第23章 ゴブリン掃討作戦
日一日、日一日と・・・
秋はどんどんと深まりを増し、山や森を目に鮮やかな赤や黄色に染めていく。
この世界へと転移して来て、すでに半年以上が過ぎた。
実際、ここで流した月日は数えるほどでしかないが・・・
もう何年も過ごしてきたかのような錯覚を覚えてしまう。
たぶん・・・アニーと暮らす今の生活がとても充実しているからなんだと思う。
今日も昼過ぎから、アニーと二人で昨日こなした採集クエストの報告のため冒険者ギルドへと立ち寄っていた。
「お~~い!ショーヘイ~~ちょっとイイか?」
「ん?・・・どうしたんだ?」
目敏く俺を見つけたロークが手招きしながら呼びかけてきた。
俺はその声に反応するかのよう彼のもとへと近づいていった。
いつものように、肩をぐっと引き寄せられ馴れ馴れしく手を回してきた彼だが・・・今日はどこか違う真面目ぶった顔つきで、依頼ボードに貼り付けてあるクエストを指さした。
「緊急クエストが出ているんだが行ってみないか?・・・これこれ~!」
「どんなクエストなんだよ?・・・」
『緊急クエスト:西方街道ゴブリン掃討作戦(軍依頼)』
「バサラッド西方30K先のロナリア村周辺に大量のゴブリンが涌いているそうだわぁ~!」
「村とか襲撃されてるのか?」
「村は結界が張ってあるから問題ないんじゃねぇーーの?」
「あぁ~外出できないってことか・・・」
ロークは当然魔脈の上に村が成り立つことを知っているから俺の村襲撃という言葉を一蹴した。
なるほど・・・村ではなく街道や山菜摘みに入る森などが対象になっているのか・・・交通が遮断されるということは流通が遮断されるということだ。そうなれば当然村が孤立してしまう。
俺は依頼に納得ができた。
「王都軍も出て討伐しているようだけどさ~、何せ広範囲に出没しているらしくてギルドに支援依頼がきたらしいわぁ~!」
「そうなんだぁ~」
「ギルドもC級クラス以上10パーティーあたりを目途に募集かけてるし・・・報酬もイイし、どうかなって思って?」
ロークはこの依頼の経緯や内容を教えてくれた。
俺はその説明に頷きながら、討伐対象に引っ掛かりをふと覚えてしまった。
「ん?・・・ゴブリン討伐ならD級クラスでも十二分に対応できるんじゃないの?」
「あれ?そうだよなぁ~~~??」
確かにそうだ。二人ともギルドからの召集クラスに首を傾げた。
「何か裏あるんじゃない?C級以上ってのに引っ掛かるんだけど・・・」
「知恵の回るロードやマジシャン級が統率してるってことなんかぁ~~?」
「そうかも知れないなぁ~・・・」
ロークは依頼書ボード前で腕組みをしたまま唸り、かなり思案しているようだ。
俺は待合席で楽しく喋ってる3人の女性の方へと振り返った。
ゴブリン自体は低能で非力な部類に属するモンスターだが、集団で襲撃してくる為、少人数では対処に追われる。
その上、リーダーとなる小賢しいロードやマジシャン級の変異型がいるとなれば、戦略的な行動をしてくるので、一歩間違うとこちらが全滅するという憂き目に合いかねない。
特に巣窟などは罠を仕掛けている可能性が高い為、入るとなるとそれなりの危険を覚悟する必要があるし・・・タチの悪いことにゴブリン系は女性に執着する傾向が強い。
要らぬ心配かも知れないが・・・集団で襲撃されると想定するなら、うちの女性陣への対応も当然頭に置いておかねばならなかった。
「みんなぁ~~緊急クエスト請けるぜぇーー決めたぞ!」
「何それ?危ないのと小汚いのはイヤよ~!」
「臭いのもお断りなり~!ウヒッ」
「お前らなぁ~~~どこに黒服正装の香水つけたモンスターがいるんだよぉ~!」
「捜索願い出しなさいよぉ~~!きゃはは」
「華麗に舞いたいなり~~♪」
「社交ダンスじゃねぇーーわ!!」
相変わらずこの3人の息はピッタリだ。
俺もアニーも、そのやり取りにクスクス笑ってしまった。
本当にこの仲間と流す時間は、俺にとって宝物のように思えた。
「今回は単独行動じゃなく、王都軍に同行するかたちになるみたいだ~」
「合同でやるのですか~?」
「そう言うこった!みんな気合入れろよぉ~~うちのパーティーの凄さを見せつけてやろうぜぇーー!!」
「あうぅ・・・」
今回のクエストは、王都軍10部隊とギルド10パーティーをそれぞれ1エリアごとに配分して行われることになっていた。
うちのパーティーは『Cエリア』に振り分けられ、与えられた役割は索敵しながら前進する・・・言葉を換えれば前線部隊のひとつのようだ。
人数的には本作戦に割かれた王都軍は1部隊15名、そしてギルドから5名の計20名で受け持ちエリアを掃討していくことになる。
軍もここだけでなく広範囲な掃討作戦を展開している為、冒険者の手でも借りたいってところが本音なんだろうと思う。
「よぉ~~し、明日の出発に備えて今日は解散~~!みんな遅れるなよぉ~!!」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
晴れ渡る秋空の下、本来ならピクニック気分で出かけたいところではあったが、前を整然と歩く王都軍の兵士たちを見ればそんな遊び気分になれるはずもなかった。
うちのメンバーも他の冒険者も進む速度に文句は言いたそうだったが、喋る余裕もなく、ただひたすら付いていくのに精一杯という感じがした。
そのせいか・・・王都軍10部隊とギルド10パーティーの行軍は予想以上に早く目的地まで到達することができたようだ。
「よぉ~~し、休憩だぁ~~今夜はここでキャンプを行う!各隊ともにテントの設営に取り掛かれぇ~!!」
軍の司令による号令一発、統率の取れた兵士たちは疲れを知らないかのように黙々と次の作業に移った。
それに比べ・・・さすがお気楽な冒険者連中は、みんなその場に倒れ込んでいた。
身体能力の高い俺にはどうってことは無かったが、さすがにアニー含め女性陣はもうヘトヘトだったんだろう・・・そのままその場に座り込んでしまった。
そんな中、ロークは笑えるほど元気満々に声を張り上げた。
「よし、うちもテントの設営場所確保するかぁ~!」
「へっ?まだ何かさせるなりかぁ~~?」
「クロエ、脳筋男に任せておけばいいって~~取り柄はそれだけ何だから~!」
「わたしも・・・もうダメです~~あぅ」
「ごらぁ~~!バカにしやがってぇ~~お前らメシ抜きなぁ~!!」
「いいよ、いいよ~~みんな休んでたら・・・俺とロークでやるから~ははっ」
本当に疲れたんだと思う。
女性たちのへたり込む姿に少し笑えた。お疲れさま・・・みんな。
「ショーヘイ、テント頼めるか?俺、水汲んでくるわぁ~~!」
「わかった。テント張っておくよぉ~!」
ロークは街道脇を流れる小川へと水を汲みに出かけてくれた。
俺は倒れた女性陣の少し奥へとテントを張る準備を始めた。
「Cエリアを担当してくれる冒険者であろうか?」
俺は背中越しに掛けられた声の主へと振り返った。
そこには、軍服がよく似合う威風堂々とした女性を真ん中に、その両脇を護衛のような兵士二人が立っていた。
「あ、はい。Cエリア担当の冒険者パーティーです」
「そうか・・・では明日から一緒によろしく頼む!妾が軍のエリア担当司令官だ!!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
突然現れたこの軍人たちに呆気に取られた俺は、どう応対して良いのか分からなかった。
『我が名は・・・マリナ・デルフィナーレ・アドリアだ』




