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第26章 王女の覚悟

秋晴れのこんな気持ち良い空の下で『命のやりとり』か・・・

そんな虚しさを心で揺らしながら、束の間の休息として俺たちは木陰の下で体を横にした。



時間にして1時間ほど経過した頃だろうか・・・

急増で設営された陣地内が騒がしくなった。


担架に乗せられた兵士が次から次へと救護班テントへと運ばれていく。

各部隊に回復系魔術師が数名いるはずではあったが、それでも追いつかないのか、もしくは魔術士が先に狙われたのか・・・巣窟内はかなり壮絶な戦いになっているものと予想できた。


よくよく考えれば、当然の結果かも知れない。

今から思えば・・・森での戦闘の引き際があまりにもアッサリし過ぎていた。きっとゴブリンは巣窟での決戦に自信があるんだろう。

当初、巣窟入り口で火を燃やし中のゴブリンをいぶす作戦も考えられたが、別の出口から無傷で逃げられてしまう可能性も考慮され却下された。

結局は人数に任せた突入となったわけだが、相手方のホームグランドだ。罠がある上に通路も複雑で狭い・・・横穴や隠し穴からの襲撃に手を焼いている状況が想像できる。



「おい、第2陣が入るようだぞぉ~~中はどうなってるんだ?」


ロークは心配そうに慌ただしい陣内の動きを眺めている。

俺も同じようにその光景を見つめていた。


「苦戦しているようだなぁ~・・・」


「これさ・・・キング級がいるんじゃねぇ?」


「ゴブリン相手にここまで苦戦するなんて・・・ありえない話じゃないわね~」


フローラはロークの意見に同意するかのように頷いた。


「ちょっと怖いですねぇ~」


「大丈夫、アニーは俺が守るから!ははっ」


「何それ?・・・じゃあーーわたしは??」


「そうなり~~わたしは誰が守ってくれるなりか~~?」


「あん?・・・そこのテントに『彼氏急募!』とか貼りだせばイイんじゃねぇ~?がはっ」


「きぃーーーー!それムカつくぅ~~!!」


「えへ・・・白馬の王子さま募集って書いておくなり~!」


「香水も忘れるなよ~がはっは」


いつもと逆の展開に、俺もアニーも笑ってしまった。


このメンバーはまだ余裕がある。気持ちに、心に余裕がなくなるとパニックに陥りやすい。

まだまだ行ける。お互いを繋ぐ『信頼という絆』がある・・・うちの仲間たちは大丈夫だ。




「休んでおるところすまぬ・・・どうも前線の状況が芳しくないようだ。皆にも準備をお願いしたい!」


王女はわざわざ俺たちの休憩場所へと足を運び、申し訳なさそうに言葉にした。


「了解!王女様、うちのみんなはそのつもりですのでお任せ下さい~!」


ロークは美しき王女へと調子のよい返事をする。


「すまぬ・・・期待しておる。こういう場所は、そなたらの方が手練れておる。力を貸して欲しい!」


「マリナさまも中へ入られるなら、それ相当の『覚悟』が必要ですよ!」


俺は少しキツイ言い方になったが、生半可な気持ちでいると本人にも周りにも迷惑と危険が迫る。

その辺りの『覚悟』を聞いておきたいと思った。



「わかっておる。この状況を安全な場所で見て見ぬ振りはできぬ・・・わらわも参る所存だ!」


「わかりました。お覚悟があるなら・・・うちのみんなもお守り致します」


「このフローラ、我が身命に代えましても御身を必ずお守り致します!」


フローラは片膝をつき、貴族の娘らしくマリナへと誓いをたてた。




・・・・・・・・




最初に突入したF,G,H,I隊は戦功を稼ぐどころかボロボロの状態で出てきた。ほぼ壊滅状態と言えた。

現在は入れ替わるようにD,E,J隊が巣窟に入って攻略している。

すでに100人以上の味方が突入している算用になる。ゴブリン側の被害も半端ないはずだが、討伐しきれないということは・・・かなり厄介な奴が潜んでる可能性がある。



「兄上!このままではじり貧であります。妾がC隊は負傷者も現在おりませんし手練れの冒険者もおります。何卒突入の許可をお許し願いたい!」


マリナは刻々と悪化していく状況に我慢ができなくなったのか、総司令官である兄のアルフレッドに直訴した。

王子は芳しく無い戦況に苛立ちの表情を浮かべていた。


「そなたも参るのか?」


「はい、勿論でございます!」


「しかしのぉ~~この状況では御身を守ってやれる保証は無いぞ?」


「心得ております・・・『覚悟』の上でございます!」


「そうか・・・ならば好きにせよ!」


「ははぁ~あり難き幸せ!兄上のためにも尽力致して参ります!!」


マリナは『覚悟』を決めた。

これは父上の為でも兄上の為でもない。これは己に勝ための闘いである。

己に勝つことで、民にも国にとっても良いことであるなれば為さねばならぬ・・・為政者とはそういうものだ。

マリナは自分の心にそう誓った。




俺たちは潜入準備をしながら、退却してきた兵士たちから情報を収集していた。


・ゴブリン兵は巣窟内に100体以上いる。

・遭遇した変異体はマジシャン級数体・・・奥に何がいるか不明

・行動不能系の魔法を使う。

・通路が狭くて暗い。ルートは2本存在。

・隊列が延びる関係上、横穴や後方からの襲撃に被害が出る。

・罠は地面罠が主で高等な罠は無い。



「よし、これぐらいの情報は必要だよな?」


「十分とは言えないが、最低限必要な情報は手に入ったと思う・・・あとは2本あるルートと変異体が曖昧だな~」


ロークと顔を突き合わせ入念なチェックをしていく・・・これはゲームでなく『命のやりとり』なんだから。

そんなところへ、マリナと護衛が姿を現した。



「ローク殿、ショーヘイ殿~~誠に申し訳ないが出撃となった。妾の我儘でもあるのだが・・・準備はどうだろう?」


「いつでも出れますよ!」


「妾も参戦させてもらう・・・よろしくお願い致す!!」


マリナは一国の王女でありながら縮小にも俺たちへと深々と頭を下げた。

そんな態度に、俺とロークは逆に恐縮してしまった。




・・・・・・・・




俺たちC隊は、2番手として潜行しているD,E,J隊の痕跡を追って、薄暗い巣窟内を松明たいまつ替わりに灯火トーチを発動しながら進んでいた。

ここまでは戦闘も無く、倒れたゴブリンの死骸を避けながら2本のルートの分岐点まで辿り着いた。


「どっちだ?右か左か・・・どっちだ?」


「岩肌に『→』が掘ってあります。右ルートじゃないでしょうか?」


アニーは岩肌を照らしながら矢印を目敏く見つけた。


「マリナ様、ここで人数を割くのは良策とは言えませんが、先行している部隊もいますので、後方からの挟撃に備えて5名ほどココに残ってもらえると助かるのですが・・・」


「了解した!ショーヘイ殿の具申最もだと思う。続いて潜行してくるA,B隊がココに辿り着くまで後方の5名は待機哨戒せよ!」



今のところ索敵に掛かる敵は見当たらない。

俺たちは狭い通路を細心の注意を払いながら前進し続けた。

そんな時、前方から灯火を着けた2人の兵士が息を切らしながら勢いよく走ってきた。


「伝令です!マジシャン級2体は倒せましたが、奥の部屋にキング級がいます。現在戦闘中でありますが負傷者多数、被害甚大です!!」


「やっぱいたかぁ・・・」


「あい解った!その方たちは司令本部へと早々に伝えよ!!」


「了解致しました。ご武運をお祈り致します!」


マリナに敬礼をした兵士2名は、息も絶え絶えにそのまま出口を目指して駆けだした。

今の報告に全員が息を呑み、気を引き締めた。


「とにかく急ごう!」


俺たちC隊は、急ぎ足で伝令が走ってきた奥へと向かった。


「索敵に反応あり、30Mメルカ先の広間にゴブリン20体と巨大な1体・・・攻撃体勢を!」


「了解!!」


広間へと飛び込んだ俺たちの目に最初に飛び込んできたのは・・・









『4Mメルカもある変異体ジャイアントゴブリンだった!』



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