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第21章 覚醒前夜

シフォーヌは思った。

マジックメールがあるにも係わらず、手紙を持参させたホランドの意図・・・

私にこのを引き合わせることで、ジロータが私に課した責務を果たせということなのね。

ホランドは本当に抜け目ない人だわ・・・

でもそれも私が為すべき事柄なんでしょう・・・

私の知り得るすべてをこのに伝えゆくこと、それが天啓なのかも知れない・・・



手紙を読み終えたシフォーヌは、天井に目をやり小さな溜息をひとつ吐いた。

アニーは何も言葉に出来ず・・・ただそんな彼女を見つめていた。



「わかりました。ホランドへの返事は私からマジックメールで送らせてもらうわね」


「・・・はい」


「どうしたの?気になるの?・・・可愛いわねぇ~ふふっ」


「・・・はい」


シフォーヌが先ほどまでと明らかに違う表情を浮かべていたし・・・アニーは手紙の内容がすごく気になった。

そんなアニーの不安を察したのか、彼女は笑みを浮かべ優しく言葉にした。


「アニーさんのことをね、少し気にかけて欲しいって・・・ホランドらしいわ~」


「え?!わたしのことですか~・・・」


「そうよ~でもね心配しないで、アニーさんにとっては大切なことなの・・・」


そう言う彼女の表情は本当に柔らかだった。


「・・・・」


「大丈夫よ!何せ、私は英雄ヒュウガの妻ですもの~任せてちょーだい!!ふふふっふ」


シフォーヌは腕を折り曲げ力こぶを作るかのような仕草をして気分良さそうに笑った。

アニーはそんな彼女の笑顔に少し安堵感を抱いた。



・・・・・・・・



「アニーと呼んでもいいかしら?」


「あ、はい~光栄です」


「やめてよぉ~~そんなかしこまらないでちょーだい!私はあなと同郷の先輩。そんな程度に思ってもらえると嬉しいかも~ふふっ」


「・・・はい」


アニーは、少し恥ずかしそうに俯き加減に答えた。

シフォーヌはいつくしむような優しい瞳でアニーを見つめていた。


「ところで、アニーは私やジロータが何者か知っていますか?夫妻はダメよ~もう判っていることだから~ふふっ」


「何となく知っています・・・」


「知っていること教えて欲しいわ~」


シフォーヌはちょっと意地悪気に笑いながらアニーに問い掛ける。

そんな彼女の目を少し自信なさげに下から覗うようにアニーは見つめた。


「シフォーヌ様はハイエルフ、ジロータ様はハイヒューマン・・・昔話として祖父によく聞かされました」


「あらぁ~ホランドは失礼ね~昔話にしてしまうなんて、私はまだ生きているし現役なのに~~!」


「あうぅ・・・・」


アニーの言葉に彼女は心外だという表情を浮かべた。

その表情がとても可笑しく思えたが、返す言葉が見つからなかった。


「そうね。私と主人はハイエルフとハイヒューマン・・・だから外見の成長が止まった時点から今まで歳は重ねるけれど見た目は変化しないの」


「・・・・」


「アニーは知っていますか?ハイエルフはエルフの森でしか生まれないのよ。それも極稀にしか・・・」


「はい。それも聞いています」


「生まれた時から銀髪なの・・・それが証なのよ。普通エルフはアニーのように金髪蒼眼なんだけど・・・」


「シフォーヌ様の髪の色・・・とてもキレイだしお似合いです!」


彼女には本当にこの銀の髪が似合っている・・・アニーは素直にそう思った。


「何かねぇ~『魔女』っぽくて本当はイヤなの~」


「『魔女』なのですか?」


「そうよ~もう500年も生きてるし・・・実際のところ、他人から見れば『魔女』みたいなものなんでしょうね~ふふっ」


そう言って、笑いながら向けられる瞳が・・・まぶしく感じられた。

優しい眼差しって言葉は本当にシフォーヌの為にあるのかも知れない・・・アニーにはそんな風に思えた



・・・・・・・・


しばし笑いの中で時間を流した二人は、部屋をシフォーヌの寝室へと移した。

アニーはぐるりと部屋を見回し、シンプルな中にもおごそかさを感じる・・・そんな作りに溜息をもらした。


シフォーヌはアニーの素振りを傍目にしばし正面にある姿見を見つめる。


迷った。正直言って迷った・・・

ほんの少し躊躇ためらいもあった

この部屋までアニーを連れてきたのに、迷いも躊躇いも消えない。


今日の今日ってのは早いのかも知れない。

けれど、いつか導かねばならぬなら、今日が早いってことな無い。

明日に延ばしても、明後日に延ばしても・・・やらねばならぬことは同じだ。

シフォーヌは自分の頭の中にそう言い聞かせた。

後は彼女が現実をどう受け止めるかだ・・・



「はぅ・・・ここって、シフォーヌ様の寝室なのですよね?」


「そうよ~~普通は誰も入れないんだけど・・・アニーだけは特別ね!」


「えぇ~~!いいのでしょうかぁ~?」


「ふふっ・・・いいのよ!」


シフォーヌはベッド脇にあるチェアセットにアニーを座らせ、そして自身も腰かけながら目元を少し引き締めた。



「アニー・・・今から少し長いお話をするわね。聞いて欲しいの・・・あなたに!」


「・・・はい」


「アニーは人魔大戦を知っていますか?今から400年以上の前の話だけど・・・教えてもらいましたか?」


「祖父から触りは聞いています」


「そうね~第1次人魔大戦は、それはもう壮絶な戦いだったわ~人族も魔王率いる魔王軍も・・・」


「ジロータはハイヒューマンとして、私はハイエルフとして力の限り闘ったの。もちろんエルフ族も獣人族もドワーフやヒューマンの軍隊もみんな参加して・・・」


「魔王軍を追い詰めた人族軍団は、ジロータの最後の一撃で魔王を倒したわ。そして王家ゆかりの聖剣で魔王を封印したの・・・」


「それからしばらく・・・100年ほどは何も起こらない平和な時代が続いたわ~」


「ところが、魔族の中から魔王の封印を解く者が現れ・・・再びこの世界に放たれた魔王がうごめき出したの!」


「それが今から約300年近く前のことね。当然人族も立ち上がったわ~この地を蹂躙されるのは許すことの出来ないことだから・・・」


「第2次人魔大戦が始まったのよ・・・」


「それ知っています。祖父も参加したって言ってましたから~」


「そう、若き日のホランドもエルフ族を率いて参加してくれたわ~・・・そして結果は今の平和があるように人族側が勝ったの~」


「でもね、その時ジロータは考えたの・・・前回の失敗を!」


「魔王を聖剣で封印するだけでは足りない。だから自らを監視役として、自分自身をその聖剣に封印することにしたの・・・」


「私は悲しかったわ~~もう逢えないのかと思うと・・・」


「・・・・」


「でもね、ジロータが言ったの!自分を封印することは死ではない。お前の隣にいることはできないが、お前に語りかけることはできる。だから泣く必要はないって!」


「・・・・」


「そして、こう付け加えたの・・・今から何百年後かは判らぬが、必ず現れる俺たち二人のような者をお前の力で導き見守ってやれ、それが俺たち二人に課せられた『宿命』であり、この世界のコトワリだって・・・」


「男の人って勝手よね~女の気持ちがわかってない・・・」


「でもね~決めたの!次に現れるハイヒューマンとハイエルフを私が導こうって、それが私の責務なんだって!」


シフォーヌは絶えず笑顔で話しながらも優しい瞳には涙をにじませていた。

アニーは胸が締め付けられるようで、どこか刹那(せつな)くなってしまた。


何故今この話を自分にしてくれたのか、その真意は見えてこない・・・けれど、彼女がこの先為すべきことに決意していることだけは理解できた。


「時々ね・・・ジロータが頭の中へ語り掛けるのよ~ちゃんと責任果たしてるかって!ふふっ」







「アニー・・・この姿見の前に立ってごらんなさい」

「これは『真実の鏡』っていうの・・・本当の自分に出会えるから!」

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