第53章 神に選ばれし者たち
少しずつ少しずつ『この世界の理』の謎が紐解けてきた気がする。
それでも理解し難い謎は無数にあるのだが。
きっとこれは・・・俺が悠久の時を流し続けても解けそうな気がしない。
「君は『番』にも不思議さを感じていたんだったよね?」
「はい・・・」
「『番』って言葉の意味はわかっているかな?・・・ん?」
「二つのものが組み合わさって一組みになるというこでしょうか・・・例えば、夫婦とかですよね?」
「そうだなぁ~~・・・先程も言ったように男と女は愛し合い結婚し、夫婦と呼ばれるようになる」
「はい・・・」
「我々も、基本はそれと同じだが、君にわかりやすく砕いて説明すと・・・ハイヒューマンとハイエルフが別々の伴侶と暮らしていると仮定してごらん。
そうなると二人の認識や感覚にズレが起こってくる。当然のことなのだが、お互いがお互いを知り得る時間がないからなぁ~」
「そうですね・・・」
「そうなると、何か事が起こった時に『方向性』を合わせられなくなる・・・」
「理解できます」
「だから、簡単に言うと・・・『番』になる意味は、お互いがお互いを知り、そして二人の『方向性』を常に合わせるということなんだよ!」
「なるほど・・・」
これは何もハイヒューマンとハイエルフだからって事じゃない。。
極普通の人たちの夫婦間でも同じ事が言えるのではないだろうか。
「何故『方向性』を合わせておかなければならぬか・・・一般の者たちと我々ではこの世界における『役割』が違うんだよ!」
「あっ!それはシフォーヌさまも『役割』が違うと言われてました。それは何なんでしょう?」
「君は自身がハイヒューマンであることを公表しているかい?」
「いえ、今は隠しています・・・」
「何故隠すのか・・・そこに意味はあるのかな?」
「はい。人並み外れた能力を誰かに利用される恐れがあるし、今の生活が守れなくなる可能性があると思えたからです」
「そうだなぁ~・・・ハイヒューマンとハイエルフは人並み外れた能力保持者だ!」
「はい・・・」
「鳥は両翼があってこそ空を羽ばたくことができるが・・・片翼では飛べない!」
「はい・・・」
「ハイヒューマンは片側の翼、そしてハイエルフも片側の翼・・・その二つの翼が組み合わさって初めて大空を羽ばたける鳥となる」
「・・・・」
「何を意味してるか解り難いかな?ははっ」
ジロータは少し首を傾げ、俺の顔を笑顔で覗った。
「それは・・・ふたり揃わないと真の能力が発揮できないということでしょうか?」
「そうだな、それもひとつである。お互いが違う能力を持っているから足りない部分を『補完』し合うことは必要不可欠である・・・でも、それは満点解答でない!」
「では、その意味するところは何なんでしょう?」
「我々の持つこの人並み外れた能力は・・・例えばハイヒューマンが暴走するだけで一国を滅ぼすことができる。ハイエルフも然りである」
「・・・・」
「だから片翼なのは『抑止力』的な意味もある。どちらかが暴走した時にもう一方がそれを抑止する。これは片翼が常人では成し遂げられない」
「はい・・・」
「だから、常に一緒であること、『番』であることでお互いがお互いの抑止力になっている意味合いもある・・・過去から現在までそんな例はないがなぁ~ははっ」
「なるほど・・・」
俺は俺なりにこの話を呑み込めた気がする。
変な意味でお互いを監視し合うとも取れそうだが、これはお互いがお互いを理解し存在を深く知れという裏返しだ。
過去の『番』はそれを自然と行なえてきたから悪例がないのだ・・・そう思えた。
「だがなぁ~『神』が与えた『役割』はそんな抑止力的なことでもなく、お互いの能力を補完し合うことでもない・・・」
「・・・その役割とは何なんでしょうか?」
俺のその言葉に、ジロータは何もない上方の白い空間へと視線を移し、ひとしきり考え込んだ。
「何だろうなぁ~・・・同じハイヒューマンでも私と君とでは役割もまた違う。君とアニー君がどんな『役割』を担って次の時代を生きて行くのかは、君ら自身で感じ取って行かなければらない」
「・・・・」
「時代時代に沿った『役割』があるんだよ。それを担っていけるのは『番』である君たちだけなんだ!」
彼は俺の目を真っ直ぐに見つめ、そう言葉にした。
過去のハイヒューマンとハイエルフであった全員が同じ役割を担ってきた分けじゃないということ・・・
「・・・・」
「私の場合は恒久の『平和』を守るという『役割』が与えられているんだろう~・・・そしてシフォーヌに与えられたのは『導き手』としての『役割』だと言えるだろう」
自分たちに与えられた役割を振り返りながら語る彼の顔に浮かぶ表情はどこか温和で柔らかそうに見えた。
「はい・・・」
「どこかで必ずこれが自分がこの世界でやらなければならない『役割』なんだと理解できる日が来るはずだ!」
「はい・・・」
「それが、一般の男女に無い、ハイヒューマンとハイエルフの『宿命』であるんだよ~ははっ」
ジロータは気分良さそうに笑った。
俺はその『宿命』という言葉を聞くたびに肩の荷が重くなる思いを抱く。
でも避けられぬ、背負わなければならぬのなら・・・アニーとふたりで背負って行こうと心に決めた。
それをふたりで背負って行くことも『役割』のひとつなんだろうと思う。
・・・・・・・・
「これ以上君たちをこの空間に滞在させるには私の精神が持たぬ。最後にこちらから、ひとつ君に質問してもよいかな?」
この異次元空間に俺たちを招き入れたことは、思念体であるが故なのか負担は大きいようだ。
「はい・・・」
「シフォーヌが『この世界の理を超えたハイヒューマンとハイエルフをわたしは授けられました』と私に伝えてきた。その意味為すところは何を指しているのだろうか?」
ジロータは俺に聞き知ったままの疑問を投げかけてきた。
俺は彼が感じているだろうことに関し、シフォーヌに言われたままを伝えた。
「先日シフォーヌさまにお会いした時に言われたことがあります。『出逢った場所、出逢う為の条件、出逢ってからの過程がすべて違う』と・・・」
「なるほど・・・そうすれば、君は瞬間転移ではなく狭間から扉を抜けて来たのか?」
「はい。その通りです」
「意味がわかった!」
ジロータは相槌を打つように手のひらを拳でひとつ叩いた。
「どういうことなのでしょうか?」
「わたしがこの世界に来たのは瞬間転移、それも死を覚悟した瞬間に飛ばされて来た。そして転移した先はエルフの森近郊であった」
「はい・・・そう聞いております」
「これはなぁ~・・・シフォーヌと私の波長が合ったからなのか、年頃のハイエルフがいるので、転移した順にその場所へ辿り着いたのかはわからぬのだ・・・神の気まぐれなのか確率の問題なのか、はたまた二人が惹き寄せ合ったのか~ははっ」
自分が何故ハイヒューマンとして転移してきたのか、その経緯が判らないと彼は笑いながら言葉にした。
だがふたりは出逢った。その事実は動かしようもない現実だという想いは汲み取れた。
「・・・・」
「しかし、君の場合は狭間を経由し、ハイヒューマンとして転移したとなると事情が違うのだ!」
「えっ!何が違うのでしょう・・・」
「その前にアニー君はいまだ封印されている状態であるな?」
「はい・・・」
「だが、出逢ってしまった!・・・なのだな?」
俺に確認を取るジロータの目が真剣になった。
「その通りです・・・」
「なるほど・・・そこには偶然なる確率も転移順も全く無視したものがあるということだ。わかるか?」
「なんとなく・・・」
「それは『神』がその意思で故意的に仕組んだということだ!」
彼は会話からすべてを悟ったように言い切った。
「・・・・」
『君たちは神に選ばれしふたりだと言うことだ!』




