第48章 王女の提案
街はどのエリアも『クリエーター祭』の準備に向け、飾り付けに勤しむ人たちが数多く見受けられるようになった。
今年最後のお祭りとして寒い最中も笑顔や元気な声が絶え間なく飛び交っている。
そんな光景を目にしながら、俺とアニーは寄り添って『白き牝鹿亭』へと向かっていた。
ロークの招集ではあったが、採集クエストの報告も向かいのギルドで済ませられるし都合としたら悪くはなかった。
「今夜は何か降りそうな感じですねぇ~」
アニーは、今にも雪を降らせそうな重たい雲が幅を利かせる空を見つめながら言葉にした。
それに釣られるように俺も空を見上げた。
「帰りは積もってるかもね!ははっ」
「ちょっぴり楽しみです~あはっ」
「ははっ、アニーの想いが届いたら降るかもね~・・・」
「届くといいなぁ~・・・あははっ」
雪と言えば・・・子供時代は一面真っ白になるだけで大興奮したのに、大人になってからはウザイだけの産物になってしまった。
交通機関が麻痺する。会社に遅れる、家に帰れない、あげくに滑って転ぶ・・・元の世界のそんな負の記憶しか鮮明に思い出せない。
いったい何処に、いつ置き忘れてきたんだろう・・・目の輝きもわくわく感もすっかり喪失していた。
それは、大人と言う社会の柵の中で自然と消えてしまった感情だったのかも知れない。
でも今は、嬉しそうなアニーの顔を見ていると、純真な子供時代のワクワク感を取り戻せそうな気がする。
この世界に来れたことに感謝したい。
「遅いじゃないかぁ~!」
俺たち二人の姿を見るなり開口一番ロークは文句を言った。
テーブルを見回すと俺たち以外は全員揃っている。
「すまん!ちょっとギルドで報告を済ませていたんだぁ~・・・うぅ」
「遅いってこともないわよぉ~!」
「そうなり~バカが早く来すぎてるだけなり~!うひっ」
「何か大切な相談でもあったんですか~?」
アニーは少し不安そうにみんなの顔を見回した。
そんな彼女にフローラは手を横に振りながら微笑んだ。
「あるわけないじゃない~~!」
「いや、かなり重要で大切なことだぞぉ~!」
「何なり~~それって?」
「酒が早く飲みたい~これ以上大事なことはねぇーだろ?がははっ」
「誰か救急隊を呼びなさいよぉ~!きゃはは」
「お注射1本増やしておくなり~♪ウヒッ」
「お薬も増やしておきますです~♪ぷぷっ」
「ヤメいっ!お前ら~~~~うぅ」
「あぅ・・・」
いつもの光景が広がった。
毎回、毎回繰り広げられる恒例のシーンであるにも係わらず、やっぱり笑えてしまう。本当に愉快な仲間たちだ。
俺とアニーが流すであろう悠久の時の中で、今流している時間は絶対忘れることは無いだろう。そして、少しでも長くこの時を刻み続けたいと願っている。
俺は腰を下ろしながら、ふと空席が設けてあることに目が留まった。
「あれ?今夜は6人じゃなく7人なのか?」
「おうよぉ~~今夜は7人だぁ~!」
俺の疑問にロークは元気よく答えた。
この仲間以外にこの席に来るような人物いたっけ・・・そんなことが脳裏を過った。
「誰だよ?・・・誰が来るんだ?」
「当てて見るなり~♪」
「・・・誰だ?わからないわぁ~そんなの!」
「もしかしてマリナさまですか?」
クロエの悪戯っぽい謎掛けにアニーはあっさり返答した。
そんな勘の良さにクロエもパウラも大喜びしている。
「大正解なのです~!!ぷぷっ」
「ひゃ~~一発解答!大正解なり~~♪」
「あぅ・・・」
「げっ!マジかよぉ~~うぅ」
その正解に俺は少し気分が引けた。
王女の『思惑』に何かまた掻き回されそうな予感がしてならない。
「フローラに言伝があって、席を囲むときは招待してくれとのことだ!がははっ」
「それでフローラが今日の事を伝えたのかぁ・・・」
「そう・・・相手が王女さまなんだし無碍にできないでしょ?それに王女さまと懇意にしてたら父親が機嫌イイのよぉ~~きゃはは」
「なるほどなぁ~理解できた」
「ショーヘイとアニーが苦手なの判ってるけど・・・今日はわたしの為に我慢してちょーだい!きゃは」
「あぅ・・・」
「よっしゃーー!先に始めるかぁ~~料理と酒を注文するぞぉーー!」
マリナがお忍びで城を抜け出してまで遊びに来るという。
余程、俺たちと接点を持ちたいんだろうとは思うが、何か『思惑』があるのではないかと勘繰ってしまう気持ちは拭えない。
でも俺たちと触れ合いたいと、そして仲良くなりたい・・・これは王女の偽らざる本音だと思う。
呼びつければ良いところをそれをしない・・・『権威を笠に着ない』アドリア王国第二王女マリナ・デルフィナーレ・アドリアの魅力でもあるんだろう。
今夜の『宴』がどうなるのか見届けてみたい。
・・・・・・・・
今夜も『白き牝鹿亭』は満員御礼のようだ。
楽しい笑い声が、どのテーブルからも聞こえてくる。
途中さりげなく席に着いたマリナも含め、勿論、ココのテーブルは他に負けないぐらいに盛り上がっていた。
「こういう雰囲気は王宮におっては絶対に味わえないからのぉ~~妾はホント気に入っておる~~あははっ」
酒に酔ったのか雰囲気に酔ったのか・・・マリナは気分良さそうに笑った。
「いやぁ~~マリナさまにはマジで感謝だわぁ~~『レルネール村』の報酬も弾んでもらったし!がははっ」
「あれは、そなたらが居てくれたお陰で討伐できたから当然じゃ!気にしないで欲しい~・・・それよりアニー殿はその後のお加減は如何じゃ?」
「はい。お気遣いありがとうございます。マリナさま専属の医師の方にもお世話になったようで・・・でも、もうピンピンしておりますから~あはっ」
アニーはマリナの気遣いに軽くお辞儀をしながら感謝を述べた。
「それなら良かった。ショーヘイ殿も不安そうだったし・・・妾も心配した」
「いえいえ、バサラッドまでの手配や王宮医師まで・・・逆に余りある気遣いに感謝しています」
「まぁ何にせよ~大事に至らなくて良かった。元気そうな顔が見れて安心したぁ~!」
社交辞令でなく本音だと思う。何も出来ないが何かしたい・・・そんな気持ちは、レルネール村から感じていた。
特に『神の降臨』とさえ思っていたアニーが目を覚まさないのには本当に心配してくれた。それに関しては感謝しかない。
「よっしゃー!マリナさまのお忍びとアニーちゃんの全快を祝して乾杯じゃぁーーー!!」
ロークは会話に割って入るかのように突如気勢を上げた。
これも仕切り屋らしい彼の気遣いなんだろう。
「何度目の乾杯なのよ~~このバカは!きゃは」
「頭の中は年中お祭りなり~うひっ」
「笛・太鼓がピーヒャラララ~~~なのです!」
「うぅ・・・お前ら!」
“乾杯~~”
「実は、今日ここへ寄させてもらったのは・・・皆を誘おうかと思ってな!うふっふ」
何かあるとは思ったが・・・マリナは今日ここへ出向いた要件をにこやかな笑顔で話し出した。
世間からかけ離れた世界に住む単なる我儘な王女さまではないことは、俺自身もよく判っているが・・・なかなかな策士で頭は切れる
「どこへですか?」
「今度、年に一回の巡察隊が出るのじゃ~~『聖地』の状態確認の為のな・・・」
「『聖地』って英雄ヒュウガさまが魔王を封印されてる場所ですよねぇ~?」
「そうじゃ~今回は妾のお供として組み込むので、よければ一緒に『聖地』へ行ってみないか?」
どうも年に一回巡察隊が聖地と呼ばれる古戦場の視察に出掛けるらしい。
今回はマリナが主なのかどうかは判らないが、彼女の一隊に加わり一緒に行かないかという提案だった。
「戦闘も無さそうだし・・・『聖地』なんぞ俺たちが行ける場所じゃないしなぁ~~行ってみたいと思うわぁ~!がはっ」
『聖地』か・・・一度は訪れてみたいと思っていた。そこに自らを封印したジロータがいる。
今回は、王女の『思惑』に付き合って見るのも悪くないかも知れない。
『日程は追って知らせるが、年明け一番になると思われるので宜しく頼む!』




