第43章 図書館司書
館内いっぱいに、どこか厳かな雰囲気が漂う。
アニーはシフォーヌの屋敷を訪ねている・・・依って今日は半日別行動となった。
俺は一人時間潰しというわけでもないが、自分が所持する未検証・未研究のスキルを調べるために王立図書館へと足を運んでいた。
以前にも一度立ち寄ったことはあったが・・・文献探しに苦労したという記憶しかない。
館内は書物を漁る人たちが往来している割にシ~~~ンと静まり返り、文献を紐解く音だけが僅かに漂っていた。
図書館といえど、元の世界のような市民の為にあるような代物ではなく、文献の貸し出しなどという風習は一切ない。だから学者や研究者は調べ物がある度に足げく通わねばならない。
今日の課題は『魔術』について調べておきたいと思った。
それは自分自身の事だけでなく、魔法に関してはハイエルフの方が遥かに能力が高いわけだし・・・先日のアニーのこともあって、どうしても自分なりの理解は最低限必要だと感じた。
今俺が発動しているのは・・・火属性を戦闘に、水属性の氷魔法を自家製冷蔵庫に掛けている程度だ。
それ以外の属性については全くもって未知だし、属性外では状態異常耐性系を付与しているぐらいしか使い道を知らない。
本当に『宝の持ち腐れ』状態であることに変わりはなかった。
俺は魔法系の書物の集まる書棚へと歩いた。
そこには女性司書が梯子に足を掛け書物を片づける姿があった。
彼女にとっては煩わしい事かと思いはしたが・・・何せどこから、何から手を付ければ良いのか判らない自分としては、手っ取り早く訊ねてみるのが最善だと思えた。
「あの・・・すみません」
「はい。何でしょうか?」
「魔法って言うのか、魔術の基礎編のような書物はありますでしょうか?」
俺は頭を軽く掻きながら、作業中の彼女には申し訳なく思えたが声を掛けた。
そんな仕草の俺に彼女は気さくに答えてくれた。
「あぁ~それなら・・・少し待って戴けます?」
「あっ、はい。わたしは大丈夫なので、片付け済まして下さい。ははっ」
「ごめんなさいね~~本て意外と重たいのですよ。だから持っている分だけ先に済まさせて貰いますね~ふふっ」
「はい・・・」
黒服の制服に黒い髪、そしてインテリ風のメガネを掛けた女性は梯下の俺に微笑んだ。
その瞳はキリッとした外見とは異なり、非常に優しく暖かい眼差しだった。
書物を所定の場所へと戻し終えた司書は梯子を下りてきた。
「お待たせ致しました。魔術に関しての基礎編でしたよね?」
「はい。いきなり難しいところからも何なんで・・・基礎から調べてみたいのです!」
彼女は並ぶ書棚をひと通り見回してから俺を手招きした。
「こちらです~どうぞ!」
「すみません・・・」
俺は司書の指示する書物棚を見た。全くもって判らない・・・本が並び過ぎている。
そんな俺を見かねたのか、彼女はクスッと笑いながら一冊の書物を手に取った。
そして『魔道全書~基礎編Ⅰ~』という本を俺に手渡してくれた。
「基礎編もたくさんあるのですが、全編通して目を通されるなら解釈の一貫したこの本をお薦めしておきます」
「本によって解釈が違うのですか?・・・」
「基本は同じことですが、編者自身の主観や捉え方が違いますので・・・いろいろ見てしまうと最初は混乱しかねますから~ふふっ」
初心者に対しては的確なアドバイスに思えた。拙者はこう思う、私はそう思うという本をいくら見ても結局呑み込めなかったら意味が無い。
そういう意味では信頼のできる司書だと俺には思えた。
「なるほど・・・ありがとうございます!」
「いえいえ~これもお仕事ですから!ふふっ」
「助かりましたぁ~」
「何か困ったことがあれば・・・司書のメイスカヤと申します。気軽にお訊き下さいね~」
彼女はそう言うと爽やかな笑顔と共にこの場を離れて行った。
俺はそんな彼女に深々と頭を下げた。
・・・・・・・・
静寂だけが漂う館内の空いていたテーブルへと腰かける。
メイスカヤさんご推奨の『魔道全書~基礎編Ⅰ~』を開いてみた。
魔法と呼ばれるものには、必ず使い手自身と使える属性との相性があるようだ。
この世界の全員に魔法適性があるかと言えばそうでもなく、約3人に1人の割でしか存在しないらしい。
自身がどの属性に適性があるかは、ギルドや役所に設置されている『属性判明機』に手を翳すだけで判るらしい。
まあ考えてみれば街は魔脈の上に成り立っているわけで、誰でもが気軽に生活魔法を利用できるわけだから・・・敢えて魔法適性が無くても困らない仕組みにはなっている。
これは前回図書館で書物を見て知り得たことだが。
ページを捲っていく。
【基本属性】
・地属性・・・土や石や岩等を利用した魔法
・水属性・・・水を利用した魔法
・火属性・・・火を利用した魔法
・風属性・・・風を利用した魔法
・光属性・・・光や浄化系を利用した魔法
・闇属性・・・闇や影を利用した魔法
・無属性・・・上記に属さない系統魔法
なるほど属性については何となく理解できた。
魔法を使える者は何かの属性を持っているということ・・・例えばフローラは火属性、クロエは光属性ということだ。
俺は自分のステータスボードをそっと開いてみた。
『魔術スキルMAX』をクリックすると属性が現れた。
見る限り全属性を持っているように見える。
その中で『火属性』をクリックするとスキル名が現れた。じっと目を凝らして眺めてみたが、アニーの使った『メテオ』は表示されていなかった。
・・・と言うことは、俺は確かに全属性に適性はあるが、ハイエルフが使うようなハイスキルは発動できないってことだ。
お互いがお互いの専門分野に分かれているということだろうか・・・俺は武技系でアニーは魔術系と住み分けができているという『証』なんだろうか。
これが二人でひとつ・・・『番』となる理由のひとつなのかも知れない。
何れにせよ、俺やアニーが『属性判明機』を使うと大事になる怖れがあるということは認識できた。これもひとつの学習だ。
編者が主観を交えた興味深い一説を見つけた。
《勝手、古では、上位魔法は魔法陣を描くことによって発動されていたが、『精霊王』の賜物で魔法陣は詠唱というものに姿を変えた。次なる『精霊王』の賜物として短縮詠唱と無詠唱で発動できる魔法が姿を現した。今後も『精霊王』の賜物を戴けるなら魔法は変化をし続けるだろう》
シフォーヌもアニーも歴史に名を残す『精霊王』と呼ばれるようになってしまうのだろうか・・・そんなことを思うと何か複雑な気がした。
待てよ!ジロータ・ヒュウガだって『英雄』と呼ばれている。
ハイヒューマンである俺もそう呼ばれる日が来るのか?
そう考えると、一挙に体全体を重圧が襲ってきた。
・・・・・・・・
「ありがとうございました・・・」
俺はメイスカヤさんが推奨してくれた『魔道全書~基礎編Ⅰ~』をカウンターへと返しに行った。
彼女は俺の声に目を通していた書類から顔を上げた。
「あら、お疲れさまでした!少しは理解できましたか?・・・ふふっ」
「いえ、なかなか奥が深いので・・・」
「そうですね~学習の積み重ねが大切ですから、また図書館へも顔を出して下さいね」
「はい!」
「実はねぇ~・・・ここって小難しい顔をした研究者や学者ばっかりで、あなたのような若い方は滅多に来ないの!」
メイスカヤはカウンターを乗り出し、俺の耳元で小声で囁いた。
その行動が何とも可笑しく思え、俺は笑ってしまった。
「・・・でしょうねぇ~ははっ」
「お名前聞いてもイイかしら?ふふっ」
「はい。ショーヘイ・クガです!」
『私はメイスカヤ・リンデンバーグよ。ショーヘイさん宜しくね!』
参考資料:★ファンタジースキル一覧★ 夢野有可さん
基本属性等参考にさせていただきました。感謝です~!
興味のある方は、本作者のブックマークにリンクあります。
作者名クリックでどうぞ!
【注意書】
この世界における『魔術』と『魔法』との違い。
『魔術』・・・魔法を発動する為の術式や詠唱などの法則を学ぶ学問
『魔法』・・・魔術で学び終えた術式や詠唱を法則に則って発動したもの
当物語では混同した使い方をしておりますが、こういう基本認識でお願い致します。




