第58章 牛頭人身の怪物
2匹のケルベロスはパウラと俺にターゲットを向け動き始めた。
デュロイ隊とフレッド隊の負傷者は後方へ下がっていく。
「パウラ~!向こうはかなり削れている~遠慮なく最初から叩き込もう!!」
「了解なのです~!」
俊敏なパウラは先に渾身のテレポートストライクを叩き込む。2本同時に首が刎ね飛んだ。
後ろに控えていたダリオがフローズン系魔法を撃つ。
瞬間に氷漬けにされたケルベロスはその場に釘付けになったように立ち止まった。
そこをフレッド隊の女性剣士マリベルが斜めから斬り下ろした。
ケルベロスはその場で倒れ、そして肉片を飛び散らせながら消滅した。
俺は残り1匹のケルベロスにスラッシュを浴びせ、少し怯んだところを足元へと斬り抜けた。
前足を飛ばされたケルベロスは前屈みに崩れていく。
すぐさま折り返し3本の首元へともうひとつの上位スキル『デスストローク』を満身の力で叩き込んだ。
元々削れていたHPだ・・・この一太刀に耐え切れずはずもなく、呆気なく爆発し消滅していった。
ズゴォーー ボンッ ボ~~ン
「よし!ケルベロスは片付いたぁ~~!!」
「よっしゃーー!後はボスだけだぁーーー!!」」
俺の言葉にロークはミノタウロスの攻撃を盾で凌ぎながら大きく気勢を上げた。
ミノタウロスにはローク、フレッド、ヴァイツの3人が正面から取り付き攻撃を盾で防ぎながら押し返す。
俺とパウラ、それにデュロイとマリベルは側方と後ろ側に回るように移動した。
そして全体の状況を把握しながらアニーとフローラに指示を流した。
「アニー、フローラ、距離保ちながら攻撃準備を頼む~!」
「エミリアさん、こっちも攻撃準備を!みんなで踏ん張りましょう~~!!」
ダリオはこの事態を招き茫然としていたエミリアの横へ駆け寄り、肩を軽く叩きながら声を掛けた。
エミリアはその言葉に我に返るかのように大きく頷いた。
前衛3人がミノタウロスを押し返し一度補給に後ろへと下がる。前衛組とスイッチした俺たち近接系4人が一気に攻撃を仕掛けた。
振り回す腕が掠めるだけでも吹き飛ばされそうになる。まともに貰うとそうとうなダメージを被るだろう。
その怪腕を回避しながらスラッシュを連続で叩き込む。
斬っても斬っても、削っても削っても削り切れない。さすがにレイドボスのミノタウロスのHPは半端ない。
「下がるので魔法攻撃よろしく~~!」
俺たち4人は顔を見合わせ頷き合い、後方の遠距離組とスイッチする為に一旦下がった。
その瞬間、アニーのマグナムショット、フローラのバーニングバレット、ダリオやエミリアの魔法攻撃がミノタウロスを一斉に襲う。
一気に撃ちこまれた魔法攻撃にミノタウロスは後ずさりをした。
今度はそこへ前衛が復帰した者を含め6人で取り付いた。
「これは時間掛かるなぁ~~~どっちが先に音を上げるか・・・」
「ショーヘイさん、思うのですが・・・胴体に斬りつけても効果薄いなら、まずはあの邪魔な腕を斬り落とすのはどうですか?」
パウラは苦笑いを浮かべる俺の傍らでポーション補給しながら提案した。
何で気付かなかったなんだろう・・・ネックになっている物から取り除くのがセオリーじゃないか・・・俺はパウラの意見に頷いた。
パウラは『ヒュドラ』討伐でようやくC級にクラスアップしたところだが・・・秘めたる戦闘力と状況判断はクラス以上のものを感じさせる。
「腕だぁ~~腕を狙おうーー!」
俺はロークたち前衛に聞こえるように声を張り上げた。
「わかった!!」
前衛はガードしながら胴への斬りつけから腕狙いに的を絞り攻撃を切り替えた。
その時、ミノタウロスは体を反らし勢いを付けるかのように両腕を広げ、前衛6人を抱きかかえるように掴まえ、そしてそのまま後方へと放り投げた。
「あぁ~~~~」
取り付いていた全員が空中に舞い、そのままミノタウロスの後側の床へと投げ捨てられた。
ズタンッ バタン バタン
背中から叩きつけられた彼らは立ち上がれない。
それを目の当たりにしたフローラが叫んだ。
「ロ~~~ク!」
落ち方が落ち方だけに心配になったのだろう・・・フローラ、クロエそれに治癒系ヒーラーが倒れた彼らの方へ駆け寄る。
俺たち近接系4人は、すぐさまミノタウロスの正面へと攻撃を仕掛けた。
「パウラ、俺たちは右腕を!デュロイさんとマリベルさんは左腕を~~!!」
「了解!!!」
俊敏なパウラは先頭に立ち斬りかかった。
彼女を振り払おうとミノタウロスは右腕を振り下ろしたが、素早いパウラはそれを回避しながら斬り刻みローリングして前方へ抜けた。
同時に左腕へデュロイとマリベルが斬り掛かかる。
それを見ながら俺は『バーサーカーストライク』を右腕に飛び掛かかるように斬り下ろした。
ズガッ、ズガ~~~ン
手応えはあった。
ものの見事に右腕は落ちた。
ウォォォーーーー!
ミノタウロスは絶叫するかのように悲鳴を上げる。
そして左腕を左右に力強く振り抜いた。
デュロイとマリベルはそのスイングした左腕に薙ぎ倒され、壁際まで吹き飛ばされた。
「アニー~~!そこから左腕狙えるかぁーー!」
「了解しました。狙います!」
ポーション補給の済んだアニーは即座に弓を引き絞り麻痺系魔法を付与したマグナムショットを放った。
見事に狙い通り肩の付け根へと命中した。
回復した面々が片腕を失くしたミノタウロスに走り寄り攻撃を仕掛けだした。
矢を抜くこともできない牛頭人身の怪物は麻痺系の毒に侵され始め左腕の動きも少しずつ鈍ってきた。
フレッド隊とデュロイ隊を中心とした攻撃陣が鈍る左腕を斬り落とした。
両腕を失くしたミノタウロスは足で取り付いた者たちを蹴散らす。蹴られた者たちは扉入り口近くまで飛ばされた。
足の動きを止めたいが、ロークたち前衛は倒れ込んだままだ。
「パウラ~~~後ろから片膝でイイから斬ってもらえるかぁー!」
「了解なのです!」
パウラは即反応して後ろからミノタウロスの膝の関節を深く突き刺し、そのまま後方へと離れた。
筋を斬られたのか・・・その場に片膝を付いて動きを止めた。
もう残存戦力を考えてもココしかチャンスは無い!
俺はそう思い、後方に控えるダリオとエミリアに視線を送った。
「今からラストアタックを掛ける。俺が斬り抜いたらすかさず魔法攻撃を掛けて欲しい!」
「わかった!今から詠唱を唱える!!」
二人は頷き、すぐざま詠唱を唱え始めた。
そしてアニーへと振り向いた。
「アニー~~連続で悪いが、眉間狙いでもうひとつマグナムショットを頼む!」
「アニー了解です。ご主人さま気を付けてね!」
「ははっ、了解!!」
こんな時でもそんな些細な心遣いが嬉しい。
俺は笑顔を返しながらも、再度『バーサーカーストライク』を発動する為精神を集中した。
そして両手剣に攻撃力増加呪文を付与した。
「みんな行くぞぉ~~!」
「了解!!!」
俺は片膝をつき立ち上がれない『牛頭人身の怪物』向け駆け出した。
アニーはそれを見ながら弓を引き絞り狙いを定める。
ピュシューーー
矢は俺の飛び掛かりよりも早くミノタウロスの眉間に突き刺さった。
その攻撃の反動で頭を後ろに仰け反らす。
仰け反った頭から俺は『バーサーカーストライク』を斬り下ろした。
うりゃーーーー!
ズゴッ ズゴォーン
斬り下ろした後即座にローリングしながらその場を離れる。
流れを見て取ったダリオとエミリオは、ほぼ同時に氷系と雷系の魔法を落とした。
ドゴォーーーン バゴォーーン
誰もがその光景を見つめ息を呑んだ。
沈黙が漂う中・・・『牛頭人身の怪物』は連続攻撃に耐え切れず、その体を赤く変色させながら爆発と共に跡形も無く消えた。
「おぉーーーーーー!」
「やったぁーーー!」
「おっしゃ~~~!」
みんなの歓喜が広間に響き渡る。
アニーが飛び跳ねるように笑顔満面で駆け寄り抱きついてきた。
そんな彼女を胸に受け止め、そして背に手を回しぎゅっと抱きしめた。
『ロークはフローラの膝枕に嬉し涙を流していた』




