できない。

ヨトゥンは『コトワリ』を越えろと言う。それがふたりの『運命』だとも・・・でも何故血の伝達ができないようになっているのか知りたいと思った。


「うむ・・・これは研究できぬ事柄じゃ~~所謂『神の領域』にワシらなんぞが踏み込めぬわぁ~~」


「はい・・・」


「しかし、この世界のコトワリを研究し続けて来た者としての見解は語れる」


「館長の見解で結構なので、お聞かせ願えませんでしょうか?・・・」


「それはのぉ・・・」



・・・・・・・・



バサラッド東部の屋敷街の一画に建つヒュウガ邸では、アニーとシフォーヌが午後のひと時をティーカップ片手に優雅に流していた。


「あらまぁ~ヨトゥンと出会えたのね?ふふっ」


「はい!いろいろお話をお聞かせ下さいましたぁ~あはっ」


「それは良かったわねぇ~・・・」


シフォーヌは嬉しそうに笑うアニーに静かに微笑んだ。

そんな優しい笑みを浮かべる彼女に、アニーは今日訪ねて来た本当の理由である質問をしようと意を決した。


「シフォーヌさま、今日はシフォーヌさまにどうしても訊いてみたいことがあるのです!」


「何かしら~アニーが真剣な顔するって怖いわぁ~ふふっふ」


「わたしは、ハイエルフのわたしは子供を授からないのですか?」


アニーは言葉をオブラートに包むでも無く、何ひとつ含みも持たせずストレートに気持ちのままをぶつけた。

シフォーヌはその予期せぬ問いに沈黙した。


「・・・・」


「ヨトゥンさまとのお話の中でその事を聞き知りました・・・」


「そう・・・」


「ふたりは一代限り、血の継承はできないようなことを云われました・・・」


「そうねぇ~~確かにその通りよ!」


「その事を思うと何か刹那せつなくて・・・」


「この世界では『鳶が鷹を生む』ということは遭っても『鷹が鳶を生む』ことは無いわ~鷹は必ず鷹を生みます。この例え解りますか?」


「はい・・・エルフがハイエルフを生んでもハイエルフがエルフを生むことは無い。ハイエルフはハイエルフを生むって例えでしょうか?」


優性遺伝はあっても劣勢遺伝はしないというこの世界の理を比喩した例えなんだろうと思えたが、それも極々稀な一例であって、一般的に通用するかどうかは定かではない。


「そうです・・・アニーも良く判っているように、ハイヒューマンとハイエルフは人知外の存在です」


「はい・・・」


「そんな人知外の存在である者がゴロゴロ生まれてしまうと利用される者や国を亡ぼすような愚か者が出てくるかも知れません。どうですか?」


「はい・・・」


「私はね・・・これはこの世界を上手く導く為の『神の抑止力』だと思っています。だからハイエルフが生まれることも希少なわけです!」


シフォーヌであっても神の真意は判らない。けど彼女は彼女なりに積み重ねた年月から答えを導き出したのであろう。

その言葉にアニーは何も返せず、ただ頷くことしか出来なかった。


「・・・・」


「例えばね・・・アニーがハイエルフの娘を生んだとします。彼女が成人に達した頃にはハイヒューマンが現れる。そして『つがい』になった二人がまた子供産んでゆく・・・そうすれば無限に人知外の能力を持った者が増え続けると言うことです」


「だから血脈を繋ぐことができないと言うことですか・・・」


「私はね・・・そう理解しています。私もジロータの子供が本当に欲しかったわぁ~~でも授かることはままならなかったの・・・」


アニーの心は揺れた。

わたしが想い描くことを、若かりし頃のシフォーヌが同じように抱いていても不思議な事でも何でもない。ひとりの女として伴侶として当然の事だと思えた。

なのにわたしは・・・目の前の自分の願望だけに囚われていて周りが見えていなかった。彼女のその言葉が理解できてしまう。


でもわたしは『家族』を作りたい・・・ヨトゥンに云われたように『コトワリ』を越えることが出来るならば越えてみたい。

それはわたしの独りよがりな我儘なんだろうか・・・何が正解で何が不正解なのか判らなくなってしまった。



・・・・・・・・



「なるほど『神の抑止力』なのですか・・・」


「これはただ単なる老研究者の推測でしかありえんがのぉ~ほほっ」


「あながち推測ではなく、意外と神の真意に近いものかも知れませんね・・・」


俺には好々爺のその考え方が真実に近いのではないかと思えた。

それ以外に血脈を繋ぐ事を妨げる理由が探せなかった。


「そうかのぉ~~・・・ほほっほ」


「実はヨトゥンさまから自分たちの為に使えと『黄金のマンドラゴラ』を1本戴きました」


「何と!」


「ここで、この時期に出会ったのは『運命』だとも云われました。そしてこれは神の意志に違いない・・・だから『コトワリ』を越えてみせろとも・・・」


「ふむふむ・・・それで『受胎効果』のある『金の実』を特別に貰ったってことだな?」


そう言葉にした後、好々爺はすべてを悟ったかのように頷いた。

それが何を意味することなのか解ったのだろう。


「そうです・・・」


「『霜の巨人』も君たちも我々一般人から比べると『神の領域』に近い存在だ。ワシが言葉を挿むことさえ烏滸おこがましいが、過って誰も『理』は受け入れても変えようとする者はいなかった!」


「はい・・・」








『君たちがその使命を与えられているのかも知れない!』

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