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第62章 ビフレスト山脈へ


ビフレスト山脈は隣国パンティオン皇国との境界に接するバサラッド北西300キルカ先にある。

大学の支援もあり、今回の『黄金のマンドラゴラ』クエストの請負冒険者は軍施設から山脈の麓の街ナゼルまでは瞬間移動させて貰えることになった。

しかし・・・そこからビフレスト山脈の目的地までは試練の雪中行軍となる。

防寒コートの下は重ね着をし寒さ対策も万全でないと体温が低下し危険が迫る。

戦闘は無くても命がけとなる行軍を長時間()いられることになる。


魔脈の上なら温熱魔法で長時間耐えられることも山脈ではそれが出来ない。

そんな危険極まりないクエストであるにも係わらず、報酬に釣られたのかクラスに関係なく参加者は意外と多かった。

しかもシェルパーがいるでもなく、自分たちの勘とMAPを頼りにそれぞれのパーティーは目的地を目指して吹雪の中行軍を続けることになる。

『黄金のマンドラゴラ』よりもこの厳しい自然環境の中・・・問題はたどり着けるか、遭難したりしないか、そちらの方が重要に思えた。



「よぉ~し、山小屋が見えたぞぉ~~あそこで一旦休憩。暖をとろう~!」



・・・・・・・・



名誉館長は話にひと呼吸置くかのように、テーブルからティーカップを持ち上げ口元へと運んだ。

俺も同じようにティーカップを手に取った。


「前回はのぉ~~採集に失敗したんじゃ!」


「えっ?!何かトラブルでもあったのですか?・・・」


「この話を耳にしたパンティオン皇国の密猟者たちが越境してきてなぁ~~情報の無い馬鹿共が『霜の巨人』を刺激してしまってのぉ~~一面火の海にしてしまって・・・『黄金のマンドラゴラ』どころの話じゃなくなったんじゃ~」


自身もまだ若かりし頃の苦い経験談なのだろう・・・言葉にしながらも顔はどこか苦々しげだった。

まぁ~人間であれば誰しもが欲に駆られることもあるが、そういう輩の為に貴重な物が失われてしまうのはやっぱり遣る瀬無さと共に許し難き思いがあるんだろう。


「うぅ・・・」


「どうも『霜の巨人』を倒すことで得られると勘違いしたのじゃろうなぁ~油を巻いた上に火炎魔法を掛けた・・・怒り狂う巨人が暴れたらどうなるか火を見るより明らかじゃわい!」


「・・・・」


「誰一人生還者はいなかったわぁ~懐かしくも悔しい思い出じゃな~」


「なるほど・・・」


「だから今回はどうしても手に入れたいとの願望が強くてのぉ~~それならと冒険者ギルドへ依頼することをワシが薦めたんじゃ~ほほっ」


大学が表向きだが実情は図書館側が裏で糸を引いているのか・・・

それでメイスカヤさんがギルドに出入りしてたのかが何となく理解ができた。


「それが『臨時クエスト』なんですね~」


「その通り!」


「ハイヒューマンである君には伝えておこうかのぉ~」


「はい?・・・」


「ビフレスト山脈にこの時期に生えるマンドラゴラの実はオレンジなんじゃ!『黄金のマンドラゴラ』は『霜の巨人』と会話したものしか与えられぬ!」


「えっ?!」


好々爺は真剣な眼差しで俺を見つめた。今回のクエストのここが最重要ポイントなんだと教えるように言葉にした。

この『霜の巨人』と会話できないことには取得できないのか・・・これって可能なんだろうか。


「オレンジも通常より効能はあるが・・・欲しいのは『黄金のマンドラゴラ』なんじゃ!君なら『霜の巨人』も心許してくれるかも知れん。だから爺さんの我儘だと思って行ってくれんかのぉ~ほほっほ」


「今確約はできませんが・・・みんなと相談して善処してみます」


「実を言うとなぁ~『精霊』同士でハイエルフが一番みたいなんじゃ!過去1~2回はシフォーヌ様にご無理申し上げたらしい・・・ワシも伝聞でしか知らぬが」


「うぅ・・・」


「ほほっ~これは何分内密にのぉ~」



ここまで種明かしをするには・・・好々爺は俺にどうしても大きな課題を背負わせたいらしい。

みんながどう反応するかは判らないが、俺とアニーは行かないといけないような気にさせられる。

何にせよ100年分の重荷が肩にどっと圧し掛かってきた気分だ。



・・・・・・・・



今日も今日とて『かれん亭』に席を囲む仲間たち。

『臨時クエスト』を請けるか請けまいかとみんなで思案中だった。

俺は聞き知り得た事の触りだけをみんなに伝えた。



「そういう話か・・・それも面白そうだなぁ~!」


「『霜の巨人』って50年に1回しか会えないわけなり?」


「どうもそうらしい・・・」


「このチャンス逃したら、クロエはもう婆さんだわぁ~~がははっ」


「あんただってハゲたジジィーなりよ!ふん!!」


「あぅ・・・」


「名誉館長に聞いたには、『霜の巨人』は大自然界の精霊集団の一人らしく・・・会話できたら自然界の加護があるかも知れないってさ!」


その加護が『黄金のマンドラゴラ』ってことは今は内緒にしておく方が良いだろう。

それにはアニーに頑張って貰うことになるのだが・・・ハイエルフってバレないだけの工夫も必要かも知れない。


「会話するも何も出会わないとダメってことよねぇ~あんな広い場所で絞れるの?」


フローラの質問は最もだ。漠然と歩き回るほど非効率的なことはない。


「過去の例もあるし・・・ある程度は絞れるみたいだ!」


「加護もいいけど・・・雪中行軍がキツイだろうから相当な準備がいるなぁ~」


「そうだなぁ~・・・行くとなると荷物は俺の『無限バッグ』に預かるから、個々には防寒着の準備をしっかり整えてもらうことになる!」


雪中行軍の生命線は体温を逃がさないこと。防寒着は最重要だ。


「あぁーーー!うちの店にさ、白ウサギの皮を重ねたウサミミの可愛い防寒フードがあったの思い出したぁ~~女性分はわたしが用意するなり~♪うひひ」


クロエは手のひらを拳でポンと叩きながら女性たちの顔を見回し笑った。

俺は実用性があるのかどうか疑問に思ったが・・・重ね着が大切なのでインナーがしっかりしていたら問題ないかと思い直した。


「そんなのイイのですかぁ~?」


「楽しみなのです~♪」


「任せるなり~♪」


「何かお前らがウサミミフード被ってるの想像できたわぁ~~狩ったろかぁーーー!うぅ」


「可愛いし、みんな似合うと思うわ~~ロークはこの間のミノタウロスでも被ってきなさいよ~きゃはは」


「持ってねぇーーーわ!」


「あぅ・・・」


俺はアニーがウサミミフードを被った姿を妄想してしまった。

愛くるしいほど可愛いだろうなと思う・・・何か俺も楽しみになってきた。


「まぁさ~これも俺やクロエやパウラには一生に一回のチャンスだろうから~~行ってみるか?」


「『黄金のマンドラゴラ』の効能で延命できるなら5回ほど行けるわよぉ~~きっと!きゃは」


「ヨボヨボになって行けるかぁーー!うぅ・・・」


「ははっ、この『臨時クエスト』さ、一応請けるってことでいいかな?」


「賛成!!!」


「よっしゃーー!他のパーティーも準備しているだろうし、うちは3日後に出発するぞぉーー!」



冗談ぽく言っているが、フローラとロークでは寿命が違う。そんなことも彼女の頭の片隅にはあるんだろう。

永遠に流し続けることのできる時間は不老不死でない限り有りえない。

しかし、そんなものは生物としてこの世に生まれた限りは自然の摂理に反することだ。

けど、少しでも永く一緒に流したい時間はある。

そんな時間をゆっくりと共に刻んで行ければいいなと思う。



・・・・・・・・



山小屋に雪崩れ込むように駆け込む。

中はすでに何組かの冒険者パーティーが暖を取っていた。


「おぉー!フレッドさんじゃないかぁ~~!」


「おっ!ローク隊ご一行も参加したんだなぁ~」


「おうよぉ~~50年に1回のチャンスだしなぁ~これ逃すと次はなぁ~~がははっ」


「確かになぁ~~俺もそんな口だわ!ぶはっは」


そんな事を言って笑い合っていた時、近くで暖をとっていた他のパーティーのリーダーが口を開いた。







「此処へ来る途中、『霜の巨人』じゃなくジャックフロストらしきものが徘徊してたぞ!」


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