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第44章 ロークの苦悶


安宿の朝は早い。

今日も朝一番からクエストに出掛ける冒険者が動き始める。


低Lvの初級冒険者からロークのような中級冒険者までもがぎっしりと詰め込まれている安宿は、素泊まりで1日6銅、食事入れても1銀にも満たない・・・月3金もあればお釣りがくる。

それは、簡単な依頼を2~3個もこなせば十分生活ができるレベルにある。

ひと部屋に簡易的な3段ベットが2つ、都合6人が同居しているスシ詰め状態の空間でプライベートなるものは一切ないが、何せその分我慢さえすれば安い宿泊費には替え難いものがあった。



「俺もそろそろココを卒業しないとだなぁ~・・・」


将来も見据えて部屋を借りる時期なのかも知れない。

ロークはひとりそんな風に思った。



・・・・・・・・



朝目覚めると、まず一番に窓を開ける。

寒かろうが暑かろうが関係ない。新鮮な空気が味わいたい・・・ただそれだけのことだが、これは元の世界に住んでいた頃からの俺のルーティンワークだった。


今日も目覚めとともに窓を開けて、大きく背伸びしながら深呼吸をした。

海から吹き上げてくる風は少し冷たいが冬晴れの気持ちいい朝だった。

窓枠に手を掛け眼下に広がる街の景色を少し眺めていると、石畳の坂道を上ってくる一人の男性が視界に入った。

目を凝らして見ると・・・


「あれぇ~?・・・ローク??」


こんな朝早くからあいつはこんな場所で何やってるんだろう・・・そんな疑問が脳裏を過ったが、これは俺を訪ねて来ているんだとすぐに思い直した。


「何でこんな朝っぱらから来るんだろ?」


意味不明な疑問は疑問として渦巻くが、取りあえず俺は着替えることにした。



コンコンッ



俺は慌てて部屋を出てリビングから玄関へと走った。


「ショーヘイ、朝早くから悪い。起きてるかぁ~」


ロークの声に俺は急いでドアを開けた。


「どうしたんだよぉ~こんな朝から・・・」


「すまん!・・・」


「まあ、入れよ~~外は寒いしさ・・・」


申し訳無さそうな顔をするロークを取りあえず部屋へと迎え入れた。

リビングのソファーに彼を座らせ、暖炉に火を灯す。


「すまないなぁ~予期せぬ訪問に部屋が温もってなくてぇ~・・・ははっ」


俺は暖炉に火炎魔法を掛けて急速に温度を上げたが、冷え切った部屋は急には暖かくならない。


「いや、そんな気遣いは要らないって!こっちが悪いんだからさぁ~」


ロークは2.3度手を振りながら気遣い無用だと俺の顔を見つめた。


「どうしたんだ、こんな朝から・・・」


「いやぁ~ちょっと相談があってさ・・・居ても立っても居られない気分で、悪かったが朝から寄させてもらった!」


「そんな急ぎなのかぁ~?」


「でも無いんだがぁ~・・・」


どんな相談を持ち掛けてきたのかは判らないが、こんな時間から出向いてくるとは余程気持ちに余裕が無いんだろうとは思えた。




カチャ



「ご主人さまぁ~おはようです~♪」


今の状況を知らないアニーは、自室からいつものように笑顔でリビングへと顔を出した。


「おはよう~アニー!」


「オハァ~~~!」


「・・・・」


「・・・・」


突然の来訪者と視線が合った・・・驚きに目を丸くしている。


「へっ?!きゃーーーーーーー!」



バタンッ



「・・・・」


「アニーちゃん・・・ホントかわえぇ~~~のぉ~~!」


いつもフローラやクロエにき下ろされる鼻の下を伸ばしたロークらしい表情を見せた。

そんな彼に苦笑しか浮かべられない。


「後で何言われるやら・・・ははっ」


「ネグリジェ姿も最高ぉ~!朝からイイもの見せてもらったわぁ~がははっ」


「おいおい・・・お前は何しに来たんだよぉ~」


アニーには突然の事で可哀そうに思えたが、ロークの思い込んだ顔つきが少し和らいだのにはひと安心した。


「いつもこんな感じで朝を迎えるのかぁ~~」


「あぁ・・・」


「エプロン姿のアニーちゃんも可愛いだろうなぁ~・・・」


ロークはそう言うと天井を見つめた。ロークらしい妄想が始まったかと俺は少し可笑しくなった。



毎朝の日常のことだけど、それが段々と当たり前になってしまうと薄れてしまうことがある。

アニーはやっぱり仕草も素振りも・・・『天然ボケ』含めて最高に可愛い女性だと改めて思ってしまった。




・・・・・・・・




アニーは着替えを済ませ、改めてリビングに顔を出した。

そして、ネグリジェ姿を見られたロークに恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「お茶でも煎れてきますねぇ~・・・」


「ゴメン・・・すまない」


そう言うと急ぎ足でキッチンの方へ向かうアニーがやけに栞らしく思えた。

そんな彼女の後姿を見ながらロークはしんみり言葉にした。


「お前たちって、ホント良い関係なんだなぁ~」


「なんだよぉ~今さら~ははっ」


「うん。いやさぁ~同居してからかなり経つだろ?・・・夫婦でもないし微妙な関係でよく続くよなぁ~って思ってしまって!」


「そうかなぁ~?・・・」


言われてみれば、他人から見れば不思議であり、且つまた不自然にも見える関係も俺たち二人には自然な成り行きでしかない。

お互いがお互いのことを知りたいという思い、ともに時間を流したいという想い、そして寄り添って生きて行きたいという願い・・・ただ心が導くままの姿でしかない。


それはハイヒューマンとハイエルフではなく、ひとりの男と女として繋がっている関係だと俺は思っている。いや・・・そう思いたいのかも知れない。



「実は相談て言うのはなぁ~・・・」


「うん・・・」


「部屋を借りようかと思うんだ・・・」


ロークは前のめりに俺の方へと体を向け、何かを思い詰めたように目をじっと見つめながら言葉にした。


「雑魚寝部屋卒業ってことか?」


「それそれ~~お金もそこそこ貯まったし・・・」


「ははっ、なら俺に相談する必要なんて無いじゃないかぁ~~借りたらいいんじゃないのか?」


そんなのは相談する以前の問題だし、ロークが自分で決断すればイイ分けで、そこに俺が関与することなんて何も無いように思える。

俺の返答に彼は頭を軽く叩きながら照れたような表情を浮かべた。


「いやぁ~~確かにそうなんだけどさ~この部屋を参考にしようかなって・・・」


「へ?・・・こんな朝っぱらからか?」


「・・・・」


「・・・・」


その照れる表情を垣間見るに、こんな朝一番から相談と称してはいるが、部屋を借りる借りないは別問題なんだ。もう借りることに決めているんだと思う。

要はそれが相談なのではなく、実は関連して他に気になることがあって、それを誰かというか俺に聞いて貰いたいと言うことなんだろう。

それがロークが口にした『居ても立っても居られない』気分という表現になっているんだ。つまりは、たかぶる気持ちを一人では鎮められなかったという事か・・・俺にはそういう風に感じられた。


「お前たちがどんなシェアの仕方してるのか見てみたくて・・・」


「え?!シェアって誰かと同居ですか?・・・」


アニーはお茶を運びながら、そのロークの言葉にビックリしたように反応した。

そして首を傾げる。


「・・・・」


「えっ!まさか女性なのか?」


俺には相手がわかっていた。

先日来のロークの会話からも、彼がシェアを望む彼女であろう女性とアニーとの会話からも容易たやすく判断できた。

この二人はそんなところまで進展しているのか・・・そう思うと何か顔がニヤついてしまった。


「いや、返事はもらってないけど、そうしたいって思ってさ・・・」


ロークは頭を掻きながら照れくさそうに下を向いてしまった。


「へ?!女性なのですか?・・・誰なんだろう?」


『天然ボケ』を地で行くアニーの頭には、たぶん『?』が3個ほど並んでいるんだろうと思う。









『お相手は誰なんですかぁ~~ロークさん!』

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