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第42章 悩めるお嬢さまたち


暦を一枚めくると季節が変わった。

そんな言葉がピッタリと嵌るように秋から冬へと街の装いも移り変わってきた。

街を行き交う人々の服装も1枚重ね着が多く見受けられるようになっている。

それは何も街の光景だけでなく、空も澄んだ青色から灰色の重たい空へと模様替えをしている。

そんな空の色をちょっぴり気にしながら、俺とアニーは商店が軒を連ねる商業エリアを肩を並べ歩いていた。



「何か雲が重たいなぁ~・・・」


俺は空を見上げた。

アニーも同じように灰色の空を見上げた。


「雪でも降ってきそうな感じですね!」


「ほんとだなぁ~・・・」


「でも降ってきたら、ちょっと嬉しいかも~あはっ」


アニーは俺が鬱陶うっとうしいと考えることとは逆に、空を見上げながら嬉しそうに笑った。


「どうして?・・・」


「だって、エルフの森じゃ見ること無かったもん!」


「そっかぁ~~里はバサラッドからじゃかなり南の方だし・・・」


「うん。だから・・・嬉しいのです!あはっ」


彼女の嬉しそうな笑顔を見るだけで、自然と俺の顔にも笑みがこぼれる。


しばらく二人は、せ返す雑踏の中、当てもなく空模様だけを気にしながら、ぶらぶらとただ歩き続けた。



「あっ、可愛い飾り物見っけですぅ~!」


「どこ?・・・」


「そこのお店ですよぉ~~あはっ」



何の変哲もないくだらない会話もまた楽しい。

何かするとか、何かがあったからじゃなく・・・何もなくても、こうして二人で寄り添えることがたまらなく嬉しいし、この時間を二人揃って流せることに幸せを感じてしまう。

それは、先日の事があったから余計にそう感じるのかも知れないが・・・



・・・・・・・・



商館通りの一画に店舗を構える『ラウティオラ商会』は、王族や貴族を中心に最高の衣料素材として愛用されている『絹』の取り扱いで財を成してきた。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのある中規模商会だ。

先代と当代の卓越した商才は、この界隈でも評判にさえなっている。

そんな名を馳せた商館の一室では・・・



「クロエ、もう冒険者なんてお遊びはやめて花嫁修業でもしなさい!」


「そうだぞ~~クロエ!お前がどこかの貴族や商館にでも嫁いでくれたらワシも鼻が高いし商売もしやすくなる!」


「そうよ~それがあなたにとっても幸せなのよ・・・だから、そろそろ真剣に考えなさい。年が明けると、あなたも19歳ですよ~クロエ!!」


クロエは父親と母親が苦手だった。

自分がそういう年頃に差し掛かっていることは自覚している。

でも・・・顔を見るたびに小うるさく『結婚』しろと言われるのがイヤで堪らなかった。


兄弟は3人の兄と、そしてクロエの3男1女であった。

両親としては3人の息子に期待できる婚姻は望めなかったが、娘のクロエには格式の一段高い家柄へ嫁がせたいという『親の欲目』が働いているようだ。

そこには、成りあがり的な中規模商会ならではの家柄や格式などが、無い物強請(ねだ)りのこだわりとなっているんだろう。



「わたしの旦那様は、わたしが見つけます!」



そう言葉にすると、クロエは両親に背を向け部屋を後にした。

自由奔放に生きてみたい・・・

そして好きな人と一緒に人生を歩きたい・・・

王族でも貴族でも無いのに格式や家柄というしがらみに、何故両親は捕らわれているのか・・・そこにわたしの幸せはきっと無い。

クロエはそんな想いにさいなまれていた。


マリナにしてもフローラにしても、そしてクロエも・・・『自由恋愛』など許されぬ家庭環境に生まれたが故に、それが重しになり気苦労が絶えないようだ。




「お嬢さん~どちらへ?」


「ちょっと・・・」


「旦那様や奥様とのお話はお済みになられたのですか?」


「逃げてきたなり~♪うひっ」


廊下や部屋を急ぎ足で歩く・・・たぶん難しそうな顔をしていたんだろうと思う。

小さな頃から可愛がってくれた使用人のマーサおばさんが、そんな素振りを気にして声を掛けてきた。

そんな彼女にいつもの口調で笑って誤魔化す。



クロエは裏口から狭い通りへと出た。

ふと顔を上げると、空は今の自分の心のようにどんよりと灰色に染まっている。

そしてそんな空を覆う重たい雲が、今にも自分に圧し掛かってきそうなほど低く見えた。


「降るのかなぁ~・・・」


傘を手にしておくことを忘れたと思ったが、今さら取りに戻るのも面倒だし降り始めたら家に帰ろう・・・そんなことを考えながら歩いた。

路地裏通りから大通りに差し掛かろうとした時、ショーヘイとアニーが仲睦まじく寄り添い歩く姿を見つけた。

追いついて声を掛けようと駆けだしかけたが・・・足を踏み留めた。

二人で流している時間を邪魔するほど野暮じゃない。

見なかったことにすればイイだけのこと・・・でもちょっぴり羨ましいと思う気持ちが心の中へすうっと流れ込んだ。



「いいなぁ~ショーヘイさんとアニーちゃんは・・・わたしにも出来るかなぁ~ステキな彼が・・・」



『自由恋愛』をしたいって、大好きな人と一緒に居たいと思うようになったのは・・・きっとこの二人に触れたから。

学校時代でも傍が騒ぐほど興味も無かったし、男性を好きになるという感情も持ち合わせていなかった。

それはただ単に自分が『お嬢さま』で、世間を知らなかっただけなのかも知れない。


それに親に対しての反抗期のように始めた冒険者も、お遊び程度でやっていたなら、その内飽きてしまい親の進める『縁談』を素直に受け入れている自分がいたのかも知れない。

ロークにフローラにパウラ・・・

そして、この二人に出会ったことで、わたしの思いも大きく変わっていった。

それは何も恋愛観だけじゃない。人生観そのものが変わった・・・それだけは実感できる。



誰もが理想にする人生を歩ける分けではない。

けど諦めたらそこで終わってしまう。今は自分が信じる道を追い求めてみよう・・・そこに至らなくても何か得るものは絶対にある。

だから、今は冒険者を続けたい。あの仲間たちと・・・



クロエは気付かぬ素振りを装い、二人が向かう反対方向へと歩を進めた。



・・・・・・・・



「よっしゃー!今日はみんなに相談だぁ~!!がはっ」


相変わらず今日も『かれん亭』の一画に、ロークの招集により席を囲んでいた。

すかさずフローラは意気揚々の彼に切り返す。


「何を相談するのよ?」


「何って、お前ら・・・もうすぐ『クリエーター祭』だろ?」


創造神祭・・・管理人さんを崇める祭りがあるのかと思うと妙に笑えてしまう。

時期的にも元の世界でいう『クリスマス』的なイベントなんだろう。


「だから何よ~?」


「前夜祭・・・誰と過ごすのかなぁ~って・・・うぅ」


ロークはみんなの顔を見回しながら自信無さ気に言葉にした。

そんな彼にクロエは『お門違い』とでも言いたげな顔した。


「それって、みんなにする相談なりか?」


「うるせぇーーー!ショーヘイとアニーちゃんは毎日前夜祭だから関係ねぇーけど、お前らどうするんだよ?」


「何だよぉ~~その毎日って・・・うぅ」


「あぅ・・・」


俺とアニーはロークの投げやりな返答に困惑した。


「わたしとパウラちゃんはギルド主催の合同パーティー行くつもりなりよぉ~?」


「へ?!マジかぁ~~~!」


「ですです~~クロエさんと彼氏を見つけるのです!ぷぷっぷ」


クロエとパウラはすでに予定を入れているようだ。


「ひょーーー!!じゃあ~~フローラは?」


「別に決めてないけど・・・」


素っ気なく返事をするフローラ・・・


「マジで?・・・」


「相手いないし・・・どうでもイイかなって!きゃは」


「じゃあさ~~俺、俺なんて、如何でしょう?」


今日の相談はココかい!

そう思うと何か馬鹿らしくなったが、そんな小賢しく口説くロークが少し可愛く見えた。






『土下座するなら考えなくもないわぁ~~!きゃはは』

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