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第24章 王女の参戦

「えぇぇーーーー!それ~~~王女様じゃない?!」


先ほどまで『ぐうの音』も出ないほど疲れ切っていたフローラが突然起き上がって叫んだ。

クロエもアニーもその声に釣られるように体を起こした。

俺はと言えば・・・ただ状況が呑み込めず意味不明なまま棒立ちしていた。



「そうだ!このお方はアドリア王国第二王女のマリナ・デルフィナーレ・アドリア姫殿下だ!失礼の無きように!!」


護衛の一人がフローラの叫びに反応するかのように答えた。


「よい、気を遣わないでくれ~わらわも前線で闘う一人の戦士だと思ってくれたら嬉しい!」


マリナはそう言って笑顔を俺たちに振り撒いた。


「これは失礼を致しました。わたくしめは王家の魔術師軍団に所属致しておりますエドリア・バシュラールが三女フローラでございます!」


フローラは疲れを忘れたかのように勢いよくマリナの御前へと進み、片膝をついて頭を下げた。

そして自分の素性を明かした。


「おぉ~バシュラール男爵家の娘であったか・・・」


「はい。御前にあたり伏しておりましたご無礼、万死に値するかと・・・誠に申し訳ございません!」


「よい、そなたらにそんな風にされると妾も困る。ここは無礼講で参りたい。フローラもよろしく頼む!」


「あり難き幸せ!このフローラ、我が身命に代えましても御身を必ずお守り差し上げます」


「よい、よい・・・ふふっ」


俺もアニーもクロエも・・・開いた口が塞がらず、フローラと王女の会話にただただ茫然と立ちすくんだままだった。


「今日は挨拶までじゃ~それでは、明日からの共闘、よろしく頼む!」


「ははぁ~~~!」


「失礼致した。それでは参るぞ~!」


マリナは機嫌良さそうに我々に軽く会釈をし、手を上げながら背を向け歩き始めた。

護衛の二人もそれに続くようにこの場を後にした。

フローラだけは、マリナの姿が視界から消えるまで・・・片膝をついた姿勢のまま見送りをしていた。




「ひゃーーーーー!うひゃーーーー!!」


クロエは突然意味不明の奇声をあげた。

たぶん、今しがた目の前で起こった出来事に言葉が探せなかったんだと思う。


「歳の頃も俺らとあまり変わらなく見える王女までもが前線に出るんだなぁ~~・・・」


俺は消えゆくマリナの姿を見つめながらボソッと独り言のように口にした。



どうも今回のこのクエスト、ゴブリン襲撃に対し度重なる対応のまずさに業を煮やした王が、王子や王女を戦場へ送り出すことで兵士の士気を高め、一気に掃討してしまおうという意図が見え隠れしている。

そしてロードやマジシャン級が混じっている可能性もあるが、王家の意向に組したギルドも万全を喫して、それ相当クラスの冒険者を送ることで護衛に当たらせるという図式が出来上がってるように思えた。

あくまでも俺の憶測でしかないが・・・



「おろ?お前たち何サボってんだ?・・・」


両手に水桶を抱えたロークが不信な目つきで俺たちを睨んだ。


「・・・・」


「何なんだぁ~~?ひとり頑張る俺がバカみたいじゃないかぁ~!」


状況が呑み込めないロークとしては、みんながサボって休憩を続けているようにしか見えないんだろう。

そんなロークへ、クロエは条件反射するかのように絡んだ。


「バカだからイイなり~!ウヒッ」


「あぅ・・・」


「いやさぁ~・・・今しがたさ~とんでもないお方がココへ挨拶に来て・・・」


「誰だそれ?・・・」


「王女さま、第ニ王女さまが挨拶に来られたのです。このエリアの司令官なんだって!」


頭を掻きながらシドロモドロしている俺とは逆に、アニーは少し興奮気味にロークへ先ほどの出来事を伝えた。


「なぬ~~~~~ぅ!!」



その夜の話題は言わずとも知れたこと・・・フローラが貴族の三女であったことで持ち切りとなった。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



翌朝は天候にも恵まれ、気持ちイイぐらい良く晴れ渡った空が広がった。

俺はアニーと二人、そんな清々しい空の下、新鮮な空気を味わいながら少し散歩をした。


「さぁ~て、みんなも起きる頃だろうし~戻ろうかぁ~」


「ですね~・・・でもこんな気持ちイイ朝って久々ですよぉ~あはっ」


エルフの森では毎朝味わえる清々しさも、バサラッドの街中では味わうことができ無い。

アニーは忘れかけてた『朝』を思い出して少し嬉しそうに笑った。

今から始まる戦闘も無けりゃもっとイイ朝だったんだろうが・・・



朝食も終えた頃、全員集合の合図が掛かった。

今作戦の参謀らしき軍人が全員を前に説明を始めた。


「それでは本作戦の実行内容を説明する」


「MAPを確認してもらうと分るが、各エリアを三列に割り振りしてある。まず先発としてA~Cエリア担当部隊に進行してもらう!」


【西方街道エリア】


           ← D隊

       ← A隊     ← H隊

           ← E隊

ゴブリン巣窟 ← B隊     ← I隊 ←司令本部        

           ← F隊

       ← C隊     ← J隊 

           ← G隊 

 


「その後、先発部隊が進む隣のエリアをD~Gエリア担当部隊に前進してもらい、A~Cエリアから逸れた敵も含め掃討してもらう。H~J部隊は後詰として各エリアの討ち洩らしを索敵し一掃しながら前進してもらいたい!」


「尚、巣窟突入に関しては全部隊の合流後説明させてもらう」


「本作戦は、この西方街道エリアよりゴブリンを一匹たりとも逃さず根絶やしすることで完了とする。諸君の健闘を祈る。以上だ!!」



二重三重と追い込みを掛けるローラー作戦なのか・・・王都軍も面子があるだろうし、今回はかなり本気で臨むようだ。

俺はMAPを見ながらそんなことを思った。



・・・・・・・・



ここまでは戦闘らしき戦闘も無かった。

Cエリアと名付けられた森の中を、王都軍15名、俺たち冒険者パーティー5名の20名は、木々の間に深く生える草を掻き分け、ひたすら前進を続けていた。

もちろん、その中には第二王女のマリナもいた。王家の娘としては場慣れしているのか泣き言も我儘も言わず進軍している。


「この辺りに出てくるのは相手の斥候だけしょう!たぶん、変異体のゴブリンに率いられているなら、相手に有利なもう少し深い森か巣窟でしょうねぇ~」


「うむ、わらわもそう思う!たぶん木々が生い茂った場所からの弓攻撃、それに巣窟の罠が危険になるだろう~」


王女は俺の意見に頷きながら自分の見解を述べた。

護衛の二人と兵士3人はマリナの周りをガードし、全方位への警戒を怠らない。


「何かどんどん薄暗くなってきたなぁ~」


ロークは怪訝けげんそうな顔で、しだいに鬱蒼うっそうとしてきた森を見回していた。


「索敵に反応!前方左30Mメルカ先ゴブリン2体、同じく右に3体のゴブリン!・・・アニー~~弓の用意頼む!!」


「アニー了解しました。10Mメルカ前方の大木の陰から狙撃開始します!」


俺の情報に反応するかのように兵士たちも弓を構えて歩きだした。


「そなたの索敵は広範囲だのぉ~~スキルは如何ほどなのか?」


「いやぁ~、それは秘密ってことでお願いします!」


「わかった。だが、状況の見通しや指示も早いし・・・そなた、なかなかに興味深い男であるな!ふふっ」


「王女様に興味を持っていただけるの光栄ですが・・・そろそろ来ますよぉ~!」


「ローク、アニーの横でガード頼む!」


「合点だぁ~~任せろ!!」


「王女さま護衛でクロエも下がって!フローラ、アニーのところからバレット届くか?」


「クロエ了解なり~」


「微妙だけど~フローラ了解、撃ってみる!」


兵士たちも前方のゴブリンを取り囲むように素早く動き出した。






「斥候と思わしきゴブリンの後ろに10体のゴブリン接近中!」

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