第61章 黄金のマンドラゴラ
『黄金のマンドラゴラ』(臨時クエスト)
依頼主:バサラッド王立大学
内 容:特上希少種のマンドラゴラの採集
場 所:ビフレスト山脈
対象クラス:指定ナシ
達成金:100金 採集数により追加報酬有り
期 限:本日より春一番が吹くまでの期間
冒険者ギルド掲示板の前には人が群がっていた。
ロークと俺はその群れる人並みのスキ間から掲示板を覗き見した。
「大学からの臨時クエストかぁ~~これって採集系なんか?」
「この冬にマンドラゴラ採集して来いって無理あるんじゃないの?」
「あれって春先と秋先だっけ?」
「たぶん・・・」
「今も春先と言えば春先だけど・・・まだ地面の中で冬眠中じゃねぇ~?がはは」
「達成金は魅力だけど・・・これ請ける冒険者いるのかな?ははっ」
「ショーヘイ、お前さぁ~採集得意なんだから請けてみれば?」
「ロークお前こそ、部屋借りて貯金0なんだから請ければいいんじゃない?」
「うぅ・・・」
この時はこんな雑談で笑っていたが・・・
よもやこの『臨時クエスト』を請けるハメになるとは露ほども思わなかった。
・・・・・・・・
そんなクエストが掲示板に貼り出された翌日・・・
俺たち仲間は次のクエストの相談も兼ねて冒険者ギルドの軽食堂に席を囲んでいた。
楽チンなのがいいだとか、ささっと済む高達成金クエがいいだとか・・・女性陣は無敵の我儘を口にして憚らない。
そんな彼女たちに憤るローク、そして苦笑いしか浮かべられない俺がいた。
「あら~~ショーヘイ君!」
声のする方へ振り返る。そこにはこの場に似つかわしくないタイトな黒い制服姿のメイスカヤが微笑んでいた。
「へっ?・・・あっ、メイスカヤさんじゃないですかー!」
「こんにちはぁ~!」
「あ、はい。こんにちは~・・・って、こんな所に何の用事ですか?」
「あぁ~~『臨時クエスト』出てるでしょう?あれって、うちも絡んでいるの!ふふっ」
「そうなんですか?」
「おいおい、ショーヘイ!この美人のお姉さんは誰なんだ?」
俺が馴れなれしく会話するのが気になったのかロークは突然口を挿んできた。
フローラはそんな俺を小賢しく揶揄う。
「ショーヘイって隅に置けないわねぇ~アニーがいるのにこんな美人の女性と懇意だなんてぇ~きゃは」
「違うって!この方は王立図書館の司書さんなんだよぉー!!うぅ・・・」
誰に弁解しているんだと自分で思ってしまったが、膨れっ面になるアニーと目が合った瞬間にプイッと横を向かれてしまった。
ご機嫌斜めなようだ・・・俺はポリポリと頭を掻いて苦笑した。
「はじめまして皆さん~司書のメイスカヤ・リンデンバーグです。よろしくねぇ~ふふっ」
メイスカヤは大人の女性らしく、みんなの顔を見回しながらにこやかに挨拶をし軽く会釈をした。
「司書のメイスカヤさんが何で『臨時クエスト』に関係あるなりかぁ~?」
「それはねぇ~・・・まだ今は答えられないの!でもね、請けてくれたら解ると思います。何で今マンドラゴラなのか・・・ふふっ」
クロエの問いに謎めいた言葉を返し彼女は笑った。
彼女とクエも、時季外れのマンドラゴラもアンマッチな組み合わせに不思議さと不明瞭さを感じてしまう。
「何だろう?・・・」
「それに、後1~2ヶ月もすれば全国的にも採集できるはずじゃない?まぁ~希少なんだろうけど・・・」
「そうだよなぁ~・・・それに場所が『ビフレスト山脈』限定なのも気になるのぉ~」
「そうねぇ~~そんな気になる高額なクエストを請けてみない?ふふっ」
「裏が無ければ考えてみますよ。ははっ」
「うん。少し期待してますね~~!それと・・・」
メイスカヤはみんなにクエストを薦めたあと・・・俺の耳元に顔を近づけて囁いた。
「お爺ちゃんが会いたがってるよぉ~~一度立ち寄ってみて!ふふっ」
「はい・・・」
「何だ?デートの約束か?・・・がははっ」
アニーのほっぺがまた膨れた。
そんなヤキモチを妬いてくれる彼女の仕草がたまらなく可愛く思える。
・・・・・・・・
図書館の名誉館長室の応接セットに向かい合わせに腰かける。
俺の顔を見るなり満面の笑みを浮かべる好々爺。
孫が訪ねて来たような感覚なのかも知れないと思うと自然に笑みがこぼれてしまう。
「よく来てくれたなぁ~ほほっ」
「メイスカヤさんに館長が顔出せって・・・ははっ」
俺は嬉しそうな顔をしてくれる好々爺に笑顔で答えた。
「うむ・・・あやつは良く働くのぉ~~!」
「それで、今回の要件はやっぱり『臨時クエスト』でしょうか?」
「まぁ~そう急くな!君は『マンドラゴラ』を知っておるか?」
「確か希少な人面草ですよね?・・・」
「あれはのぉ~大昔から薬草として鎮痛薬や鎮静剤、瀉下薬などとして用いられてきたが、何せ毒性が強いので昨今では用途が変わりつつある。まぁ~精力剤や媚薬としては重宝されておるがのぉ~~・・・最近ではもっぱら魔術や錬金術の研究に使われておるわぁ~」
「でも季節がくれば自然に採集も可能になるんじゃないのですか?・・・まぁ~どこにでも生えてる物じゃないですけど!」
「ところがのぉ~・・・50年に一度だけ『金の実』をつけるマンドラゴラが出現するのじゃ~それもビフレスト山脈のある場所だけにな!」
館長はテーブルに身を乗り出すように力強く言葉にした。
大学だけでなく、今回の情報提供の大元がこの図書館なんだろう。
「『金の実』ですか?」
「『金の実』は普通の実とは違ってのぉ~不思議な事に毒性が全くない。医術的には麻酔薬として安全に使用できるし、受胎効果が望めるので不妊治療にも使える。その上、不老不死の薬の原料となる希少種なので喉から手が出るほど研究者は欲しいわけじゃ。まぁ~実際に不老不死になるわけではない、人間はこの世に生まれたら死ぬもんじゃ~ただ延命効果は確実にあるし、若返りも研究中だ。その上10年は精力も衰えぬわぁ~ほほっほ」
「なるほど、普通種とは異なるってことですか・・・」
「うむ、そうじゃ~それが採集できるのが今年なんじゃよ!」
「50年サイクルに狂いは無いのでしょうか?」
「ちゃんと前兆はあるんじゃ!ヨトゥンと呼ばれる『霜の巨人』が姿を現すとそこに『金の実』をつけるマンドラゴラが出現するんじゃよ~しかも春を告げる前の今の時期だけにな!ほほっ」
「だから、それが今で・・・生息場所がビフレスト山脈なのですね~」
「うむ、猛吹雪の中に姿を現したのが先週確認されておる!」
「なるほど・・・」
50年に一度だけ希少なマンドラゴラの中でも特別種がこの時期だけに出現する。
好々爺の話では、ビフレスト山脈と『霜の巨人』、それに『金の実』がどう関係しているのかは判らないが、それは狂いなく確実に存在する代物のようだ。
場所が場所なだけに、それに冬の山脈・・・誰が好き好んで出掛けるものか。
だから高額報奨で冒険者ギルドへ回ってきた依頼なんだと思えた。
「ビフレスト山脈の意味知っておるか?・・・ん?」
「知らないです・・・」
「意味はのぉ~天界と人界を結ぶ懸け橋という意味じゃ!あそこは不思議な現象が頻繁に起こる・・・まぁ~その分野の学者も終生のテーマにしとるぐらいじゃがなぁ~ほほっ」
「・・・・」
「君たち行ってみないか?『霜の巨人』は大自然の精霊集団の一人とも言われておってなぁ~~超人的な強さを持っておるらしい!」
「えっ!その巨人を倒さないと『金の実』は手に入らないのですか?」
「いや、そんな怪物は倒せぬ!・・・だが巨人は人語がわかるので出会ったらココへ立ち入った理由を説明するのじゃ!!」
「話が解る相手なんですか?」
「大自然に危害を加えることが無ければ、元々温厚な性格らしいから怒り狂うこともない。どうだ?・・・そんな奇特な怪物に会ってみたいと思わんか?ほほっ」
興味は湧くが、いざ行ってみないかと言われたら躊躇いもある・・・
この好々爺の笑顔を見ると行くべきなのかと、さらに悩んでしまう。




